映画レビュー(11)「海よりもまだ深く」

「海よりもまだ深く」(是枝裕和 監督作品)

(2017年 06月 27日 「読書記録゛(どくしょきろぐ)」掲載)

 先日機会があってこの映画を見た。是枝作品は「誰も知らない」が印象深く、以前このBLOGでも記事化した。
「海よりもまだ深く」は2016年5月公開の作品である。
 映画は、団地のアパートの一室で亡き父の会葬御礼を書いている長女(小林聡美)と老母(樹木希林)の会話から始まる。亡父が書の達筆な文化人風ではあるが生活力のない困った人だったことが語られる。
 そこへ長女と入れ違いにやってくる息子の良太(阿部寛)。島尾敏雄文学賞(架空の賞)を受賞した後、泣かず飛ばずの純文学作家である。小説のネタ探しと称して現在は興信所の調査員をやっているが、離婚した妻に払う養育費にも事欠く有様だ。
 元妻(真木よう子)への未練捨てがたい良太。ギャンブル好きで調査費用をかすめて競輪にうつつを抜かす良太を後輩調査員の町田は慕っている。息子への愛情を忘れない良太に「父」を見ているのかもしれない。良太の「父」としての映画なのだが、町田は「息子」としての目線を担っているのかもしれない。父を知らずに育ったのかもと思わせる。
 月に一度の息子との日曜日に、家族は再びアパートの老母の元で一泊する。
 ばらばらになった家族を危ういところで緩やかにつなぎ止めている老母の存在の大きさを、樹木希林の押さえた演技が静かに伝えてくる。真木よう子の苦労を一番知っているのは、同じような男と夫婦になった樹木希林だからである。これを自覚している老母のいかに少ないことか。
 なりたかった大人になれなかった大人たちが、それでも折り合いをつけて人生を生きていく。
 映画は、台風がくる予報で始まり、台風一過の晴天の朝で幕を閉じる。危ういバランスをとりながら、それでも家族は生きていくのだと思わせてくれる。佳品である。
 阿部寛演じるところの篠田良太の造形に思わず苦笑。
 マイナーな文学賞を受賞した後、鳴かず飛ばずのまま50代になり、小説の取材と称して探偵業で糊口をしのぐが、子供の養育費にも四苦八苦。
 これが、テレビドラマの原作募集で佳作入選した後、鳴かず飛ばずで50代になり、小説のネタ探しだと自分に言い聞かせて苦情電話対応業で糊口をしのぐが、国保と年金の支払いにも四苦八苦、という俺自身の境遇とかぶりすぎていて、鏡に映った自分を見るがごとし。洒落になりません(苦笑)
 でも、そんな自分の人生を、「これもありだ」と思えるようになるのが大人なのであろう。俺も大人になったなあと思う。


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