note_カンボジア病院

カンボジアで病院をつくるということ

こんにちは!
メプラジャパンCEOの佐藤創(さとうはじめ)です。

先日、「私の原点」という記事を書きました。
自分のことを語るのはなかなか苦手なのでちょっと恥ずかしかったですが、友人をはじめ多くの方々に読んでいただけたようで色んなコメントをいただきました。

そんな中でも多く聞かれたのが、「カンボジアでどうやって病院をつくったの?」「なにが大変だった?」という質問。

その質問の明確な答えになるか分かりませんが、私の実体験をもとに、日本の医療の海外展開のひとつの事例(のさらに一部)としてお話してみたいと思います。


どんな病院をつくったのか?


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(Sunrise Japan Hospital Phnom Penh)

カンボジアの首都プノンペンにて、「サンライズジャパンホスピタル」を開院しました。東京の病院グループ KNI(北原国際病院など) の北原先生が発起人となり、日揮株式会社・産業革新機構との共同出資で設立された民間病院です。

日本人医療スタッフと、十分なトレーニングを受けたカンボジア人医療スタッフによって国内トップレベルの医療サービスを提供しています。

診療科 (病院 HPより)
救急センター:救命救急科、外傷外科、感染症科
総合診療センター:総合内科、一般外科、消化器科、循環器内科
脳卒中・脳神経外科センター:脳神経外科、脳血管内治療科、神経内科、リハビリテーション科
健康診断センター
小児科センター

この病院プロジェクトには数多くの方々が関わっており、開院時のローカルメンバーを入れると数百人(明確に分からないぐらい)。非常に多くの方々の貢献によって設立されました。

その中で私は、医療者ではないビジネスサイドの立場で、オープンまでの立ち上げに携わりました。オープンしてからの運営にはあまり関わっていないため、今日はオープンまでの「0→1」の部分を中心にお話したいと思います。

カンボジア移住、最初のプロジェクト

2012年、カンボジアに移住しました。(その経緯は以前の記事にて。)

当時のカンボジアには日本人も少なく、大きなイオンモールもないし、直行便も飛んでいない。もちろんGrabとかも無いのでいつもトゥクトゥクと値段交渉したり盗人から身を守ったり。なかなかスリリングでした。


プロジェクトの初期調査は2009年、カンボジアでの調査が本格したのは前年の2011年から。私はカンボジアでの調査から参画する形で移住しました。

病院を開院するための様々な調査、それに付随するクリニックの立ち上げ・運営を行いながら、大目標となるサンライズ病院のオープンに向けた準備をしていきました。

当時は病院の場所も決まっておらず、出資者も決まっておらず、発起人の北原先生の大きな夢とビジョンを形にする方法を模索する毎日。

そんな中の、私にとって 1つ目の大きなプロジェクトが脳卒中患者に対する診療・リハビリテーションを提供する「Kitahara Japan Clinic」の開院です。

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日系資本 100%で、日本人医療者による医療をカンボジア人に対して提供する。そんな試みをスタートしました。

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(看板設置時。当時25歳には見えないほど老けてました、たぶん。)

カンボジアの特殊な医療背景

カンボジアのイメージというと「地雷」「内戦」が強いのですが、20世紀中頃までは「東洋のパリ」と呼ばれるほど発展していたそうです。医療も発展しており、芸術文化も多様だったようです。

しかし、1970年から1993年まで続いた内戦によって一変しました。

ポル・ポト政権による大虐殺では知識階級から順に虐殺され、眼鏡をかけているだけで殺されたと言われています。医師もその虐殺の対象となってしまい、内戦前には1000人ほどいた医師は、内戦後にはたった 30人に。(人数は諸説あります。)

専門知識・技術を持った医療者が不足し、また医療者を指導・育成するための医師や教師もいなくなりました。医療が崩壊してしまったと言っても過言ではありません。

そのため、終戦後には世界中の多くの国際機関・NGOが支援に入り、医療を含む国の立て直しが始まりました。外国人の医療者も復興を支援し、また海外に亡命していた医療者も帰国してきました。徐々に医療環境も改善されてきました。

しかし内戦が終わって、まだ20数年。
経済は高度成長して街中にも高層ビルが立ち並ぶようになっていますが、医療の発展はまだまだ十分ではない現状があります。

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なぜカンボジアで病院を?

東南アジアの中で、なぜカンボジアを選んだのか?
良く聞かれる質問です。具体的な話は発起人・北原先生の著書「病院がトヨタを超える日」でも紹介されていますが、主なポイントは次の 3点です。

・医療資源が圧倒的に不足している
・外資規制がゆるい
・競合となる医療機関が少ない

特に高度な医療を受けることができる医療機関が少なく、当時で年間20万人以上のカンボジア人がタイ・ベトナムなどの周辺国へ医療渡航をしていました。

しかし、交通事故や脳・心臓に関わるような病気は、早急な治療が必要とされます。周辺国へ搬送する時間もお金も余裕はありません。すぐに適切な治療ができる病院が必要でした。

また、医療渡航によって患者さんが支払う医療費は周辺国に流れていきます。カンボジア国内で高度な医療を提供することで適切な対価をいただき、そのお金を医療者育成や貧困層支援などの形で国内で循環させていく。医療の提供と人材開発を目指してカンボジアでの病院プロジェクトがスタートしました。

前提がちがう異国での医療サービス提供

まずオープンした「Kitahara Japan Clinic」では、医師による診察と理学療法士によるリハビリテーションを提供していました。

大変だったことは山ほどありますが(笑)、日本と大きく違うのは「値決めを自分たちで行うこと」です。

日本では診療報酬点数という形で、提供する診療行為ごとの点数=値段が統一されています。それが当たり前とされている日本と異なり、カンボジアや海外では値段はバラバラ。医療機関によっても違うし、医師によっても違うし、患者の国籍や所得によっても値段は違います。

自分たちで値付けをしようにも、それが現地の人にとって高いのか低いのか分からない。市場調査や競合調査をしながら、値段やメニューの変更を試行錯誤しました。


クリニック運営にあたっての私の役割は、受付、診療補助、医薬品などの調達、ライセンス関連など法務、税務・会計、採用・労務管理、ITシステム管理、・・・・、などなど、必要なことは何でもやりました。笑

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(カンボジア人スタッフの教育研修なども)

日々起こる数々の事件・問題への対応が求められ、不確実性の高い状況下での問題解決能力を高めることができたと思います。精神と時の部屋、みたいな感じでした。

いざ、病院オープンに向けて

クリニックの運営に携わりながら、病院オープンに向けての調査や準備も着々と進んでいきました。

大きなイベントとしては、2013年、安倍首相のカンボジア訪問にあわせて企画されたカンファレンスの開催。病院オープンに向けて日本・カンボジア両国の政府による全面的な支援を得るため、省庁の大臣などにもご参席いただきました。この企画と各種調整がものすっっごく大変でした。

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(カンファレンスの様子:引用元

このような政府による支援が必ずしも必要というわけではないとは思います。しかし、まだまだ法規制が曖昧で汚職もあるような国においては、それを回避して迅速な立ち上げを進めるためには有効な手段だと思います。


ちょうどこの頃、「日本の医療を輸出する」という医療のアウトバウンドの気運が高まり、プロジェクトの追い風になりました。

そして2013年末、病院運営のための新会社設立が正式に発表され、プロジェクトが大きく進み出しました。

優秀な医療人材がカギ

このタイミングからプロジェクトメンバーも増えてきました。必要な機能ごとにチーム化され、私は特に人材採用とマーケティングをメインに注力。

医療を提供する医療人材の採用は非常に重要です。しかし、先に述べたように内戦の影響がまだ残るカンボジアにて、優秀な医療人材を採用することは難しいことでした。そのため、ベテランに限らずフレッシュで優秀な人材の採用なども進めました。

求人サイトや各種メディアでの募集、医療者育成機関との連携など考えられることは一通り実施し、多くの医療者から応募をいただくことができました。何千枚も履歴書を見て、その中から 1000人以上と英語での面接・選考をおこないました。

そして、素敵なメンバーを採用することができました!!

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Sunrise Japan Hospital、オープン!

2016年10月、ついにオープン!!

開院式にはカンボジアの医療関係者・政府関係者など2000人以上が来場され、現地の多くのメディアでも取り上げられました。
※ 当日の様子:JOIN 記事

カンボジアの多くの方々に歓迎され、ものすごく嬉しかったです!

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さいごに

私はいまは医療機関よりもヘルステック分野への関わりが強くなっていますが、私にとってはこの病院の立ち上げに携わったことが仕事・人生のベースになっています。

このプロジェクトの中で出会った多くの患者さんや医療者との関わり、一緒にオープンに向けて走ったメンバーたち、沢山の成功と失敗。貴重な経験を沢山させていただき、そのすべてが私を成長させてくれました。

この場を借りて、貴重な機会をくださった方々、応援していただいた方々に感謝させていただきます。

ありがとうございました!!
そしてこれからもよろしくお願いします!


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* サンライズジャパンホスピタル
・ホームページ http://www.sunrise-hs.com/index.php/jp/
・採用ページ http://recruit.sunrise-hs.com/

最後まで読んでいただき、ありがとうございます! より良い記事をお届けできるよう日々情報アップデートしていきます。