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えらぶん:のこすん:つなげるん 【プレイバック!はじまりの美術館17】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。

スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館


えらぶん:のこすん:つなげるん

会期:2018年7月21日 - 2018年10月21日
出展作家:乾 久子、大路 裕也、佐藤 悠、根本 将、ハーモニー、久松 知子、藤 浩志

主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
助成:日本財団
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/erabun-ten/

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大政:はい、今回は第15回企画展「えらぶん:のこすん:つなげるん」です。プレイバックとしては17回目となります。

小林:この展覧会はアーカイブ事業の一環で実施したものですね。そして、担当は大政さんでした。「アーカイブ」ということを意識して企画を立てたと思いますが、その趣旨あたりからいかがでしょう。

大政:はい。アーカイブに関連する展覧会を企画するのは2回目で、前回は「青木尊大物産展」を企画したのですが、その時は1人の作家に注目して、その作家をアーカイブしていくっていうような形でした。今度の展覧会はもう少し広く、「アーカイブ」っていうことを身近に考えられるような展覧会ができないかなと思って企画しました。タイトルの「えらぶん:のこすん:つなげるん」なんですが、そのまま、「選ぶ」と「残す」と「繋げていく」っていうことがキーワードになっています。

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岡部:この企画の着想は、実際のアーカイブ作業の中から得られたと思いますが、そのあたり、もうちょっと詳しく話してもらえますか。

大政:アーカイブの作業をやる前はアーカイブは「残すこと」っていうイメージがすごく強かったんですよね。でも実際に作業してみると、「どこからどこまでを残すか」とか、「何を残していくか」みたいな「選ぶ」作業がものすごく過程にあるんですよね。本来のアーカイブはきっと、あまり取捨選択せずに全部残すってことが基本にあると思うんですけど、それでも残す部分には選ぶっていう作業は必ず生まれてきています。他にも、残すだけじゃなくって情報にアクセスできる環境を作ったりだとか、誰かにつないでいってもらうみたいな。そういうところがやっぱり大事なことなんだなという実感がありました。これは別にアーカイブ作業だけの話ではなくって、私たちが日々過ごしていく中で生まれる文化とか、大切なものも、自分たちが選んだり残したりしながら今に繋がっていて、それをまた次世代に繋げていくんだなということを思いました。

小林:アーカイブということを広くとらえた企画でしたね。ちなみにこのタイトルの「ん」とコロンはどんな意図があったんでしたっけ。

大政:私は企画を担当しても、タイトルを決めるのがものすごく苦手で、いつもスタッフみんなでたくさん出し合うんですよね。夏の企画なので、堅苦しいものよりも楽しそうな感じを出したいっていうことで「ん」をつけた気がします。その間にあるコロン(:)は、選ぶと残すと繋げるっていう行為同士が、行き来するような関係で、互いに作用し合うようなイメージでつけました。比率みたいなイメージです。

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小林:「アーカイブ」=「えらぶ:のこす:つなげる」たいな感じですよね。毎回冒頭で聞いてますが、まずこの展覧会を企画するにあたって、思い描いた作家はどなたでしたか。

大政:趣旨文にもあるんですけど、様々な選択を経て生まれた作品や、私達に選ぶことを投げかける作品を紹介したいなと思って作家の方を考えました。最初は体験型というか、プロジェクトの方が思い浮かびました。具体的には、乾久子さんの《くじびきドローイング》ですとか、佐藤悠さんの《いちまいばなし》などですね。一見アーカイブとは離れているように見えるかもしれないですが、すごく繋がる部分があるなと思って提案しました。

岡部:乾さんは入り口付近で参加型の作品展示でしたが、会期終盤には参加者が残した作品が壁を埋め尽くして凄いことになってましたね。

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小林:作品としては誰でも参加しやすいシンプルな仕組みでしたよね。くじを引いてそこに書かれた言葉を絵にする、そして次の誰かのためにまた言葉を書いてくじを作るという。思ってもみなかった言葉を引いたときに描かれた絵ほど面白かった印象があります。何かちょっと少しひねったお題を作る方も多くて。

岡部:引いたくじの言葉からイメージする絵を描くことばっかりじゃなくて、次の人に想像してもらうための言葉を残していくっていうのがミソですよね。もう皆さん、とても熱中してっていうか、どちらの作業にもじっくり時間を使って取り組まれてたのが印象的でした。

大政:乾さんはこれまでもいろんなところで《くじびきドローイング》をされていて、そこで生まれたものや活動をとても大切にされています。今回の展示でもこれまでの歴史を「すごろく」っていう形にしたり、ホームページ上でも「くじドロ」を体験できるような仕組みがあったりとか。あとはテーマソングのCDなんかもあったり、いろいろな展開をされていて面白かったです。

岡部:作家の乾さんが何かをするっていうよりも、参加する人同士が繋がっていくリレーのような感じでしたよね。はじまりの美術館が目指している、人が繋がっていくようなイメージもあってとても親しみのある作品でしたね。

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岡部:そして、リレーといえば、佐藤悠さんの《いちまいばなし》もリレー形式の作品でしたね

大政:佐藤さんは乾さんと似てるようでちょっと違っていますね。佐藤さんが噺家のような口調で、「次はどうなった」「それからどうした」みたいな感じで、どんどんお話の続きをそこにいるお客さんに振っていって、その場でそこにいるみんなでお話を作るっていう形の作品でした。何か「その場性」みたいなものが強い作品でしたね。

小林:会期中、何回か佐藤さんに来ていただいて《いちまいばなし》の実演をやりましたね。最初のお題を決めて、集まった人で話を膨らましていくっていうのは、なんていうか自分たちもどう話が転がっていくかってことが分からなくて面白かったですね。ただ逆に展示の面では佐藤さんご本人もいろいろ悩みながら様々な形で残していたのも印象的でした。

岡部:そうですね。佐藤さんが考えるアーカイブという形も、この企画にとても親和性がある作品だったと思います。そしてなんといっても、佐藤さんの話術が素晴らしいですよね。

大政:初めてお会いしたときからタレントみたいな方だなって思ってます。一応オープンソースみたいな形で《いちまいばなし》は誰でもやっていいという形にはなってるんですけど、しゃべりながら話を振ってまとめていくには、かなりの訓練が必要だなと思いました。

小林:佐藤さんがやられている《知ったかアート大学》なども、本当に佐藤さんだからこそできる作品だなと思います。

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大政:そして、佐藤さんの部屋を抜けた一番奥の部屋は、藤浩志さんに《ぬいぐるマックス》という作品を展示いただきました。藤浩志さんは憧れの方で、いつかご一緒できたらいいなと思っていたので、今回ご出展いただけて良かったと思う方のお一人です。

岡部:もう、部屋を埋め尽くすぬいぐるみに子供たちもテンションMAXで、大人気の展示でしたね。

小林:今回のぬいぐるみは、宮城の「えずこホール」さんが毎年《かえっこバザール》をやられていて、そこへ取りに行けばいいよってご紹介いただきましたね。えずこホールさんには本当に沢山のぬいぐるみが保管されていて、美術館に持ってきたのもまだほんの一部でしたね。えずこホールの方々と知り合えたのもすごくよかったなって思います。

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岡部:藤さんは秋田公立大学で今教鞭をとられていらっしゃいますけども、藤さんがいうには《かえっこバザール》は「OS」という言い方をされてましたね。

大政:アーティストが作品を作るっていうと、キャンバスになにか描いたりとか、立体を作ったりみたいなイメージがあると思うんですけど、藤さんの時代以降、何か形を作るんじゃなくて「仕組み」を作るみたいな方が増えてきています。やっぱりそういう意味では革命的なアーティストの1人だと思います。乾さんの「くじドロ」もOS的ですね。

小林:藤さんにはトークイベントでお越しいただいきましたね。藤さんがもともとそういった仕組み的な作品が得意な方だというのは知っていたんですが、お話を聞くとアーカイブの人なんだなっていうのが分かりました。Webサイトも、本当に自分がデビューした頃からのことなどが全部書いてあったりとか。「あるときからもう何も捨てない」っていうルールを決めたってお話ありましたよね。ぬいぐるみを集めたりとかプラスチックのおもちゃを集めたりとか。その時は実は具体的にどうなるかは考えてないけど、集まったものを見返したときに作品になるというか。それを聞いて本当にアーカイブに繋がることをやってらっしゃる方なんだと思いました。

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大政:今回の《ぬいぐるマックス》では、ぬいぐるみがいっぱいの空間で何をやってもいいよっていう感じにしましたね。道具は少し制限があったんですけど、そこにあるものからお客さんがいろいろ選んで、同じ種類のぬいぐるみを集めたりとか、新しいものを生み出したりとか、すごく創造的な場が生まれていて面白かったです。

岡部:ワニを作った方、すごかったですよね。

大政:たしかナイトミュージアムの日だったと思いますが、お二人で来られたお客さんが、一番奥の部屋まで行かれてからずいぶん時間が経ったなと思って様子を見に行ったら、緑色のぬいぐるみを集めて、すごい大きなワニを作っていてびっくりしましたね。

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小林:たしかにあれはクオリティも高かったですね。藤さんがアーカイブ的なものをある意味社会に広げるような方だとしたら、逆にその個人史的なアーカイブを作品にしたのが久松知子さんだったのかなと思ってます。

大政:そうですね。久松さんには今回《思い出アルバムpainting》というシリーズと《ぷいーん》という、赤べこをモチーフにした作品のシリーズを展示いただきました。
《思い出アルバムpainting》は、スマートフォン端末で撮られた日常の写真を絵に起こされていて、《ぷいーん》は独特な形をした赤べこが世界各地・日本各地をいろいろ旅して回っている様子の作品です。

小林:思い出とか、アーカイブっていうことでは、写真を撮ってる時点である意味一つの役割を果たしていると思うんです。でも、写真をさらに絵画にした久松さんの作品は、なぜか不思議なリアリティを感じるんですよね。ご本人はステイトメントの漫画で、いつかこの《思い出アルバムpainting》の蓄積が彼女の画家としての立ち位置を表すものになっていくんじゃないかみたいなことをおっしゃっていて、どうなっていくのか楽しみです。

大政:そうですね。久松さんは《レペゼン 日本の美術》っていう作品群で、第18回岡本太郎現代芸術賞の「岡本敏子賞」を受賞されたことも話題でした。そのときの作品はこれまでの日本の美術史っていうものを構築してきた作家や批評家の方々をひとつの絵画の中で構成し、その中に小さな久松さんも描かれているというような作品でした。そこからの《思い出アルバムpainting》という作品への流れで、久松さんの等身大の日々の様子が今に、そしてこれからにつながるような姿がすごく印象的でした。

岡部:久松さんは喜多方でも様々なプロジェクトを実施されていますね。

大政:そうですね。地域の方々といろいろ楽しいことをやられている様子がSNSなどでうかがえます。「たべるとくらす」展に出展された浅野さんと「画廊 星醫院」で2人展もされたりとか、最近はぷいーん作品がお酒のラベルになっていて気になってます。

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岡部:久松さんが、パラレルな世界を描いてるっていうようなお話もありましたが、パラレルといえば、妄想の世界だったりとか空想の世界と現実を行き来しているような、そういう「カルタ」も展示しましたよね。

大政:《幻聴妄想かるた》を展示したハーモニーさんですね。ハーモニーさんではカルタを皆さんで作られていて、メンバーの皆さんが実際に体験した幻聴や妄想のエピソードが元になっていたりします。あと今回展示した《幻聴妄想かるた》では、ハーモニーさんがいろんな場所で行なったカルタワークショップの中で出てきた一般のお客さんの幻聴や妄想のようなものも札になっています。そのかるたを全てパネルにして展示したのと、あと実際に遊べるようにしたり、さらには齋藤陽道さんが撮影したハーモニーの日常の様子の写真なども展示させていただきました。

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岡部:ハーモニーの皆さんにご来館いただいて開催したワークショップも楽しかったですね。

小林:そういう幻聴とか妄想とかを、それぞれ当事者同士で共有する当事者研究っていう形はいろんなところでやってると思うんですけれども、やはりこのハーモニーの面白いところは、それをさらに外に開こうって言うことで、カルタにしたところですよね。

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岡部:そうですね。普段だったらマイナスイメージというか、プラスには捉えられず、診断の対象と思われている幻聴であったり妄想をクリエイティブに捉え直すっていうか、いろんな人に開いていく。そんな力のある作品でしたね。

大政:一つ一つの読み札を見ると思わず笑ってしまうようなものがあったり、ちょっと切なくなってしまうものがあったり、皆さん1人1人の世界を垣間見れるような素敵なカルタだなと思います。今ちょっとどうなってるかわかんないんですけど、5月の時点ではハーモニーさんは活動をお休みしていて、オンラインでメンバーさんたちが繋がりながらミーティングを重ねていって、コロ休みっていうことで、缶バッチを作られたりとか、またいろいろ発信をされています。

小林:ハーモニーさんの展示室から出たところでは、やまなみ工房の大路裕也さんの作品を展示しましたね。もうすごくカラフルな作品ばかりでユニークな形の作品なんですけれども、タイトルを見ると全然見た目と想像つかないような、ある意味妄想から出てきたみたいな作品でしたね。大路さんを今回のえらぶん展で選んだ理由はどこだったんでしょうか。

大政:大路さんを選んだ理由は大きく二つあって、一つは、ぱっと見たときの絵の印象と、大路さんがつけるタイトルのギャップみたいなものが面白くっていろいろな想像力をかき立てますが、大路さんはその中で一つ「これ」っていうものを選んで表現しているんだなっていう、そういう姿勢みたいなものに魅力を感じて選びました。
もう一つは、大路さんの表現の手法といいますか、全てペンやアクリル絵の具を使って表現されているんですけど、どこから描き始めたかわからない、そしてブロックやビーズのようなものがつながっている表現が特徴的です。その表現が、今回の展覧会に合うのかなと思ってお声掛けさせていただきました。

小林:ほとんどの作品は、目・鼻・口を描いてから先に進めるっていうふうに伺いました。でも、出来上がった作品を見ると、どこが目で口なのかっていうのは、そこまでわからなくて。もう一つ、やまなみ工房の方がおっしゃってたのは、結構周りで見てる人とか、一緒にいる人を意識しながら描いているそうなんです。自分をどう見せるか考えたながら、そのときの気持ちで筆の運び方なんかも変わって、こういうユニークな形になるんじゃないかななんてことも思いました。

岡部:作品をお借りに伺ったときも、とてもサービス精神の旺盛な方で、大政さんはなにか描いてもらってましたよね。

大政:はい、大事に保管しています。私が描いてもらったのは顔でしたが、すごくキュートな感じでした。あそこから、今回展示させていただいたような、描き込んだ作品となるギャップもすごい面白いです。

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岡部:そして、最後に紹介するのはアーカイブ作業の中で出会ったと言っても過言ではない、根本さんですね。私もunicoの活動には長く関わっていましたが、勤めていた事業所が違うこともあってこのアーカイブ事業を通して初めて知りました。

大政:根本さんは、本宮市にあるビーボという事業所を利用されている方なんですけど、このアーカイブ事業を始めたときにスタッフが誰かに伝えたい残したい作品を持ち寄ろうって選んだ中で出てきた作家の方でした。その時点ではどこかの展覧会に出たこととか、何かの商品になったことはなかったんですが、ビーボの中で絵を描いているっていうことで「ルーキー枠」という形でご紹介させていただいてました。根本さんは、視覚に障害がある方でもありまして、そうですね、線を重ねたような表現を描くんですけど、描く過程にはなにかグッと引き寄せられるものがあります。何だろう、画材であるクーピーを1本ずつ触りながら選ぶように描いていくんですよね。

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小林:根本さんは「ちがうかも展」の佐久間宏さんのときと同じで、やはり描いているときの様子であったりとか、あと周りの支援員の方が根本さんのことを伝えないと気づかれにくい方だと思いました。作品だけで見てしまうと、なかなか良さというか、強さみたいなのが伝わりにくいのではと思ってしまうのですが、どうなんでしょう。

大政:作品だけだともしかすると目に留まりにくい作品かもしれませんね。ですが、よく見ると「おや?」と気になる作品かなと思います。ひとつの紙の中での密度や線の重なりのバランスがとても独特で、そういった面白さを感じます。

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岡部:そうですね。なんか本当に作品だけを見ると、一見いろんな色の線がけっこう無作為に描きなぐられているというか、これは何を表現したのかなってちょっと思ってしまう感じがしますが、制作の過程だったりとか、根本さん自身を知っていくことで見え方が変わる。そういうことも含めた作品でしたね。

小林:そうなんですよね。根本さん自身は描くことが好きで、しかも映像を見ると、明らかに色を選んでるんですよね。目が不自由なはずなので、何を手掛かりに選んでいるかわからないんですけれども。何か手に持ってちょっと描いて、でもなんか違うなって思って違う色に持ち替えて、みたいなことが見て取れて、なんていうか見入っちゃいましたね。

大政:映像も私が撮影に行ったんですが、根本さんの絵を描く様子っていうのは惹きつけられるものがありましたね。根本さんは他にも、おもちゃの車を分解することだったり、ボールペンのもぎ取りとか、組み立ての作業もめちゃくちゃすごい速さでされてるそうです。いろんなことをされてるんですけど、その中でもやっぱり絵を描く時間は根本さんにとって特別な時間なのかなと思いました。

小林:そういう意味でも「unico file」っていうアーカイブサイトは、作品だけじゃなくて、やっぱり制作されている方を何とか伝えようということで、いろんなキャッチコピーをつけたりとか、全身の写真なんかも載せたりとか。そういう試みで、サイトを見る人との距離を縮められてるのかななんてことも感じますね。
また、今回はこの企画展の関連イベントという形で、ずっとやりたいと思っていた街の中に飛び出す企画「まちなか美術館」を、このunico fileのサイトを使って実施しましたね。

大政:「えらぶん:めぐるん:まちなか美術館 〜unicoたちが飛び出した!〜」っていうタイトルで、猪苗代町内でunicoの作品を展示いただくという企画でした。まちなか美術館という形は、アール・ブリュットに関連する催しでもいろんな場所で実施されています。何か特色を持たせたいなと考える中で、この展覧会のタイトルにもある「選ぶ」っていう視点から、町内の方にunico fileのサイトを見て自分のお店に飾りたい作品を選んでいただくっていう手法をとりました。それまでは掲示をお願いするチラシやポスターをお持ちしたときに世間話をするような間柄のお店が多かったんですが、どういう作品が好きなのかとかお店の方の違った一面を知るきっかけにもなりました。

岡部:それと、展示した作家さんがそのお店を訪れたりして交流も生まれてましたね。

大政:そうでしたそうでした。森陽香さんとか宮野さんですね。お店に自分の作品を見に行ってまたそこで交流していました。

岡部:なんかお店の方の話を聞くと、改めて障害っていうことについても考える機会にもなったっていう話も伺えて、いろんな意味で実施できてよかった企画でしたし、また継続していけるといいなと思いました。

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小林:今回はまちなか展でもMAPやフラッグを作ってもらったりしましたけども、展覧会全体のデザインを担当頂いたフライデースクリーンさんには、本当にいろんな物を作ってもらいましたね。

大政:今回初めてご一緒させていただいたんですけど、鈴木さんと坂内さんには、いろいろご提案をいただきながら一緒にお仕事させていただけて良かったです。記録集もスナップ写真とかも入って賑やかになりました。

小林:記録集には横浜にある地域作業所カプカプの施設長でもある、鈴木励滋さんに寄稿いただきましたね。なんでしょう。もちろん今までの方の寄稿もそれぞれ良いのですが、鈴木さんは指定した文字数を大幅に超えるような熱量のある文章を書いていただきましたね。毎回記録集って形なのでどうしても開催後の製作になってしまうんですが、会期中にこの文章を公開できていたらさらに展覧会に注目が集まったんじゃないかななんて思う文章でした。ちょうどハーモニーのワークショップ開催日に見に来ていただいて、イベントも参加いただきましたね。もともとハーモニー代表の新澤さんともお知り合いでしたが、福島で会えたことを喜ばれていましたね。

大政:そうですね、鈴木励滋さんにも大変お世話になりました。私たちのやっていることを改めて見つめ直していただきつつ、さらに背中を押していただいたような文章でしたね。

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大政:他にも今回の関連イベントでは、「ばんかたミュージアム」という名前でナイトミュージアムを開催したり、毎年恒例、猪苗代民話を語る会の鈴木清孝さんの民話語りも開催しました。「選ぶ」「残す」をテーマにした語りと、夜の部は会津の怖い話っていうことでいつも無茶ぶりに対応いただき本当にありがたいです。


小林:清孝さんは毎回企画のテーマに合わせて、お話を考えてきていただいたり本当に嬉しいですね。

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小林:アーカイブ事業の一環ということで実施した企画展でしたけれども、なんですかね。そのアーカイブっていうことを普段なかなか考えないよねっていうところから始まって、でも実は日常的にみんなアーカイブ的なことをしているっていうようなことを感じてもらうというか、知ってもらうみたいなところもあったかなと思います。

大政:そうですね。何か発表することに意味があるとか、特に美術館ですと展覧会を開催して、そこで紹介されたアーティストに注目される場所だと思うんですけど。やはりそれをいいなと感じて受け止める人がいないと、残っていかないなっていうのは絶対あると思っています。私たちのような美術館の人たちだけが「この人たち良いですよ」「面白いんですよ」って言ってるだけじゃ、続いていかないと思うんですよね。だからやっぱり、美術館の中でもそうだし、もっと日常の中で暮し方とか、生き方みたいなものもみんなが良いなって選んだものが残っていくと思っています。そういうことを意識的に選んでいける人たちが増えるといいなと思うところです。

小林:アーカイブの面白さって、結構そのときに気づいてもらうこともあれば、すごく後になって、言ってしまえばその方がもういなくなってから、残っていることで評価されたりすることもありますよね。それが何かこう、面白さというか、魅力なんだろうなと思いました。
このプレイバック企画もある意味アーカイブだと思うんですが、休館期間中にできることを模索した企画でもありながら、これまでやってきた企画展がまた違う形で光を当てられたりするのかなって思うともっと頑張ろうっていう気持ちになりますね。

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