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オソレイズム【プレイバック!はじまりの美術館 9】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。


スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館

オソレイズム

会期:2016年7月16日〜2016年11月7日
出展作家:小津 誠、金子富之、鎌田紀子、神林美樹、久保寛子、小中大地、齋藤陽道、魲万里絵、山際正己
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/osoreism/

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小林:それでは、9つ目の展覧会「オソレイズム」展について振り返ってみましょう。この展覧会は、最初の「手作り本仕込みゲイジュツ」展を除くと、開催期間は最長で、かつ観覧者数(1日あたりの平均観覧者数含めて)も一番多かった展覧会となっています。さっそくですが企画を担当した岡部さん、オソレイズムの趣旨をお話いただけますか?

岡部:はい。この展覧会も、企画ラッシュした中に入ってた感じでしたね。当時、アニメだったりとか、ゲームだったりとか、いろんなところで「妖怪」が流行っていました。また、ここ猪苗代地域では「足長手長(あしながてなが)」や「猪苗代城の亀姫」っていう有名な民話があったり、いろんな妖怪譚があったりすることでも知られていたので、どこかで妖怪をテーマにした展覧会をしたいなって思っていました。

小林:関連イベントでも、外のお墓の前で猪苗代民話の会の鈴木清孝さんに会津の妖怪や幽霊をテーマにした語りをやっていただきましたね。

岡部:あれも好評でしたね。そして、この企画は「妖怪」っていうことだけじゃなくて、なんて言ったらいいのかな……原発事故に対する不安とかが偏見として出てきたりとか。同じような形で「障害」っていうものも知らないことからくるオソレっていうんですかね。そういうところから生まれる差別だったりとかも下敷きになっています。そのような考えを入れながら企画の組み立てをしていったことを覚えてます。

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小林:そうでしたね。放射能もですし、今で言うと、新型コロナウイルスもそうですけど、見えないものとか知らないものを怖がるというかおそれるというところも、あまり表に出していませんでしたが、ありましたね。

大政:趣旨文にもありますが、一言に「オソレ」といっても、「恐れ」「怖れ」「畏れ」……いろいろなオソレがありますね。下げたり、遠ざけたりするだけじゃなく、敬うような意味でのオソレもあったり。

岡部:オソレとか、そういう人の心理っていうのはマイナスのイメージも喚起しますが、それとは別に、想像力も掻き立てるもので、そこから人が発想していろいろな姿だったりとか物語みたいなものが生まれるところもこの企画の一つの魅力になってたかなというふうに思います。

大政:今回の9名の出展作家の方は「オソレ」をテーマに考えて、美術館のスタッフでお声がけをさせていただいたみなさんなんですけど、それぞれの創作の原動力は様々でしたね。例えば、ゴブリン博士こと小中大地さんは「ゴブリン」っていう妖精をいろいろなものに見出すことをしています。そうすると、本当に身近にあるいろんなものがゴブリンに見えてきて。想像力で、いろんな人が楽しめる視点をつくるアーティストだと思います。
一方、魲万里絵さんや小津誠さんは、性的な事物への関心や他人からの眼差しといった、誰もが心の内に抱えているであろう不安やオソレに対峙し、それらをイメージに変換することで作品を制作されることもあるそうです。多種多様な作家作品が集まりましたね。

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岡部:そうですね。屋外での作品展示にチャレンジした初めての機会でもありましたね。西側の美術館正面には小中大地さんの《はじまりゴブリン》。東側には先ほどちょっと話した「足長手長」にもつながるような、大きな足の作品《泥足》を久保寛子さんに制作いただきました。足長が美術館の近くに来ているようにも見えます。久保さんは「農」をテーマに制作をされているという点でも猪苗代に親和性がありました。

大政:作品の素材の多くも農業でつかわれる素材を使用されていて、軍手を使った《仮面》という作品も素敵でした。久保さんには設営のために広島から来ていただき、非常にありがたかったです。《泥足》は展覧会がスタートしてから公開制作のような形ではじまりましたが、地域の方や、スタッフの家族などもお手伝いに参加していただきましたね。

小林:美術館の裏はよく猪苗代高校の生徒たちが通る道でもあるんですが、外に展示された大きな作品を見て「すごいなんだこれは!?」って感じで、高校生たちが話しているのが印象的でした(笑) 普段だと、なんとなくここが美術館ってのは知っているけれども、美術館の中に入らないと作品は見えないし、あんまり興味がなくて遠巻きに見てる人たちが、外からも見えるっていうところですごく間口が広がった印象でした。これも、展覧会が盛況だった要因なのかな、という感じもしました。

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岡部:そうそう。夜のイベントもこのときスタートさせましたね。先ほども話題にあがった「鈴木清孝の猪苗代妖怪夜ばなし」では、裏のお墓の前で怖いお話をしてもらったり、久保さんの《泥足》をライトアップしたり。ナイトミュージアムも始まりましたね。

小林:ナイトミュージアムは、本当にオソレイズムというか、オソレっていうテーマにすごく合っていて。照明をほとんど消して、少しだけ会場内をろうそく型のLEDライトでライトアップして。うすら明かりの中を、懐中電灯を持って見に行くという形式でやって、ちょっとしたお化け屋敷みたいな雰囲気になって、本当に怖がるお子さんとかもいましたね。

岡部:実は、齋藤陽道さんがTURN展に関連してはじまりの美術館内の撮影をしたときに、夜間の撮影もされていて。夜にライトで照らし見る作品の生々しさについてお話されていたのが、「ナイトミュージアムをやってみよう!」っていうスタートにもなったと思います。

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小林:中でも、展示室の真ん中あたりの、鎌田紀子さんの《おおきいひと》と、一番奥の金子富之さんの《三頭五眼》は、日中に見ても夢に出てきそうなぐらいのちょっとした怖さがありますが、ナイトミュージアムだとさらに怖さが増してインパクトがありましたね。

大政:金子さんの作品は、展示室に入るときから実はもう目が合ってしまうというか。小さなお客様の中には、奥に近づくにつれて体が動かなくなってしまったり、泣き出してしまうお子さんも何人かいらっしゃった記憶があります。お子さんによっては、もうここが「恐いものが展示している場所だ」って覚えてしまっていて、違う展覧会のときも入りたがらない子も何人かいましたね(汗)

小林:逆に小学生以上の子くらいになると楽しくて、小学生だけで遊びに来たりなんかしたこともあったなと覚えています。町内の小学校のあるクラスではじまりの美術館が話題になって、次々にいろんな友達を連れてきてくれるブームが時々あるのですが、そういう感じもこの展覧会がスタートだったかなっていう気がします。

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岡部:テレビの生中継も入って、さらにお客さんが増えましたね。

大政:岡部さんが、暗闇からアナウンサーの方を驚かすようなシーンが設定されていて、大変でしたね(笑)

岡部:あと、猪苗代湖畔で開催されているミックスカルチャーフェスティバル「オハラ☆ブレイク」との連携で、スタンプラリーもやりましたね。はじまりの美術館で展示している作品とあわせてオハラ☆ブレイクの会場でも共通の作家の方の作品を展示したりとか、そういう広がりもありましたね。

小林:そうですね。展示室の入り口に展示していた山際正己さん。正己さんは《正己地蔵》と呼ばれている、かわいい感じのお地蔵さんのような陶の作品を作られる方ですけど。本当に毎日毎日作っていて、その数が何千何万体にもなっていて。それが祈りのようだというところで、オソレイズムのテーマに合うとお声がけしました。美術館では500体くらい展示しましたね。

大政:オハラ☆ブレイクの会場では、木の根元とかにこっそり展示させていただいて、両会場を繋ぐような役割をしていただきました。あと、この年のオハラ☆ブレイクではオソレイズムのテーマに合わせて、アーティストの飯野哲心さんにお盆に飾る精霊馬をモチーフにした《精霊馬ムーバー》を展示いただきました。はじまりの美術館でも数日間特別に展示して、体験できる作品ということでビジュアルとあわせて非常に好評でした。

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小林:あとさっきナイトミュージアムの話で齋藤陽道さんのお名前が出ましたが、陽道さんの出展作品も印象的でした。

大政:陽道さんには、TURN展の関連企画の中で、4つの美術館とその母体の障害者支援施設を巡っていただいたのですが、それぞれの場所で「なにものか」という何か生き物のようなものが表現されました。福島で生まれた「なにものか」がいろんな人や物に出会う写真と、その「なにものか」本体(?)をカフェスペースに展示いただきました。「なにものか」が何なのかはわからないんですけど、今回のオソレイズムっていう展覧会にぴったりな雰囲気でした。

小林:そのTURNの滞在のときに、本部である安積愛育園のアルバチエロにも撮影に行かれましたね。チエロで当時一緒に遊んだお子さんがいたのですが、オソレイズムの関連イベントで「なにものかとこんにちわ」という企画のときにその子も来てくれて再会したことを覚えています。

大政:なんだか嬉しそうな様子でしたね。お子さんもなにものかも、言葉は交わさないんですけど、とても響き合っていて。ダンスのようなのものを、お子さんとなにものかが踊る場面が見られました。なにものかは普段は、カフェのスペースでじっとしていたのですが、この日だけはたくさん動いて、いろんな方とコミュニケーションをとられていました。

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大政:あと、この展覧会のときからお客さんが作品を鑑賞して、それを受けて何かを残していってもらうっていうような取り組みを始めることができたのかなと思っています。

岡部:「ヨウカイコレクション」ですね。

大政:正解です(笑) はじまりの美術館のコンセプトで「誰もが集える場所」というのと「表現を楽しむ、つながりの場」というものがあるので、せっかくだからこういう取り組みをやってみたかったんです。

小林:そうでしたね。展覧会を見ていただいた方にオリジナルの妖怪を描いていただいて、妖怪が潜んでいそうな館内の好きなところに残していってもらう、っていうような常設ワークショップでしたね。テーブルの下だったり、柱の影だったりとか。あと、トイレなんかにも妖怪が生まれたりして、だいぶ時間が経ってから「こんなところにもあった!」なんていうことが楽しかったですね。

大政:あとからあとから出て来て面白かったですね。場所に合わせた妖怪や、苦手なこととか困っていることとかから生まれた妖怪がいたり。会期が終わったタイミングで全て写真に撮ったんですけど、だいたい260種類の妖怪が生まれました。

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岡部:会期中に、作家さんによるワークショップもいくつか開催できましたね。鎌田紀子さんと、小中大地さんにワークショップをしていただきました。

小林:そうでしたね。小中さんは……小中さんっていうか、もう、ゴブリン博士ですね(笑) ゴブリン博士は、美術館自体がゴブリンになってしまうものすごく大きな作品でしたけれども、ワークショップのときには逆にすごく小さなものをゴブリンにする内容でした。石ゴブリンや、木ゴブリン。他にも、猪苗代湖の形や、磐梯山の写真がゴブリンになったり。お子さんも含めて、みんな楽しそうにやってましたね。


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岡部:それと、デザインでは、山形のアカオニさんとご一緒できましたね。キャッチコピーの提案なんかもいただいたのを覚えてます。

大政:「たしかに それは そこにある」ですね。メインビジュアルはアカオニさんとも親交の深い、山伏であり、アーティストでもある坂本大三郎さんが手がけてくださった版画だと後から知りました。

小林:「たしかに それは そこにある」と言えば、入ってすぐの展示室で展示いただいた神林さん。結構そのキャッチコピーから連想される作品だったなと思います。神林さんは確か、大政さんが展覧会で見かけてこられたんですよね。

大政:そうなんです。新潟市美術館で開催されていた「アナタニツナガル」という展覧会で紹介されていました。割と会期直前でお見かけして、「こんなにすぐはじまりの美術館でお呼びしてもいいものか」と悩みつつも、「これを逃す手はない!」と思い、新潟市美術館さんを通じて、神林さんが所属されている青松ワークスさんにご連絡しました。

小林:新潟まで作品をお借りしつつ、神林さんの普段の様子なんかも拝見させていただきましたよね。ちょっとユニークというか、面白い環境で制作されてました。他の方々は額を作っている木工所でしたが、神林さんはその作業ではなくそこでいろんな制作をされていて。神林さんが見るための資料の本なんかもそこにたくさん置かれていて、担当の方がいろいろ一緒になって制作環境を作られているんだなって感じました。

大政:神林さんの《妖怪人間》という作品は、てるてる坊主のようにも見えますが、この辺りで知られるオシンメイ様を彷彿させましたね。妖怪や泥棒やシャドー人間などなど……素材にこだわらずに、神林さんが表現したいものや気になるものを追求している様子がとても印象的でした。

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岡部:新潟といえば、この展覧会の寄稿文は、元・藁工ミュージアムの学芸員で、当時アーツカウンシル新潟に在籍していた大内郁さんに執筆いただきましたね。この展覧会に込めた「オソレ」の多様な捉え方を、うまく言葉に落とし込んでもらえたなと思っています。

小林 :そうでしたね。大内さんも書いてくれた多様なオソレとつなげるわけではないですが、結構それまで展示しなかったような場所にも作品があるみたいな。何ていうんですかね、ちょっと来た人をドキッとさせようみたいな。設営中もすごい楽しく展示したなっていうことを覚えていて。ほとんどの方が気付かなかった《ひょんた》という鎌田さんの作品は、入り口の靴を脱いで上がるところの梁の上に展示して、帰り際とかにお客さんにその事を伝えると「うわっ」って驚く人もいて面白かったですね。

大政 :《ひょんた》は階段に居たときもなかったですか。

小林 :設営のときに階段もありかなっていうので試したんだったと思いますが、入館してすぐに目が合うし、さすがに怖すぎるんじゃないかっていうので、天井の方になったんじゃなかったかなと。

岡部:階段はだいぶ露骨な感じでしたよね。オソレイズムは第2弾を望む声も聞かれている企画なので、また何か違う形でできたらいいかなと思ってはいますが。

小林:この企画展以降、夜のナイトミュージアムの企画を夏の時期はやってますけど、どうもオソレイズムと比べると夜である必然性が少なくて。もういっそのこと毎年夏は、オソレとか、妖怪をテーマにやったら賑わうし、いいんじゃないかって気持ちもありますね(笑)

大政:集客面から、法人内からも「またオソレイズムをやればいいのでは」という意見も時々いただいていましたね(苦笑)
首都圏のナイトミュージアムは仕事帰りの方はよく参加されているイメージなのですが、はじまりの美術館のナイトミュージアムでは、ご家族でよく参加されているイメージでした。いろんなイベントとあわせながら、また開催できるといいですね。

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小林 :あと話は変わりますが、やっぱりその「妖怪」じゃなくて、「オソレ」だったのが、この美術館らしいなと思うんです。やっぱり昔から、何か災害や病気など恐れられるものだったり、また神様や習わしのような大事なものっていうことを伝えるために、妖怪や民話のような昔話が生まれたりとか。そういう、いわゆる表現みたいなものが生まれてきたのかなと思っていて。きっとこの先も何か今いる妖怪とかとは違う形で出てくるんだろうなと思うので、そういうことをうまく汲み取って企画にしていけたら、今回のオソレイズムとまた違う展覧会ができそうですね。

大政:今回のコロナで何百年も前に生まれた、「アマビエ」という、今までほとんどの人が知らなかった妖怪が思い出されましたね。また、「赤べこも」会津で感染者が現時点で出ていないことから注目されていましたね。普段は民芸品やお土産品として親しまれているこの赤べこですが、もともと天然痘との関係が深かったり。見えないけど形を変えて残ってきているものがいろいろあって、深いですね。

岡部:あと企画趣旨の冒頭でも書いたんですけど、オソレばかりではなくて「目には見えないけどそこにある」雰囲気だったりとか、気配とか、人が内に持つ様々な思いだったりとか、実は自分たちの生活を大きく左右している、そういう要素について意外とないがしろにされてしまってるんじゃないかなと。
なんかこう、文化や芸術のあり方っていうか、何か経済に直接関係ないと思われがちなものが軽視されているというか。経済だけで世の中が回っているような見方がされている風潮があるのではないか、ちょっと立ち止まって考える機会。またテーマとして取り上げるとしても単に焼き直しではなく、オソレに限らず、そういういろんな目に見えない大切な要素を考えていく機会として、今後またチャレンジできたらいいんじゃないかな、というふうに思ってます。


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