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TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力) 【プレイバック!はじまりの美術館 4】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。

スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館

TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)


会期:2015年4月18日(土)〜2015年6月28日(日)
参加アーティスト:スリッパ、八島孝一、マルセル・デュシャン、上里浩也、今村花子、平岡伸太、岩谷圭介、岡本太郎、中原浩大、田中偉一郎、淺井裕介、工藤トミエ、日比野克彦、戸來貴規、佐藤初女、野田秀樹、島袋道浩
主催:TURN展実行委員会 (みずのき美術館、鞆の津ミュージアム、はじまりの美術館、藁工ミュージアム)、日本財団
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/turn/

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小林:4つ目の企画展、「TURN / 陸から海へ(ひとがはじめからもっている力)」展についてです。この展覧会は、「日本財団 アール・ブリュット美術館 合同企画展2014 - 2015」という冠がついていて、主催は、日本財団と、TURN展実行委員会であるみずのき美術館鞆の津ミュージアム藁工ミュージアム・はじまりの美術館の4つの美術館合同の企画でした。
また、2〜3年がかりで、他の展覧会と比べて長い時間をかけて取り組んだプロジェクトだったなと思います。はじまりの美術館が開館する前からTURN展は動き出していたということでしたが、企画担当で関わっていた岡部さんから当時の話をお願いできますか?

岡部:はい、日本財団の助成を受けて開館した、全国4つの姉妹館のネットワーク化を図るとともに、企画力や発信力を高める目的があったと記憶しています。企画の当初は、展覧会の監修で入っていただいた日比野克彦さんが「まずは、展覧会を開催する4館の状況を見に行こう!」ということで、TURN展全体のアドバイザーとして入っていただいていたアーツカウンシル東京の森司さん、日本財団の溝垣さん、幹事館のみずのき美術館奥山さん、当時TURN展実行委員会事務局をされていた長津結一郎さんで、各館を回って視察されています。
まだそのときはじまりはオープンしていなくて、日比野さんたちと町内の街歩きをしたことを覚えてます。そうですね……なんか本当に、こう、美術館が始まるまでの手がかりを一緒に探してもらったような、そんな思い出もあります。

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小林:大政さんは、インターンとしてTURN展実行委員会の事務局に関わってたかと思いますが、いつ頃から関わったんでしょうか。
 
大政:そうですね。私がTURNに関わりはじめたのは2014年の4月でした。当時、私は日比野さんの研究室に入ったばかりで、日比野さんに私が興味がありそうな企画だからと声をかけていただいて。月に一度のTURN展の会議に参加するようになりました。インターンだったので、企画自体にはほとんど関わっていなくて、議事録をとったり、プロジェクトの新聞を作ったりすることがメインでした。

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小林:4館での展示を全て見たと思うのですが、特に、はじまりの美術館でのTURN展でなにか印象に残っていることとかありますか?

大政:そうですね〜。この展覧会は「合同企画展」と言っているんですけど、巡回展のような形で同じ作品が4つの美術館を全て回るわけではなく。4つの美術館全てで展示される作品もあれば、1つの美術館でしか展示されない作品もあって……すごく不思議な企画展だったと思います。また、展覧会のタイトルは同じだけど館によって雰囲気もコンセプトも結構違っていて。はじまりの美術館の場合は、東北にゆかりのある作家も加わっていたのが特徴ですね。

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大政:印象に残っているのは、やっぱり、淺井裕介さん。淺井さんには4館全ての会場で滞在制作していただいたんですけど、それぞれの場所でしか生まれない作品が展示されていて、かつ、少しずつつながっていて、おもしろかったです。あとは、「スリッパ」も作家として名前が連なっていて不思議でしたが、印象深いですね。このとき、スリッパを展示する台を特注で作っていただきましたが、今は美術館のチラシ置きとして活用されています。(笑)

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小林:私も淺井さんの作品はすごく印象に残っています。「ほくほく東北」展でも公開制作はありましたが、淺井さんは本当に滞在中の4日間まるまる本当に朝から晩まで寝るとき以外はずっと制作をしていて……なんていうか、制作へのエネルギーがすごくて、なおかつ周りの人のいろんな動きにも敏感で、いろんな意味で面白い人だなあっていうふうに感じました。淺井さん自身の制作スタイルが、おひとりで作られるんではなくて、いろんな人の手を入れながら作っていくというのも新鮮でした。
実際に、はじまりの美術館での滞在制作中も、私を含めて美術館スタッフや制作ボランティアの方などいろんな方が制作に携わりました。TURN展の事務局の奥山さん・長津さんもずっと滞在されていましたし、福島大学の渡邊 晃一先生と学生さん、また当時日本大学の建築学部に通っていた眞船くんと渡部くんにお世話になりましたね。そういうのも含めてすごく記憶に残ってます。展覧会後は残っていない作品ということが、かえってその当時の記憶を鮮やかに浮かび上がらせるような、そんな作品です。

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小林:岡部さんはどうですか。何か印象に残っている作品や、イベントはありますか?

岡部:そうですね。この合同企画展の企画で、日比野さんが各館の運営法人の福祉事業所にショートステイ体験(※)をしたんですが、はじまりの美術館では日比野さんがそのなかで作った全ての作品を展示しました。そもそも、その日比野さんが福祉事業所に滞在するというのも、実行員会で提案して実現した企画でした。はじまりの美術館では、2014年9月に運営母体の社会福祉法人安積愛育園の「アルバ」という事業所に滞在いただいたのですが、そこに日比野さんが滞在したことで生まれた企画がありました。

※ショートステイ……障がいのある人(あるいは児童)や高齢者が、家族など介護する人の事業や心的負担の軽減のため、一時的に福祉施設の入所支援を利用すること。

小林:そもそも、美術館ができてから、法人の事業所にアーティストの方が直接訪れたり、滞在したのは、多分このときが初めてじゃないですか?

岡部:はい。当初、日比野さんにショートステイをしてもらおうっていう発想の中には、まだまだ福祉事業所が社会から隔絶されてるというか、各事業所ごとに独自の文化があるっていうぐらい、結構社会から断絶されているようなイメージがあっということがあります。実際にそこで働いていた経験がある自分としても、日比野さんのようないろいろな経験や視点を持った人に滞在してもらうことで、いろんな意味で中をあばいてもらうっていうか……そういう日本という社会が持つ構造としての「福祉事業所」の実態を掘り起こしてもらうっていうようなこともすごく期待していたことを覚えています。

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小林:そのとき、法人のスタッフやアルバの利用者の方の反応や感想とか、印象に残っていることはありますか?

岡部:3日間という限られた期間ではあったんですけど、滞在したアルバに当時入所されていた「小林くん」という1人の男の子との出会いがありましたね。高校を卒業したあとだったので、男の子というより、1人の青年という感じかもしれないですが。小林くんと日比野さんがいろいろなやりとりをする中で、小林くんの想いをくみ取ってもらうような場面も見られましたね。

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小林:そうでしたね。日比野さんが滞在されるなかで、「小林くんがカフェで働いてみたい」っていうような思いを日比野さんに伝えて。それで、なにか各館ごとにプロジェクトやイベントをやろうという中で、「小林くんの想いを実現に向けてやってみるのはどうか」っていうご提案をいただいて。それで美術館スタッフ内で話し合って生まれたのが、「まねぶカフェ」というプロジェクトでした。

岡部:たしか「小林くんがコーヒーや喫茶店のスタイルを学んで、実際に1日喫茶みたいなものをやってみよう」っていうのも、案ではあったんですけれども。それよりはもっと一般のお客さんも巻き込んで、小林くんも学ぶけど他の人も学びながら、カフェの技術やそういったものを見つけた方が面白いんじゃないかっていう形になりました。実際には、3回のシリーズでやりまして、会期2日目の日比野さんとのアイロンビーズコースター&トークイベントと、裏磐梯にあるMOTO COFFEEさんのマスターに講師として来てもらいコーヒーを淹れる企画、あとはミックスジュースを作る企画でしたね。

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小林:コーヒーを飲めない方もいるし、他のメニューとしてミックスジュースも作ろうか、となりましたね。はじまりの美術館での会期後には、実際に出張カフェも行いましたよね。「ONE DAY TURN PARTY」という都内でTURNの報告会を兼ねたイベントでしたが、小林くんは東京まで出張してコーヒーを淹れるというようなことにもつながっていきました。これもかなり記憶に残ってますね。

岡部:そうですね。なんか、小林くんが昔からカフェに興味があったのは知っていたけれど、それを実際に、企画にしようというヒントをいただいた形でしたね。それと同時に、小林くんのエンパワーメントというか、小林くんが「何かを体験していく」っていうだけではなくて、一緒に参加した方も小林くんという1人の人を知ってもらって、その流れで障害というものを知ってもらうというような、一つの形が見えた企画でもありましたね。

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大政:そうですね〜。あと展覧会の中では、島袋道浩さんの《輪ゴムをくぐり抜ける》という作品がありましたが、体験型の作品を展示したのはこれが初めてですかね?

小林:多分初めてですね。展示室に入ってすぐの大きなガラスの前に島袋さんの作品がありましたけど、来た方もみんなそこで楽しそうにやっていくのを見て体験型の作品っていうのも面白いんだなって思いました。

大政:本当ですね。

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小林:あと、出展作家数がTURN展では17作家というのもこの美術館の規模としては多かったなぁと思います。それまで多くても10作家くらいで、1作家に対して何点か作品もあるっていうような形でしたが、TURN展は一点ぐらいしか作品がない作家の方もいて。それ自体も何かこう、何ですかね、密度が濃かった印象がありますね。
それに加えて印象にのこっているのが、設営が8割ぐらいできた段階で、監修の日比野さんが到着して結構手直しが入ったんです。この美術館は展示室にも梁があるので照明をあてるとどうしても影になってしまう部分があるんですけど、そういった不便さみたいなものも含めた照明の当て方や展示の構成をされていて。展示の面白さみたいなことを感じた場面でした。

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大政:たしか工藤トミエさんの作品も最初はランダムに展示していたのを、日比野さんがずらっと1列に並べる展示にしましたね。当初は本当にこれでいいのだろうかとちょっと思いつつ……。(苦笑)実はこの美術館の一番奥の窓を生かして、外に展示した作品の伏線のような配置にもなっていて、とても印象的でした。

岡部 :そうでしたね。《クモを見て、人間図鑑になる》という予定にはなかった作品ですね。会期初日に作品が増えることがあるんだなと勉強になりました。この作品が一番奥の展示室に外に展示されることで、それを見てる人が工藤さんの作品の一部に同化して見えるんじゃないかっていう日比野さんの発想があって、そこから生まれた作品でした。その作品もアルバでのショートステイで出会ったアイロンビーズを使ったものでした。

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小林:初日にギャラリートークがあったんですけど、森司さんが「誰か人間図鑑になったほうが面白いよね」とおっしゃったのを聞いて、工藤トミエさんの紹介に間に合うように窓の外に走って行ったんですよ。意外と窓の外だとマイクの声も聞こえなくて、いつまで居ればいいのかなーなんて考えていたことを思い出しました。(笑)でも、それ以外のところでも森さんの全体を見る視点は勉強になりましたね。

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大政:クモのアイロンビーズ作品は、東京藝術大学の伊藤達矢さんに大変お世話になりましたね。伊藤さんには、当時森のはこ舟アートプロジェクトでお世話になっており、よく福島にいらっしゃってました。日比野さんが構想して、伊藤さんを中心に頑張ってアイロンビーズを制作していたのが思い出深いです。(笑)

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大政:あとこの展覧会は日本財団さんが所蔵しているアール・ブリュットの代表的な作家さんの作品もたくさん展示させていただいたり、岡本太郎さんの写真作品だったり、そのほかにもはじまりの美術館だけだとなかなかアプローチが難しかった作品も多くありました。実行委員会で議論を重ねながら、展覧会を作っていけたのもよかったなと思います。

小林:写真家の齋藤陽道さんも「TURN」の企画でお世話になりましたね。陽道さんにはその後も法人の50周年記念誌などでもお世話になったり、出会いをいただいた企画でした。

岡部:日比野さんと森さんは、今でも東京2020オリンピック・パラリンピックの文化プログラムリーディングプロジェクトとして、ずっと「TURN」ということを考え続けて活動していますね。そのはじまりがこの合同企画展のプロジェクトだったっていうことが、我々にとっても東京2020大会をある意味自分ごとに引き付けて考えるきっかけにもなっているのかなと。あと「障害」ということに囚われるというか。「アール・ブリュット」という言葉がある意味障害になるっていう。なんかそういうイメージが固定しつつある中で、別の角度からいろんな表現の中に、障害のある方の作品もあるっていう捉え直しを試みた機会だったように思います。

小林:この美術館もアール・ブリュット美術館としてスタートして、でも館としての活動を深めていく中でアール・ブリュットって言葉自体もどうなんだっていう思いとか、そこからさらに「TURN」という言葉が出てきてどうなんだとか考えたりもしましたね。でも、ある意味そういったことが一つの見方に固定されずに、なんていうか、本当にいろんな多様な価値感があったりとか、言葉があったりとか。そのなかでも、根っこにある大事なものは何なのかっていうことをずっとこう考え続けながら、自分たちの活動とか企画をやっているなっていうのは、もう何年も経ちますけど思いますね。

岡部:そのあたりがサブタイトルでもある「ひとがはじめからもっている力」ということにつながってくるのかもしれないですね。

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