見出し画像

のけものアニマル - きみといきる。【プレイバック!はじまりの美術館 5】

現在、臨時休館中のはじまりの美術館。これを機に、はじまりの美術館のこれまでの展覧会をみなさんと一緒に振り返ってみたいと思います。

はじめて展覧会を見る方も、実際に展覧会を鑑賞された方も、写真やスタッフの四方山話を通して、改めて作品や作者に出会っていただければと思います。当時の裏話?や関わったスタッフの想いなども改めて振り返ってみました。残念ながら今は展覧会を開催できない時期ですが、この6年間の展覧会を改めて見つめ直して、この先の企画を作っていく足場を固める期間にしたいと思っています。

スタッフ紹介

プレイバックはじまりの美術館

のけものアニマル - きみといきる。

出展作家:サエボーグ、佐野美里、高橋真菜、塔本シスコ、星清美、渡邊義紘
会期:2015年7月18日(土)〜 2015年10月4日(日)
主催:社会福祉法人安積愛育園 はじまりの美術館
共催:一般社団法人ふくしまプロジェクト
https://hajimari-ac.com/enjoy/exhibition/animal/

画像2


小林:はい、それでは第5回目の展覧会「のけものアニマル」にいってみましょう。

岡部:動物をテーマにした展覧会でしたね。これは小林さんのデビュー企画(最初に担当した展覧会)でしたね。

小林:そうですね。もともとは、岡部さんと元学芸員の千葉さんの企画ラッシュ(※)に残っていた企画名が、ベースになってますね。確か最初は「集まるアニマル」だったと思います。個人的にも動物にかかわっていたことがあったので、初担当はこのテーマにしようという話になったような記憶があります。
このときのデザインは2019年にBook!Book!AIZUさんとの企画で美術館でトークイベントを開催した、詩人でグラフィックデザイナーのウチダゴウさんでした。ウチダさんとは学生のころから知り合いだったのですが、社会との距離の取り方というか、自分の暮らしの見つめ方をしっかり持った方だったので、このテーマにも良い形で応えてくれるのではと思いお願いしました。

大政:このときは、作家は6名の方だったんですよね。今から考えると、少し少なめですが、どの作品もとても強烈だったなと思います。

※企画ラッシュ……はじまりの美術館のスタッフで行う企画のアイデア出しのこと

スクリーンショット 2020-05-13 18.54.37

小林:この展覧会も大政さんは見てくれたんでしたっけ。

大政:見ました。確か、この頃には、学校を修了したらはじまりの美術館で働くことが決まっていました。「親子で楽しむ森へのフィールドトリップ」というワークショップに、1人で参加させてもらった記憶があります。(笑)

岡部:そういえばそうでしたね。うちの家族も参加する予定だったので、大政さんも誘ったんでした。

画像4


小林:そのイベントにも関係するんですけど、この展覧会は、当時猪苗代の中ノ沢エリアで活動していた「一般社団法人ふくしまプロジェクト」(※)さんとの共催企画で開催しました。

岡部:サブタイトルの「きみといきる」は、ふくしまプロジェクトさんのキャッチコピーからいただきましたね。

小林:そうですね。動物をテーマにした展覧会を考えたときに、夏休みのお子さんたちも楽しんでもらえるように、シンプルにかわいい動物作品を集める、というのも最初は思ったんですけれども、やっぱりそれだけだとこの美術館から発信するテーマとしては少し弱いんじゃないかなと。やっぱりもっと「暮らし」とか、「生きる」みたいなことを動物を通して考えなけれればいけないんじゃないか。もっと言うと、我々人間も動物だよなっていうところで、この「のけもの」っていうのは、自然界のサイクルから少し外れてしまったんじゃないかっていう自分たち人間のことを指しています。そういうことを考えてもらうようなテーマで、タイトルと内容を考えましたね。

岡部:そういう部分でも、ふくしまプロジェクトさんの活動は、とてもテーマとリンクしていましたね。

画像5

※一般社団法人ふくしまプロジェクトは、現在活動を休止されています。


小林:そういった意味では、TURN展のときに鞆の津ミュージアムで展示されていたサエボーグさんというゴムラバーの作品で動物の作品を作られている方がいて。その動物の屠殺(とさつ)を通して搾取をテーマに表現した作品はなかなか強烈でした。でも、この企画展にはぜひ参加したいただきたいと思い、1番奥の部屋をまるまるサエボーグさんに展示していただきました。あのときは作品を東京にお借りに伺いましたけど、サエボーグさんにも一緒に車に乗ってはじまりの美術館に来てもらいましたね。

大政:ゴムやラバースーツを使ったインスタレーションの作品で、なかなか会期中の作品の管理というのも大変そうですね。

岡部:そうですね。空気を入れて膨らませている作品なので、会期中に空気が少しずつ抜けてくるので、定期的にコンプレッサーで空気を入れたり、コート剤でメンテナンスをしてましたね。そして、実は作品の多くは着ぐるみにもなっていて、オープニングイベントでは、豚の作品を身にまとったサエボーグさんが、パフォーマンスも披露してくれました。遭遇したちびっこたちが、恐れおののきながらも、興味津々に近づいていましたね。

スクリーンショット 2020-05-13 18.54.52

画像7

画像8


小林:大政さんの中で印象に残っている作品はありますか?

大政:今出たサエボーグさんの作品も、インスタレーションと映像とともに印象に残っています。あとは、渡邊義紘さんの「折り葉」という作品も、このとき初めて見て圧倒された記憶があります。

スクリーンショット 2020-05-13 18.55.06


小林:渡邊さんの作品は、以前エイブル・アート・ジャパンさんで紹介されていたのを見て、エイブルアートさんを通じて渡邊さんをご紹介いただき連絡を取りました。会期中、渡邊さんも熊本からはじまりの美術館に来てくれてました。折り葉っていうのは落ち葉の時期の本当に限られた時間の中で作られるものなんですけれども、それ以外にも、普段はすごく緻密な切り絵を制作されていて、その切り絵の公開制作をしていただきました。そのときは、何も見ずに1時間も掛からない間にキリンの作品を作られていて、衝撃的でしたね。
渡邊さんはそれ以降、本当にいろんな展覧会に呼ばれるようになっていって、そのたびにお母さまからご連絡をいただいたりして。今でもお付き合いのある作家の方で、すごく嬉しいつながりになったなと思ってます。

岡部:公開制作では、その場で切った作品を小さな子どもたちにあげていましたね。

小林:そうですね。あれは、ちょっと羨ましかったですね。(笑)

スクリーンショット 2020-05-13 18.55.17

画像11

小林:あと会期中、作家の佐野美里さんもワークショップをしていただきました。佐野さんは主に木彫で動物の作品を作っていて、今回は可愛らしい犬の作品をたくさん展示いただきました。その木彫で削ったときにできる「木っ端(こっぱ)」を使って、ブローチを作るワークショップを開催しました。佐野さんの方で、いろんな色の木っ端を作ってきてくれて、それもすごく盛り上がりましたね。

画像12

画像13

小林:岡部さんは印象に残っている作家さんいますか?

岡部:そうですね。塔本シスコさんはいつかお呼びしたいと思ってた作家さんだったので、展示が実現してとても嬉しかったですね。

小林:直接お会いしてという形ではなかったと思いますが、ご親戚の方とやりとりされてましたよね。

岡部:はい、シスコさんのお孫さんの弥麻さんですね。シスコさんの作品にも登場されたりもしています。当時は、弥麻さんの弟さんの研作さんが作品の管理をなさっていて、大変お世話になりました。弥麻さんには、昨年度末に滋賀県で開催されたアメニティフォーラムではじめてお会いできて、実際にご挨拶できました。

小林:そうだったんですね。

スクリーンショット 2020-05-13 18.55.32


岡部:動物というテーマで集まった6人の作家ですが、塔本さんは人と動物のつながりの部分をとても絵から感じさせる作品でしたね。

小林:塔本さんの向かいで展示された髙橋真菜さんは、確かその年の東北芸術工科大学の卒業制作展で、見たことをきっかけにお声がけしました。設営もご本人に来ていただいて、卒展と同じくインスタレーションという形で構成いただいただきました。スタイロホームという比較的軽く柔らかい素材を作って使って作られた作品で、取り扱いに気を使いましたね。

岡部:そうですね。親子連れの方も多く見に来てくれた展覧会だったので、小さなお子さんが作品に触れてしまわないか、緊張する場面もありましたね。

小林:そのあたりはドキドキしながらも、全体として家族みんなで楽しんでもらえるテーマだったなと感じます。

スクリーンショット 2020-05-13 18.55.41

画像16

小林:あとunico作家(安積愛育園)からは、星清美さんに出展いただきましたね。

岡部:星さんの作品は、美術館が始まる前に、unicoの企画展で展示したことを思い出しました。

小林:そうなんです。星さんは、お菓子を入れる箱に描いていた作品を展示したのですが、岡部さんがおっしゃったunico企画展の展示方法を参考にしましたね。

スクリーンショット 2020-05-13 18.55.54


大政:色彩的にも色とりどりで、元気になる作品が多いなと思う反面、パワーが強い作品もある印象で。お子さんとかで怖がった方もいらっしゃいましたか?

小林:そうですね。結構かわいい作品が多かったので、そこまで怖がる子もいなかったかなという印象です。ただ、やっぱり最後の部屋のサイボーグさんはかわいらしいフォルムや見た目なんですけども、作品としては屠殺場なので、逆さ吊りになった豚が血を流しているような場面を表現したりしていて。映像で、屠殺のパフォーマンスと最後ストリップをしていくような描写があったんですけど、性的な表現ということでご意見をいただいたりしたっていうことも、少ないですけれどもありましたね。

大政:なるほど。難しいところですね。

岡部:サエボーグさんはジェンダーの問題(社会的意味合いから見た、男女の性区別)を、人間と家畜という、動物間の関係性に置き換えてみせる側面もある作品でもありました。命の問題を問うとともに、そういう様々な関係性を考えさせられる作品でもありましたね。あと来場された方で、「動物福祉というのは、障害福祉にもつながるテーマで、とても考えさせられた」ということをお話されてた方もいらっしゃいました。

スクリーンショット 2020-05-13 18.56.10


小林:そういったことを展示以外でも考える一つとして、関連イベントでは、はじまりの美術館で初めて上映会を開催しました。上映したのは、「ある精肉店のはなし」いうドキュメンタリー映画でした。屠畜から販売まで自分たちの手で行い、牛のいのちと全身全霊で向き合う精肉店一家の話でした。さまざまな問題提起もある映画だったので、監督の纐纈(はなぶさ) あや監督もお招きして上映後にいろんな話をしていただきました。開催前は屠畜の生々しい場面もあることから、内部でも少し心配の声もありましたが、いざやってみると参加した方々もすごく考えながら見てくれましたし、「やれてよかったなあ」というふうに思うイベントです。

大政:映画自体、すごく気になっていた映画ですごく行きたいイベントでした。結局行けなかったんですけど、こういうドキュメンタリー映画の上映会をやる美術館なんだなあ、いいなあと思ってました。

小林:あと関連エピソードとしては、あさかグループで運営している郡山のレストラン「バール・イルチェントロ」の当時のシェフが纐纈監督のお知り合いだったんです。そんな話を事前に伺ってたので、この日の懇親会はイルチェントロで開催しましたね。

岡部:確か幼なじみで、久しぶりに会ったと言って、お互いすごく喜ばれてましたね。

スクリーンショット 2020-05-13 18.56.26

画像20

岡部:また別なイベントの話ですが、奈良県のうだ・アニマルパークの方をお招きしての、命の教育に関するイベントもありましたよね。あのとき、初めて「アニマルセラピーっていうのがあるけれど、人を癒すアニマルの方がケアされていない」という実情があるとこを知って、そうかあと思ったことを思い出します。

小林:うだ・アニマルパークさんも張り子の人形を使って先進的な教育プログラムや取り組みをされている団体でしたね。

岡部:そうですね、実物の動物じゃないところで、リアリティはどうなのかなと思いましたが、生身の動物への配慮であると同時に、その事を考えてもらうきっかけでもあるというお話もありました。

画像21


小林:それもふくしまプロジェクトさんと一緒に実施したイベントでしたけど、そういう意味でも、自分たちだけでは考えつかないようなイベントができてよかったなと思いますね。

岡部:「福祉」ということを、障害福祉以外の切り口から考える良い機会をたくさんいただいたと思います。

大政:やはり、はじまりの美術館の運営母体は社会福祉法人安積愛育園で、「障害福祉」のことをメインで考えることが多いですよね。それがまずベースにあって。その「障害福祉」もいろいろな切り口があって、それを「動物」っていう観点から展覧会を通して発信できたのはすごく意味のある展覧会だったと思います。

小林:そうですね。動物っていうテーマはすごくいろんな切り口もあるので、何かまた別の形の企画展をやれたらいいなって思います。

画像22


企画展「のけものアニマル」の記録集は、はじまりの美術館online shopで販売中です!


ここまで読んでいただきありがとうございます。 サポートをいただけた場合は、はじまりの美術館の日々の活動費・運営費として使わせていただきます。