【小説】Sunset memory | note記事に取り上げて頂いたこと
こんばんは。灰澄です。
もう全然note書けない。インターネットの片隅のバーチャル紙片にしたためた文章だって、ありがたいことに読んで下さる方がいらっしゃるのに。すみません。
仕事がランダムに忙しいのと、分かっちゃいたけれども動画制作って大変というのと、色んなアイデア(小説にしろ動画にしろ仕事にしろ)を書き留めておきたいのと、色々な情報が脳内をぐるぐる駆け巡っていて、ちょっとオーバーヒート気味です。あと夏バテ気味でもあります。不眠加速中。
そんなわけで、せめて何か読みものをということで、また過去の貯金を切り崩します。最近、自分の思考を見つめ直すことが多くて、過去に書いた小説を読むと答え合わせのような感覚で面白いです。
そして! とても重要! インターネットの片隅の書棚の奥の裏側で活動しているような私ですが、なんと記事に取り上げて下さった方がいらっしゃいます。
とても嬉しい……というか、同じ記事内で紹介されていた方々を見ると、「誰かと間違ってません?」という並びでビックリしました。本当にいいんですか?
いや、本当に、まさしくそういうことを目指して記事も小説も書いているので、本当に嬉しいです。ありがとうございます。ヒンナ、ヒンナ……
というわけで(?)、以下、小説本文です。
それでは、また次の記事でお会いしましょう。
「私たちは、いつまでのうのうと生きなきゃならないんだろうね?」
そんなことを、気怠そうに微笑んで言っていたあの子は、不運な事故であっけなく死んでしまった。
彼女はよく、どこまでが本気で、どこからが冗談なのか分からないような話をした。
「例えばさ、今日から世界中で戦争が始まったら、明日は何時に起きる?」
ある日の放課後、彼女が帰り電車のホームでそんなことを言った。
夕暮れの濃いオレンジ色が、色素の薄い彼女の髪を透かしていた。
「何それ、そんなことになったらもっと他に考えることがあるんじゃないの」
世界が終わるかもしれないってときに、私が何時に起きるかなんて、何の意味があるだろう。
「明日の世界がどうなるんだとしてもさ、寝たらとりあえず起きるでしょう?」
多分、特に意味の無い会話だったのだ。
「もし戦争が起こるなんてことになったら眠れないと思う。一晩中起きてるんじゃない?」
「でもずっとは起きていられないでしょ? 私は、多分いつも通りの時間に目覚ましをセットしちゃうよ。今日から戦争が始まったとしてもさ、きっと明日とか明後日とか、もしかしたら今週か、今月か、それくらいは私たちが住む街は変わらない。少なくとも、明日すぐにミサイルが家に向かって飛んでくるわけじゃないと思う」
「それは、そうかもね。でもきっと国中が大混乱になるよ」
「いずれはね。でも、目に見えることが起こらないと日常は変わらないよ、きっと。明日すぐに学校や会社が休みになったりしない」
「そういうものかな」
私は、彼女の突飛すぎる例え話の意味するところが分からなくて、首をかしげた。だって、自分の日常がすっかり変わってしまうことなんて、上手く想像できない。国中とか、世界中が変わってしまうような出来事は、私には大きすぎる。
「明日から戦争になっても、なんとなくいつも通りに起きて、学校に行くべきかどうかとか、考えちゃうと思う。でもさ、今日帰ってから前髪を切って、間違えてバッサリやっちゃって、最悪な前髪になったら、私は多分学校来ないよ」
彼女は、長く垂らした前髪をつまんで言った。
「それは……私もそうかも」
だって、世界の終わりに自分がどうなるかなんて分からないけれど、前髪がヤバいことになったら、とりあえずその日は学校に行けないと思う。
「私はさ、世界が終わるかもしれないってことより、自分の前髪の方が大事なんだよ。ハクジョーだよね。でもさ、どうしたらいいかなんて、分からないよ」
彼女が弄ぶ前髪が、ハラリと神秘的に踊った。
私も彼女も、学校ではあんまりイケてないグループで、けれどイジメられているわけでもなくて、大多数の人が属しているような、その他大勢の生き方をしている。それなのに、どこか所在なくて、居心地の悪さを感じている。
目に見える不安があるわけじゃない。でも、どこかハッピーじゃない。なんだか、こういうのはフェアじゃない気がする。だって、時々凄く辛くなるのに、深刻そうに見える悩みなんて、一つも無いんだ。
私たちは、安っぽくてダサいお菓子の箱に入った殺人爆弾を抱えているみたいに、少しもシリアスじゃない日々の中で、どうしたらいいか分からないくらいに不安定な気持ちを持て余している。
明日から戦争になったら云々の話だって、もちろん意味の無いただの雑談で、どっちも真剣に考えて話していたわけじゃなかったと思う。それでも、他の子とはこういう話をしたことは無かったし、したいと思わなかった。多分、彼女も。
私たちは、ドラマチックじゃなくて、ありきたりで、湧き上がるような熱意も、凍えるような冷たさも知らない。主人公になれないタイプだ。そのくせ、日々を当たり前に生きられなくて、息苦しい。
そんな、緩い「あいでんてぃてぃ・くらいしす」にさらされたまま、いつか終わる学生生活を、多分無為に過ごしていた。
それなのに、本当に死んじゃったら話が続かないじゃないか。
だって、そこから先は私には分からない世界だ。私の知らないところへ行っちゃった彼女は、私が持っていないものを手に入れたのだろうか。
彼女が死んだという知らせは、ある週末の午後にクラスのグループチャットで回ってきて、その日の夕方には学校から電話がかかってきた。
彼女の死を知ったそのときに、私は何を思ったのか、あまり覚えていない。
嘘でしょ。どうして。何があったの。ずるいよ。
全部を言葉に出来ないでいるうちに、曖昧になって、どこかに混ざって分からなくなってしまった。
それでも放課後は、いつも通りの道を歩くだけ。
彼女と無駄話をした、いつかの日と同じ夕日が昇る。
オレンジ色の西日がなんだかノスタルジックで、心がザワザワしてきて、「あっ泣きそうだ」と思ったら、びっくりするほど頭の中がぐるぐると混乱して、私は側溝に吐いた。
げぇっ、と汚い声をあげて胃の中身を出してしまった私は、全然クールじゃなくて、綺麗でもなくて、誰にも見られたくないくらいに、とっ散らかっていた。
身体の感覚がフワフワと宙に浮いて、放課後の帰り道一人でうずくまっている私を、切り取ったフィルムを眺めるみたいに俯瞰する私がいた。
急に、見慣れた帰り道も、毎日着ている制服も、あの子が背に受けていたのと同じ色の夕日も直視できなくなって、動揺してしまって、月並みに言うなら悲しくなった。
そうか、こんな私たちでも死んだら悲しいんだ。
そんな当たり前のことすら、私は知らなかった。
私は、意味深な憂いを湛えた影をまとうことなんて出来なくて、子供じみたおかしな空想にも浸れない。
私たちが死んだら、世界が終わると思っていたのに。
私はきっと、世界戦争の翌日も目覚ましをかける。
何が起きても、次の日は来るからだ。
友達が死んでも、道端でげぇげぇ吐きながら泣いても、綺麗な夕日がめちゃくちゃになった私を照らす。誰もその意味を教えてくれない。
あの子と描いた甘ったるい虚構は、あの子の死という身も蓋もない現実の弾丸に撃ち抜かれて、粉々に砕け散ってしまった。
何も見つけられないまま残された私は、生きてみるしか、ないじゃないか。
あなたが見られなかった世界の続きは、こんな具合だったよと話す為に。
いつになく紅い夕日が、ハンカチでそっと口を拭う私を煌々と照らしていた。
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