エッフェル塔 ~創造者の愛~

というタイトルの映画を観た。
朝通勤経路で、エスカレーターに乗りながら何気無く横を見たら、映画のポスターが貼ってあった。
とても目立たないところに。
だからわざわざ、一旦エスカレーターを降りて、逆向きに乗ってまた戻り、もう一度確認した。
昔はとても眼が良かった。今も遠くは良く見える。

ポスターには、建造途中とみられるエッフェル塔が。

それだけで十分だった。
観たい。
きっとエッフェル塔の建造にまつわる壮大な物語に違いない。
この手のドキュメンタリー風の映画は大好きだ。

それにしても、こんなところに映画館があったのか。
どうもマイナー作品ばかりを上映してる映画館のようだ。

ひと昔前は、関西にもマイナー作品を上映している映画館がたくさんあった。大毎地下、くにめー、アサヒシネマ、abシネマ。。
隠れた名作(たまにとんでもなくハズレのこともあるが。。)を見るのが、結構好きだった。
だから、会員になっていた。
映画館側もマイナー作品を上映しているだけでは経営破綻するので、系列の映画館でポルノを上映してそっちの収入で支えたり(一定数は必ず安定して客が入るらしい)涙ぐましい努力をしてくれていたようである。
でも、時代が変わり、ひとつ、またひとつと消えていった。
そして、私は長いことマイナー作品を見る機会を失っていた。

灯台下暗し。
もう何年も朝夕通っていた通勤経路上に、まさかマイナー作品上映専門館があったなんて!
嬉しくなって、即会員登録した。
そしてもちろん、レイトショーの「エッフェル塔」のチケットを予約した。

夕方、仕事が終わるや否や、映画館に行ってチケットを発券した。
まだ十分すぎるほど、時間がある。
ビルの中を散策すると、とても良さげな雑貨屋さんがあった。
これも、今まで知らなかった。
全く、今までどこを見て歩いていたのだろう?
そして、あまりにも突然に、長年探し求めていた傘が、あった。
拡げると大きくて、畳むと小さくて、軽い傘。
20年ほど前に購入して、とても気に入っていたのだが、何年か前に壊れて修理不能になった。代わりの傘を買ったがこれは似て非なるもので、すぐに壊れてしまった。しばらく雨が降らなかったから良かったが、今夜は雨が降るという。レイトショーの帰りに降られたら嫌だなと思っていたら、何ということだ、通勤経路の頭上20メートルほどのお店にあったのだ!
喜んで、買った。

さて、映画館に戻ったが、まだたっぷり時間がある。
暇つぶしにフロアの映画宣伝用モニターを見ていた。
さすが、マイナー映画館。
見たことも聞いたことも無い映画ばかり流れている。
ああ、これも観たいな。あれも観たいな。わくわく♪
突然、エッフェル塔の宣伝が入った。
あれ?
ソファに、普段着のフランス人がふたり座っている。
「どーも、監督の〇〇です。」
当然、フランス語。下に字幕が出ている。
気のせいか、面倒くさそうに見える。
もう一人も口を開く。
「どーも、主演のxxです。」
「この映画はエッフェル塔を作った男の愛の物語だ。」
「フランス映画に興味をもってくれてありがとう。」
「日本にも東京タワーがあるだろう?」
「だから日本も東京タワーの物語を作ったらいいと思うよ。」
な、なんじゃ!?この投げやりな雰囲気は。
しかも、コメントとコメントの間に妙な間がある。。
少し、嫌な予感がしてきた。

いよいよ、入場。上映開始。
メジャーな映画館では見たことも無いような、マイナーな宣伝をしこたま見せられた後、本編が始まった。

冒頭。
主人公(エッフェル)と思われる男が、薄暗い事務所の中でエッフェル塔のデザイン画を描いている。カリカリ。。カリカリ。。
しばらくして、おもむろに立ち上がり、歩いて行き、ドアをバッと開けて外に出ると。。パリの街が小さく一望の下に!
そう、実は事務所では無く、エッフェル塔の上にある部屋だったのだ。
いきなり観客の度肝を抜く演出!!

。。のつもりだったのだろうが、何だか知らないがモロばれ。
ドアを開ける前から、机にむかってカリカリ描いてる時点から、なぜか解ってしまった。
だから、演出失敗。

レストランは大体最初の一品を一口食べれば、後の料理の味も想像がつく。
映画も同じで、最初の3分で、後が面白いかどうか、不思議とわかる。
この予想が外れることは稀だ。
ますます、嫌な予感がしてきた。

主人公、エッフェルは昔愛した女性と偶然再会する。
て。。これが、ヒロイン??
まさか。
でも、この撮り方は、ヒロインよね??
うーん。。
いや、間違いなく美人である。
でもなんか違うぞ。
少なくともこの役には合ってない気が。
若いころの回想シーンが出る。
やっぱり、違う。
「魅力」が感じられないのだ。
もしかして、日本人が観るからそう思うのだろうか?
それとも、単に私の好みの問題だろうか?
フランス人の目で見たら、適役なのだろうか?
タイタニック以来の違和感だ。

良く知られているように、エッフェル塔はパリ万博のために作られたものだ。
最初は、
「地下鉄を作りたい、パリ万博のモニュメントなんか作るかよ!」
って言い張ってたエッフェルだが、例の「違和感美人」の一言でエッフェル塔を作ることに。
う~ん。。。

「地盤の問題は無いのかね?」
「セーヌ川の横の地盤は軟弱です。しかし、地盤に圧縮空気を送り込むことでこのように浸水を抑えながら掘削し、基礎を打ち込み。。。」
そうそう♪ そういうのが観たかったのよ。

「斜めに建てた4本の脚柱をどうやって第1展望台にまとめるのだ?」
「柱をシリンダーで支えます。下には水圧ジャッキ。シリンダーの中の砂を抜いて柱の角度を調整し、水圧ジャッキで高さを微調整。。。」
ほほー、なるほどなるほど♪

面白くなってきやがった。(まくるぞ~♪)

しかし、要所要所で邪魔をする「違和感美人」。
ここで言う「邪魔」とは、物語の中でエッフェルの仕事を明らかに「邪魔」しているという意味もあるし、映画としてせっかく「エッフェル塔建造」という大プロジェクトを扱っているのに、こいつが出てくると一気に話のレベルが低くなるというか、興ざめする、という意味もある。

技術的な難題に加え、今度は資金面の問題が浮き彫りになる。
住民の反対、補助金の停止、融資の停止、そしてついに職人のストライキ。。
四面楚歌。。
絶体絶命のピンチ!
さあどうする?エッフェル!

建造途中の脚柱によじ登り、ストライキ中の職人に向かって大演説をぶちかますエッフェル。
「この塔は俺たちの塔だ。俺たちの手で絶対に完成させるんだ! 今は給料は上げられない。だけど、約束しよう!第1展望台まで完成したら、キミたちの給料を倍にするぞ!」
おーっ!!!
一気に動き始める現場。
よかった。
でも、給料を倍にするったって、アテはあるのか?エッフェル。
もう融資も補助金も止められるというのに。
まだまだ問題は山積みだぞ!
頑張れ! エッフェル!

やがて、4本の脚柱と第1展望台を接続するという、最大の難工事。
「あと、3センチ、下げてくれ!」
シリンダーの砂を抜く。
「だめだ、下がり過ぎた。5㎜、上げろ!」
水圧ジャッキで上げる。
じわり、じわりと。
そして、ついに最初の結合ボルトが入る!
「やったぁ!! 入ったぞ!」

万歳!(とは言ってないと思うが。フランスなので。)
よーし、でもこれからが大変。
第1展望台ができたと言っても、まだ全体の4分の1の高さでしかない。
これから、もっともっと大変な工事が待っている。
そして、エッフェル、キミは約束したよな?
「第1展望台ができたら、給料を倍にする」って。
お金は底をついているはずだ。
融資先ともケンカした。
これからが、正念場だ! エッフェル!!

て。。
あれ? 
もうできたの?
うそ。
なんで竣工式やってんですか?
あの。。給料問題は?
お金は?
市民の反対運動は?
ねぇ!

そして竣工式には、またあの「違和感美人」が。
なんなんですか、こいつは!

おわり。

久々にハズレを引きました。

映画を観た後、前のカップルが言ってました。
「途中からあっと言う間にエッフェル塔でけたな。。」
「なんかー。。消化不良。」

うん。全く同感。

でも、いいんだ。
今日は探していた傘が買えたから。
帰り道、結局雨は降らなかったけどね。







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