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雨と、サンカヨウ。

ポツリ、、、

肌を滑る雨粒。

ポツリ、、、

揺れる睫毛。

ポツリ、、、

重くなっていく髪の毛。


そっと、目を瞑ってあの日を思い出す。


・・・・・・・

その日も雨だった。


朝から違和感があって、
それは、肌の調子が悪いとか、
前髪が決まらないとか、
熱っぽいとか、そういった類のことではなく、
じわじわと侵食していた灰が一面に染まり切った感じがした。


放課後になるとそれは、濃く重くなっていて
周りの声も、雨の音も聞こえなくなっていた。

気づいたら歩道橋の上から、二つ並ぶ傘とか
一つの傘の両脇からはみ出した色の違う肩とか
忙しなく動くワイパーを眺めていた。

別に悲しいわけじゃなかった。
ただ、疲れただけ。

張り付いて離れない笑みとか、
変に伸ばした語尾とか。

山とか谷に対して恐怖心があった。
穏便にすむところは穏便に。
それが一番。信じて疑わなかった。


「俺、サンカヨウ初めて見た」

急に降ってきた、低く気だるげな声にビクッとして振り返ると
一人の男がうざったそうに前髪を揺らして立っている。

「綺麗だな」

私に傘を傾けるでもなく、ただ一人つぶやく男は微笑した。

―――変な人。
恐らく制服でびしょ濡れの私のほうが明らかに変な人であることは間違いないが。

しばらく二人見つめあっていると、視界が黒に阻まれた。

「俺、今日はラッキーだからやるよ」

私の手に無理やりそれを持たせると、彼は去っていった。
振り返ることなく降りていく背中をずっと見ていた。

灰が薄まっていった気がした。

・・・・・・・


この時期になると思い出す彼のこと。

触れた手の感触、
耳に残る低い声。


―――サンカヨウ

あの後調べたその言葉はあまりにも私に不釣り合いだった。
なのに何故か、揶揄われたなんて思えなくて、今でも馬鹿みたいに雨に濡れて、何に期待しているのかも分からずにあの日と同じように、歩道橋の上。






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