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レモンと、彼。

教室を照らす陽光

柔らかな風と夏の匂い

まるでレモンを絞ったような、そんな夏。


視界に入る髪を押さえ、結ぼうかと迷いながら、
白が増えていく黒板をただ見ていた。

―――あつい、な、

五日前に席替えをしてから、右側がやけに重く、熱く、感じる。
彼が居る右側が。                          左から差し込む陽よりも右側があつく感じるのはなんでだろう。
学校生活一番のくじ運を使ってしまったみたい。

―――ありがとう、神様。

今日こそ、今日こそと意気込んでは未だ話しかけれずに終わっているので、
気合を入れる為に昨日少しだけ切った前髪は、少し切りすぎた。

今日もこのまま放課後を迎えることになりそう。
前髪のせいだから、しょうがないと言い聞かせることにした。

陽の光に眠気が益し、
欠伸ひとつと、何気なく見た隣。


―――え、目、合ってる、、、

欠伸を見られた恥ずかしさと、
目が合ってしまった事の焦りで徐々に全身が熱くなってくる。

『眠くなっちゃった。』

ごまかすよう吐き出した言葉は震えた気がする。            心臓がうるさい。止まれ、止まれ。

陽の光のせいか、切れ長の目がきらきら光ってみえて、
鼓動が止まらない。


「眠いよな、」

ポツリ、そう言った彼の表情は変わらずいつものポーカーファイスで
羞恥がいっぺんに高まった。

『後、五分で終わるね。』

そう言って逃げるように前を向いたけど
もう少し喋りたかったと、後悔した。


耳に残る彼の低い声と、きらきら光る目が離れない。

―――あぁ、ありがとう神様。

酸っぱさと、まぶしい黄色の、レモンのような夏が始まる気がした。


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