今年の暑さは何か大切なものだけを溶かす無邪気で残酷な遊びを思わせる。冷たさへの憧れなんて。諦めてしまったみたいじゃないか。

 暑い。初夏にしてこんなに暑い。ちょっと怖い。暑すぎて怖い。抜けるような青空の果てしなさが、眩い光の乱反射が、ボケッと立ちすくむ午前中の私の情けなさを告発しているような気がする。ガリガリ君は溶けて、足元に。集まって来た蟻を踏んで歩き出す。

 台本作業は遅々として進んでいない。上手くやれている部分もあるが、上手くやれていない部分の方が遥かに多い。強迫的な夕暮れで真っ赤に染まった部屋の中で気が付くと、周りから音が消え去っている。ふとそれに気が付き薄気味悪くなる。背後で音がして振り向くと、リビングの窓にさっと影が映る。それは手の形に似ている。ジッと見つめると手招きしている。ゆっくりとそれは手招きしている。ゆっくりと。ただひたすら手招きをしている。

 怖い話を毎日の様に読んでいる。台本作業にかかる資料は通常の新作公演よりも膨大だ。これ一々買い込んでいたら財布と床に大きな穴が開く。

 頭がおかしくなりそう。毎日怖い話を読んで、毎日怖い台本を書こうなんて!!私はホラー文学、怪談文芸、その他、とかく読書が好きな訳だけれど。怖いのを読むのは好きだけれども!!こうも毎日読んでいるとヘロヘロしてくる。息抜きにひよどり祥子『死人の声をきくがよい』を読んでいる。これもまたホラー漫画・・・。

 ここ最近、金縛りにめちゃくちゃ合うが、部屋で急に見知らぬ着信が響いたりするが、本棚の本が何故かバタバタと落ちるという事が多発するが、いたって私は台本作業にかかるヘロヘロ具合をのぞけば元気である。煙草も止めたし、酒の量も少し安定してきた。

 というか金欠&台本でたらふく酒が呑めないという事でもあるが・・・。是非とも皆さん、私にご馳走してください。それと忘れてた!!これこれ。

 是非ともお願いします。WSの依頼。評判や感想は例えばXで「排気口 WS」で検索!!宜しくお願いします。

 という訳で、もっぱら今年の8月に公演予定の排気口ホラー長編『邪神伝説(仮)』の台本作業の日々。前回のホラー新作『人足寄場』に出てきた排気口の中村ボリが演じるマレ林ポえという主人公が今作でも引き続き登場する。というか私はWSの新作では3本に1回の割合でホラー台本を書くのだが、大体このマレ林ポえちゃんが登場する。気に入ってるからだ。名前が。

 名前と言えば今回の『邪神伝説(仮)』は(仮)の文字がある通り仮タイトルなのだが、私はちょっと気に入っていて、排気口のフライヤーを作ってくれているぢるちゃんに「このタイトルのままでも良くない?」と言ってみたところ、とんでもない勢いで「ぜったいにいやですよおおおおおおおおおおおおおおおお!!」と返されてしまった。

 普段はとても穏やかなぢるちゃんがこんなに拒否反応を示すのは長い付き合いの中でも「ぢるちゃんってさかなクンとキャラ被ってるよね」と言った時ぐらいだろう。

 そもそもがいつも仮タイトルをテキトーに付ける私であるから、今回もどうせふざけて付けたのだろうと思われた節もある。しかしこの『邪神伝説(仮)』そこまでテキトーでもないのだ。

 今回の新作ホラー長編の大きな影響元に朝松健『黒衣伝説』という本がある。この88年出版02年に完全版として再販された、オカルト本とホラー小説の狭間を漂う稀有で恐ろしい傑作に因んで「~伝説」と言う風にしたかったのだ。じゃあその頭にやってくる2文字はどうしようか?と考えていた時に、ちょうど『ガメラ3 邪神覚醒』を観ていた私はピシャリと膝を打ち、「これだ!!邪神伝説だ!!」と相成った訳なのだ。まあでも多分違うタイトルになると思う。排気口の他の人たちも「このタイトルはちょっと・・・」の感じを漂わせている事だし・・・。

 ちなみにこの朝松健『黒衣伝説』は非常に強烈なので読む際は注意されたし。私が上記にあげた金縛りにめちゃくちゃ合う、部屋で急に見知らぬ着信が響いたりする、本棚の本が何故かバタバタと落ちる、他にも思い出したが夜中に無言電話がかかってくる、作業机に置いてある資料の位置がズレている等の変事。これらを全く気にしないのは本書の反面教師的姿勢に他ならないのである。何がどう反面教師なのか?え?ちょっと色々変な事起こり過ぎてない?と思われる皆さんは是非とも朝松健『黒衣伝説』を呼んで頂きたい。そうすれば「なるほど!!穂波さんはだから小っちゃい事は気にするなのゆってぃ精神で台本作業していたんだ」と理解して頂けると思う。

 とかく怖いものを考えてたり、怖い本を読みまくっていたり、方々から怖い資料を取り寄せては机の周りに積み上げていたら、そりゃあ1つや2つは変な事も起きる。私はビビりだ。しかし朝松健『黒衣伝説』から学んだのだ。もう小さい事は気にしない。何にも気にしない。全く気にしない。夜になったら酒を呑む。美味しいおつまみと一緒に。初夏の風に吹かれて。冷酒を呷る。2軒目はバーもいいかもしれない。バーボンで改めて乾杯して、それからおとぎ話を作ろう。だからみんな私に酒をご馳走してください。わー!!

 今、はっきりと誰もいない隣の部屋から声が聴こえた。「書かない方がいい」と。それが台本なのか、マスの方なのか、今の私には判断できないが、少しだけ不安だ。見知らぬ番号からの着信は今日までで14件を超える。それも公衆電話からだ。

 何事もほどほどに。怖いのは特に。皆さんの穏やかさを祈って

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