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6月日記。排気口新作公演『午睡荘園』台本作業完結編。

2021年7/29(木)から公演される1年半振りの排気口新作長編『午睡荘園』を私が書き始めてから書き上げるまでの日記である。例によって日付は伏せている。順不同である。また公開出来ない箇所や著しくプライベートに触れている箇所も削除している。今回はとうとう完結編である。

6月某日 身体が怠い。エナジードリンクを意味もなく飲む。2場。書くのが辛い。部屋で書く。ネカフェでの台本作業は著しく健康を損なう。明け方、焦燥で喫煙が止まらない。なにがダメで、なにが正しいのか。頭の中でグルグル回る。ふと、チェーホフの1シーンを思い出す。引用するのは有りかもしれないと考える。上手くハマればいい。手元の画面でニュースをパラ見する。陰鬱な気分になる。他方で素晴らしい事や美しいものが確かに存在する。例えばスピーカーから流れるthe pillows『PIED PIPER』とか、いつかの君のワンピースとか、完成直前のプラモデルとか。なのに余りにも差のありすぎる哀しみの結晶みたいなニュース達。私はそれを現実だと思い込んでしまうよ。

6月某日 山場。これを乗り越えると後はぐっと楽になる。が、進まない。エナジードリンク&ラムネ&喫煙。身体の倦怠感。手のむくみがすごい。昨日から引き続きthe pillows『PIED PIPER』を聴く。このアルバムを最初に聴いたのは高校生の頃だった。今も変わらずにワクワクしたりドキドキしたり出来る事がとても嬉しい。好きだったものへの魔法が解けるなんて、そんな悲しい事はない。全く書けなくなる。やけに明るいシーンを無理やり書く。フェイク。全て消す。もうダメ。いやになってベッドに横になる。頭は回らず、ひたすら焦り。音楽を聴く気力もない。しょうがないので寝る。エナジードリンクガブ呑みのせいで寝れない。近くにあった折原一『愛読者』をパラ読み。吐き気。『無職文化週報』の震災を特集した回を思い出す。打ち捨てられた電柱。打ち捨てられた・・・。江戸時代後期の水戸学の影響に端を発する廃仏毀釈。打ち捨てられた・・・。wikiでサクっと廃仏毀釈による廃寺と神塔を調べる。サクっと・・・。こーゆのもイコノクラスムと言うのだろうか。手塚治虫『火の鳥 太陽編』をパラ読み。破壊されたもの。捨てられたもの。破棄されたもの。それらかつてあってもの。今はもうないもの。思い出せる事。思い出せない事。また会える人。もう会えない人。世界の全てが儚く想える。私たちの全てのお別れは永続的で、想像以上に出会いは刹那的。台本。気力で4ページ書く。腰と目の痛み。エナジードリンク。さらに気力で2ページと3ページの書き直し。朝の光。喫煙。この部屋であと何回こんな風に煙草を吸えるのだろうか。周りに誰もいなくなってもスピーカーからかつての喜びと喧騒の結晶みたいな音楽。BUDDHA BRAND 『人間発電所』を聴きながら身体を伸ばす。

6月某日 エナジードリンク。オレンジ味。台本。5ページ進める。それから詰まる。いよいよ後半戦もハーフタイム直前。ここが踏ん張りどころ。煙草が切れたのでコンビニへ。道中にブロンの箱が散乱していて腹が立つ。私の住んでいる近所にずっと前からストロングゼロとブロンによるケミカルオーバードーズを日課にしている野郎がいる。別にストロングゼロをガブ呑みしようが、ブロンでオーバードーズしようが個人の自由である。しかしそれを道端に捨てていくのは誠に腹が立つ。去年なんて裏手に広がる大家さんの畑に常習的に大量のブロンのゴミを捨てていた。堪忍袋の緒が切れた私は流行りのケミカルに溺れすぎな彼に注意しに行った事がある。とにかく彼に言いたい事はシンプル。「家でやれ」そして「自分のゴミ箱にすてろ」しかし意識変容&酩酊の彼は全く私を無視して道端に座り込んで「あー」だの「うー」だの言っているだけ。諦めて部屋に帰った私の目にはうっすらと涙。もうなんなんだアイツは!!台本。気力で6ページ。エナジードリンク休憩。目が痛い。身体がバキバキ。ベッドに横になる。近くにあった魚喃キリコ『短編集』をパラ読み。殆どの作品が私の中で色褪せてしまった様な気がする中で収録作「日曜日にカゼをひく」だけは相も変わらず素晴らしい。起き上がり台本。2ページ。時間がない。

6月某日 もう嫌だ。台本書くのもう嫌だ。なんだ台本って意味わからん。腰も目も痛い。何も出てこない。なんだ台本って意味わからん。

6月某日 台本。12ページ進み3ページ書き直し。ようつべでひたすらネクライトーキーを聴く。明け方。さらに4ページ進む。

6月某日 台本。5ページ進む。4ページ書き直し。

6月某日 とうとう終わりが見えてきた。台本。1年半振りの新作長編。すなわち1年半振りに100分の台本を書くということ。こんなにキツいだなんて思わなかった。でももうすぐ終わりだ。名残惜しさは全くない。むしろ早く終わって欲しい。早く書き上げてwordとかExcelとかパーソナルコンピューター。とにかくそーいったものたちとオサラバしたい。両手を奮って四つ葉のクローバーを探しに行きたい。麻布十番にオリジナルの万華鏡を作りに行きたい。夏の日差しを浴びながらクーラーの聴いた部屋で好きな音楽を流しながらずっと万華鏡を覗いていたい。そんな未来にようやく1歩だけ近づく事ができる。この台本の終わりがもうすぐ。喫煙。ねえ、これは終わりの合図?それとも始まりの合図?

6月某日 書き上げる。朝方4時。誰もいない部屋で飲酒。ハイボール。美味い。昼から稽古初日。

 以上が排気口新作公演『午睡荘園』の台本作業の顛末である。愚痴とエナジードリンクと飲酒と喫煙と腰痛に塗れた七転八倒である。今回も無事書き上げることが出来た。過去の自分にディープサンキュー深い感謝である。台本作業とは何とも不思議なものである。書いている間は辛いのに書き上げてしまえばその辛さを忘れてしまう。そうして次に書くときに思い出す。ああそうだ!!こんなに辛いんだった!!ってな具合に。現金なもので台本を書き上げた翌日から部屋での飲酒は当社比6倍。ガブガブ呑んで、デロデロ酔っ払って、最高な音楽に合わせてハツラツに踊った。それは稽古中の今も余り変わらない。ずっと酒は私に語りかけていた「ハローハロー」でも、その声を私は無視していた。今答えると「あの日の言葉はグッバイさ」でもこうも思ってた。「いつかはまたこう言えるのかハロー」という訳で飲酒しているのです。ハロー。言えて良かった。デロデロ。酔えて良かった。

 排気口新作公演『午睡荘園』は夏の話である。ショッカーの戦闘員達が共同で暮らす小さなアジト。一緒に暮らす戦闘員の1人が明日改造手術を受ける。だから夕方から送迎会があって。そんな夏の夕方から昼までの1日の話である。

 別にショッカーじゃなくてもブラックサタンとかデルザー軍団とかゴルゴムでもデストロンでも良かったが、歴代の仮面ライダーのビジュアルで私は旧1号が一番好きなのでショッカーになった。

 夏の夕暮れ、遠くで祭りの音が聞こえて。部屋でみんなでくだらない話をしたり、少しだけ本当の事を喋ったり。そんな時間を書きたかった。その時間の中には死の匂いがする。私たちが集まるという事で生まれる残酷さが孕んでいる。それから哀しみと喜びも。そんな時間を書きたかった。そんな時間が流れて、留まり、また流れる。そんな場所に集まる人々を書きたかった。

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 長い時間も短い。そうして冬になる。夏にしか存在しない魂があると信じている。クーラーの音で喜び、扇風機の首振りで頷く。そんな魂があると信じている。暑さで溶けて、道端に転がる。そんな風に消えていく魂がある。秋の枯葉に埋もれて二度と見つけることのできない魂。せめて上に。ずっと上に。しかめた顔で見上げた空の青さの方へ。せめて、その方へ。

 100分近い私たちの1年半振りの近況報告。そんな魂たちを挟んで、もう一度こんな風に考えてみる。「その手をどうやって握り直すのかでは無く、どうやってこの手を離すのか」夏の入口にあって、秋の入口にないもの。夏の渦中にあって、冬の渦中にないもの。夏の暑さにあって、春の陽気にないもの。全ての死者が鎮魂を済まさずに笑い合える彼岸と此岸が混ざりあう時間。

 君にとっても私たちにとっても救いとかみたいな感じじゃ全然ないんだけど、お金とかかかるけど、暑い中歩いたりしなくちゃいけないんだけど、好みとか好みじゃないとかあるけど、予約して観に来るっていうのは、少なくとも偶然じゃないんだよ。手汗とか気にしないで。触れ合わずに語り合う。


排気口新作公演『午睡荘園』
三十九祭参加作品

日時
7/29(木)17:00~
7/30(金)12:00~/17:00~
7/31(土)12:00~/17:00~
8/1(日)12:00~/17:00~(配信回)

チケット代
来場3500円
配信2500円

会場
アルネ543(西武池袋線富士見台駅徒歩2分)

ご予約フォームはこちら
https://quartet-online.net/ticket/39sai_haikikou_gosuisyouen

三十九祭 公式HPはこちら
https://39sai.jimdofree.com

来場用予約フォーム(当日精算、振込選択可)
http://is.gd/TLBiZd

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三十九祭公式サイト
http://is.gd/6Ipzc5


作演
菊地穂波

出演
佐藤あきら
中村ボリ
坂本ヤマト
水野谷みき(以上、排気口)
ケンタウロス骨
松田顕生
東雲しの
長谷川まる
森下さゆり



 


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