名前のない役者達『おきながら見るほうの夢』の話。完結編。

 排気口新作公演は8/25(木)~8/28(日)に荻窪小劇場で公演される。ありたいていに言えば台本作業が酷くしんどい。ラストスパートをかけているが身体が追い付かなくなってきた。各種エナジードリンクをバケツで飲むフェーズに突入した。

 さて8/11(木)~21(日)北池袋新生館シアターにて名前のない役者達『おきながら見るほうの夢』も公演される。こちらも私が作・演を務める。15人の役者の方々と作品を作る。新作短篇である。詳しくは前回のnoteもしくは下記のリンクをどうぞ。そのまま予約もどうぞ。

 『おきながら見るほうの夢』は排気口ワークショップに書き下ろした台本を元にした新作短篇だ。仮面ライダーが恋人の家に挨拶しに行く短い夕暮れの話だ。締め切り直前まで『ビューティフルライフ』を観ていて木村拓哉に惚れていた。この台本は『ビューティフルライフ』に登場する恋人を私なりに書いてみたらどうなるだろうかと呆けた頭で考えて出来上がったものだ。恐らく。多分。

 しかしこの台本は予想外に多くの示唆を与えてくれた。書いている時に劇中に登場する仮面ライダーの敵であるショッカーという組織が神秘主義的なカルトなのではないかという思いが過った。その思いは翌年の排気口長編公演の元になった。『午睡荘園』で極左系団体を元に個人と組織のあり様を書いた。『金曜日から』では斎藤貴男『カルト資本主義』を元にカルトに翻弄される個人と組織を書いた。今日の宗教の問題を観るにつけまるで私が劇中で書いた狂信者としての個人が齎す悲劇を見せつけられる様な思いだ。しかしまだ劇中には多くのくだらなさと祈りがあった。現実は余りにも残酷だ。

 『おきながら見るほうの夢』はこうして2本の長編公演の元になった。それを新しく15人の役者の方々と作り上げられるのを嬉しく思う。

 名前のない役者達の稽古は12時間だ。3班に分かれて朝から順繰りに稽古していく。1班4時間の計算だ。しかし私と手伝ってくれる演劇祭スタッフは12時間フルで稽古なのでこれはもう心身共に激疲労である。余りの疲れに夕暮れと朝焼けの区別がつかなくなる。休み時間に外に出てそこらへんの草とか土とかを食べている。もう食えれば何でもいい。

 コロナ禍の時代に演劇の場はどんどん少なくなっていく。前はもっと気軽であった。気楽であった。スキップも出来た。誰かが叫んだら奥歯が見える事もあった。でもそんな場はもう少ない。ガチ具合のリスキーな空気がある。そこではみんな、いつ中止になるか分からない不安をベッドする。

 私が排気口新作公演の時期と被りながらもこの名前のない役者達に参加したのは偏に1つでも演劇の場に手伝えることがあればという思いからだ。なるべくヘラヘラしながら、深刻になり過ぎないように。私に出来る事があるのならそれは台本を書いて、演出をすることだけだ。それ以外に無い。だから12時間グワーッと稽古して、帰りの電車で寝落ちして、勘でテキトーに降りて、見知らぬ駅で途方に暮れるのだ。先日は「きさらぎ駅」という名のホームに降りた。ソッコーでタクシー乗って帰ったけど。

 この時期に本当に大変である名前のない劇団の方々に多くの感謝を。役者の人たちも風呂に入ってシャンプーとリンス間違えて2回連続でシャンプーしちゃった時、PASMOの残高を過信しすぎて改札通れなかった時、眠れない夜、寝坊した朝、そんな時に感謝をして下さい。感謝は2秒で終わる。あとは元気に舞台に立ってドガーンとカマして下さい。残りの感謝は私がやっときます。

 この作品は役者15人と私を手伝ってくれる稽古付きのスタッフの方々そして七面倒であろう全ての運営をしてくれる方々によって出来ています。そんな想いに無自覚にならない事も大切だ。

 観てみようかなって人へ。朗報があるとすれば3班全部違います。3班ともそれぞれの全然違う素晴らしさをもっているので、それに合わせて台詞も変えているのでホントに3班とも違います。チラっとスタッフの台本を見たらぐちゃぐちゃになっていました。それぐらい違います。欲を言えば3班とも観てください。それから藤田さんのチームも観てください。そしたら名前のない役者達に名前をつけられる権利が発生すると思います。わかんないけど。

 全てのコロナ禍の恋人たちには、その後の排気口の新作公演の方もおススメです。排気口は全ての観劇デートの上位に位置します。

 とにかく元気なら観に来てね。全ての穏やかさを祈っています。

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