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「自民党内の増税反対はヤラセ!」に踊る人々に伝えたい深刻な現実

反自民ポルノ『日刊ゲンダイ』の投稿が、また左右を騒がせている。

 日刊ゲンダイさんいわく、自民党内の「増税反対」はヤラセなのだそうだ。つまり、党内で台本通りのプロレスを演じて、有権者のガス抜きを狙っているというのだ。

 この投稿を受けた左派界隈は、まぁ、いつもの感じ。
 左派は「やっぱり!」と反自民ポルノを与えられてギンギンになってしまっているし、右派はといえばなんか気に食わないから言い返してるって感じ。相変わらず、どっちもどっちである。まぁ、一言でいえば「陰謀論」なんでどうでもいい話である。

深刻なのは「これがヤラセの陰謀ならまだマシ」という事実である。


 なぜかといえば、少なくとも自民党の議員たちは「何が何でも増税する」ことを目的に、一丸となって大博打を演じるだけの「強い意思」と「実行力」を持っていることが証明されるからだ。つまり、政治の担い手としての最低限の資質をもっていることになる。

 しかし、現実はどうだろうか。実態はもっとお粗末なものだろう。

そもそも、今回の増税に関する国民の見解は「正気とは思えない」で一致している。

 つまり大反対だ。

 当然である。左右ともに「金融緩和路線の継続」が大多数のコンセンサスとなっているこの時期に、「増税」なんて受け入れられるわけがない。「防衛費の増額」に賛成している層ですら、「防衛増税」については早々に否定していたのが実態だ。
 反論もかなり具体的になされていて、国民民主党の玉木雄一郎が国会で指摘した「外為特会」、故・安倍首相の提案していた「防衛国債」をはじめ、そのほか「景気回復による自然増収と剰余金で十分」など具体的な財源を指摘して完全に論破していたのである。

 つまり、普通に考えれば、今回の増税強行は「岸田さん、さすがに無茶だよ」の一言で終わるはずの話なのである。

では、なぜ岸田首相が増税に踏み切ったのか。


 細かい事情はどうでもいいが、おさえておくべきは岸田首相は「財務省一族」の政治家であるということだろう。つまり、いよいよ岸田政権が潰れることが見えてきた段階になってきたので、完全に潰れる前に……と財務省側は扱いやすい岸田を捨て駒にしてせっせと「規定路線」を敷かせているのである。
 これは民主党政権末期に「野田佳彦」を捨て駒にして、消費増税を確約させた「三党合意」と同じ手法だ。結局、安倍晋三は三党合意を覆せずに自身の骨太の方針であった「アベノミクス」を台無しにしてまで、消費増税を実行した。これを「岸田政権」で再現しようとしているのだ。

 つまり、岸田の裏にいる財務省の目標は「増税は党の既定路線」という既成事実作りだ。これさえあれば、その後に党内の誰が政権を握ろうと、増税に持っていける……という企みなのである。

一方で、反対している清和会(安倍派)はどうか。


 こちらはこちらで、基本的に議員がそれぞれバラバラに反対を表明しているだけ。たとえば「清和会の閣僚が次々に辞任することで、岸田内閣を詰ませる」という派閥一丸となった戦いすら仕掛けられない。派閥の人数では明らかに上回っているのに、戦う前から負けているのである。

 ここから透けて見えるのは「反対は反対だけど、派閥内がまとまらない」という内部事情だ。覚悟をきめて戦いをしかけて、ほかの人間を否応なく抗争に引きずり込むようなリーダーがいないのである。結局、みんな貧乏くじを引くことを嫌がって、まわりの顔色を伺いながらギリギリの線で反対して有権者にアピールするチキンレースをしている状況だ。

なぜ、こうなるのかといえば、それは日本の選挙システムが原因だ。

 日本は比例性が低い小選挙区制を採用している。比例性が低いということは、大政党に有利で少数政党に不利ということだ。つまり、選挙においては「大政党の議員であること(さらには公認をもらえること)」が死活問題となる。そして、今、政権をにぎっている岸田という男は「ミサイル防衛よりも人事を優先する、エゲツないほどの人事大好きおじさん」である。

 この前提を理解すると、なぜ今「戦い」ではなく、チキンレースが行われているかがわかるだろう。政権に戦いをしかけるということは、選挙で公認をもらえなくなったり、最悪の場合には党を追い出されるリスクを負わねばならないということだ。つまり「絶対に勝てる戦」でないかぎりは、合理的判断として〝できない〟のだ。

「なるほど……それでは高市さんたちも歯がゆかろう」


 心優しい国民は、そう同情するかもしれない。だが、ここでもう一度、原点に立ち返ってもらいたい。そもそも、本来、この戦いは「勝てない戦でありえるのか?」ということだ。もう一度いうが、清和会は宏池会を人数で上回っている。ほか派閥の状況を総合しても「普通にやれば勝てる戦」なのだ。

 じゃあ、なんで現実に戦をしかけないのか。答えは簡単だ。清和会の議員は「職業政治家」か「俗物ども」の集まりだ、ということだ。
 もしも清和会が心ある議員の集まりならば、この重大局面において派閥一丸とならない理由がない。

・「金融緩和」はかつての派閥の親分・安倍晋三の遺志
・増税は明らかに岸田と財務省の都合でしかなく、国益に反する(というか、国が潰れる)
・ここで岸田を潰せば、日銀人事チャンス到来
・そもそも約束を反故にした騙し討ちで、政策に正当性がない
・増税反対に国民は確実についてくる

 だが、結果は事実としてまとまっていない。「万が一にも冷や飯を食うリスクを負うくらいなら、党の方針に大人しく従いたい」という職業政治家だらけか、あるいは「誰がリーダーをやるのか」とかの細かいことでウダウダいう俗物だらけかの2つにひとつだろう。

 自民党のそれぞれの勢力の内情を推察したところで見えてくるのは、自民党には誰一人として「政治家たる器」の人間がいないという事実だ。岸田首相は官僚の捨て駒で、その対抗馬になりうる派閥は「職業政治家」か「俗物」だらけ。「ヤラセ」ならまだマシといった理由は、これで理解してもらえるだろう。

日刊ゲンダイの「ヤラセ陰謀論」を悪くいったが……

 結果的にこの分析は「当たらずとも遠からず」ではある。つまり、事前に打ち合わせているような「ヤラセ」ではないが、結果的にそれぞれの利害が一致してしまって「ヤラセ」のような〝とても本気が見えない増税反対運動〟が展開されているのは事実なのである。本気ではないんだから、当たり前なのだが。

 それをもって、野党支持者の皆さんが「結果的に似たようなもんじゃねえか」と思うのは自由だ。しかし、それをいうなら、野党だって「ヤラセ」に実質的に参加している。しかも、その参加はもはや何年にもわたり固定化しているのだ。

 そもそも、財務省と岸田が、こんな無茶な増税路線を敷ける背景には、自民党一強の現状がある。今回の増税路線はあくまで「党内の既定路線」を敷くことを目的としたものだ。つまり、野党が政権をにぎることは全く想定していないのである。単純な話、立憲民主党あたりが次の選挙で政権交代すれば、財務省の計画は振り出しに戻る。ただし、立憲民主党の場合、彼らが代わって財務省の忠犬になるだけだろうが。

 ここから見えてくると財務省と岸田の本音は「ここで無茶な増税を強行しようが、国民は自民党を選ぶしかないだろう? 国民一丸となって野党に票を集めるなんて、できるんですか?」である。これに「できらあ!!!」といえない状況なのが、つらいのである。そして、そんな現状を生み出したのは、野党にも責任があるはずだ。第二党の立憲民主党は、清和会以上の「職業政治家と俗物の集まり」である。では、維新や国民民主党が政権交代を本気で狙っているか。ここにきても、狙っているようには見えない。

 自民党内部の戦いが「ヤラセ」ならば、日本の政党政治はずっと「ヤラセ」なのだ。これほど深刻で、救いのない現実があろうか。日刊ゲンダイの読者は、この事実に気づいているのだろうか?

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