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雨と初心者と古いフィルムカメラ

自宅からすぐに東京都三大庭園の六義園がある。
六義園は《りくぎえん》と読む。
季節ごとに違った風景を見せてくれる素晴らしい庭園でカメラ好きの自分は定期的に訪れている撮影スポット。
ウィルス自粛でしばらく閉園していたが7月から再開したということで、ある人物とカメラを持って六義園に行くことにした。

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最近カメラを買ったK氏。
知識がほぼゼロの状態でカメラを買った。
彼がはじめてのカメラとして選んだのがNikon F4だ。30年前以上前のカメラである。当時の最新技術が詰め込まれたプロフェショナルモデル。もちろん操作画面などはなくフィルムを入れて使うアナログカメラ。
この時代にデジタルを買わないという驚きの選択肢。大阪に行くのに新幹線を使わず自転車で行くことにしたっていうのは言い過ぎだけどそれぐらいの選択に近い。
フィルムなので撮った絵は現像しないと見ることはできない。レンズもマニュアルでオートフォーカスはない。
どう考えても素人がはじめて買うカメラではない。なのに彼は満足そうにそのカメラを愛でていた。
操作がわからない、難しい、面倒くさい。それら全てを楽しんでいた。なぜだかとても羨ましかった。
そしてなによりそのカメラは自分が今まで見たカメラで一番カッコ良かった。

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撮影当日の朝。
窓を開けて外を見ると雨だった。一瞬迷ったあとK氏に連絡を入れた。「雨降ってるけど決行しましょ」雨の六義園もなかなか良いのだ。
カメラに慣れていない彼には雨の中の撮影は少しハードかもしれないけど、はじめてのカメラでフィルムをチョイスするようなドMなので大丈夫だと判断した(笑)

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雨の中、まだ使い方もよく分かっていない30年前のプロ仕様アナログカメラと悪戦苦闘する彼の姿。
悪戦苦闘と書いたけど一緒に撮影しているうちに彼は苦労など何もしておらず、全てを楽しんでいることが分かった。

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この顔だ。もはやプロフェショナル。道具が人を選ぶというがまさにか彼はこのカメラに選ばれた人なのかもしれない。
綺麗な写真を撮ることだけがカメラじゃないと雨の降る庭園で古いカメラを構える彼から教えられた。カメラは初心者だけど誰よりもカメラを楽しんでいた。

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あまりに楽しそうに撮っているので自分の使っているカメラ(Canon EOS 6D)と交換してもらった。K氏に自分の持ってきたカメラの使い方を簡単に説明すると「わかりました、お借りします」と言って彼は緑の茂みへ消えて行った。
自分の手にはK氏のNikon F4が残った。
とても重くカメラというより限りなくメカ。カメラを舐めるなと言われている気がした。
偉そうに語っているが実は自分もカメラを始めてまだ3年の初心者だ。フィルムカメラは使ったことがない。
ちょっとした好奇心から来るワクワクを感じながら重いメカのガラス窓を覗いてシャッターを切った。
カシャッウィーンキュンッ
その音に鳥肌が立った。なんだこのカッコいい音は!!
機械っぽいシャッター音にフィルムを巻き上げるモーター音が相まったサウンドだった。もう一回聴きたい。
シャッター音が聴きたくてもう一枚撮ることにした。
レンズを操作してピントを合わせる、ついでに分からないボタンを押してみたけど何も変わらない。
カシャッウィーンキュンッ   アハッ 気持ちイイ。
音だけではなく操作する楽しみを感じた。そして撮った絵を確認できないという一発勝負感が楽しさを増幅させてくれた。
実際に撮った写真をここに載せたいところだがなんせフィルムカメラK氏の現像待ちなので残念ながら私が撮った素晴らしい写真はお見せできない(笑)
代わりに私のカメラでK氏が撮った写真を載せておこう。

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K氏がフルサイズのデジタル一眼レフで初めて撮った写真。なかなか上手。少なくとも自分よりは。
K氏には「ふーん、なかなかだね」と言っておきました。
雨の兼六園でおじさん二人。
初心者であるK氏と往年の名機。デジタルカメラとフィルムカメラ。不思議な対比から大切なことを学ばせてもらいました。
この日の晩、中古のフィルムカメラをネット検索していたことは言うまでもないでしょう。

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K氏に借りて撮った写真がどんな絵になったのか現像されてくるのが楽しみです。
便利になった今の時代では撮った写真はすぐに画面で確認できます。それはそれで素晴らしいんだけどこの現像するまで見られないという不便さには沢山の楽しさや面白さが隠されているように思いました。以前このnoteにも書いたけど不便を味わうという大切さ。まさかカメラを通して触れられるとは思わなかった。
K氏、ありがとう。

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