貧困層
貧困層
ニューヨークタイムズ紙のベストセラーの一冊である「退去させられた」(“Evicted”) 、2016年出版、を読んだ。
著者はマシュー デスモンドで、 ハーバード大学社会学准教授だ。
本の内容理解のため、書物を読むばかりではなく、運良くオーディブルで同書を見つけ、10時間近く、数日に分けて、台所仕事をしながら、聴き続けた。
米国の貧困の原因は多々ある。 両親が貧困、失業、病気、中途退学、個人の怠惰、飲酒問題、薬物中毒、精神疾患、犯罪歴その他。
でも、 デスモンド准教授は、借家人が住んでいる所を、強制退去させられる事も、「貧困に落ち入る大きな理由である。」と、述べている。
著者は実際、 この調査のため、ウイスコンシン州ミルウオーキー市の、貧困層が住む地域にある多数の、トレーラーハウスの一つに、5ヶ月間実際に住んでいた。
また、他の低所得層の住む地域で、8カ月ほど、間借り生活を続けながら、立ち退きさせられている店子の様子を観察した。
大勢の人々と接触し、実情を良く聞いたが、この本では、その中で、8種類の事例を挙げて、米国の貧困問題を浮き彫りにしている。
黒人、黒人女性、母子家庭、白人の身障者、移民などの現状を詳しく報告しながら、「住宅問題が、貧困問題をより悪化させている。」と、説明している。
家主側からも、事情を詳しく聞く努力もした。例えば、一人の大家さんを例に挙げている。
「元小学校教師であったAが、偶然が重なり、 不動産賃貸事業を起こし、徐々に、利益をあげ、その事業を拡大していった。」
「立ち退き」の原因もさまざまだ。 准教授も、子供時代、自分の両親の何らかの失策で、両親の家が差し押さえにあって、 長い間、両親を心の中で非難していた経験もあった。
「家を追い出される状況の増加は、社会制度上の問題であり、根本的に、その制度を改革する必要を説いている。」
「多数の人々は、ややもすると、貧困に陥るのは、本人のせいであると、個人のせいにしてしまいがちだ。」
また、強制退去命令を受けた本人も、「自分が悪い。」と、自分を責めてしまいがちだ。
デスモンド氏は、数年間分の、立ち退き命令記録と、警察への緊急電話の記録等を、詳しく分析した。
「特にアフリカ系アメリカ人の母子家庭は、家を借りるのが難しい。」
「大家さんは、子供のいる家族に、家を貸す事を躊躇する傾向が強い。」
「何らかの理由で、立ち退きを繰り返す内に、以前より、もっと酷い家、しかも、もっと危ない地域に移らざるを得ない。」
2008年からデスモンド氏は、 ミルウオーキーでフィールド ワークに携わった。
(ある調査対象について、学術研究をする際は、そのテーマに即した場所を実際に訪れ、その対象を直接観察して、関係者に聞き取り、アンケート調査を行い、現地で史料、資料の採取を行うなど、学術的に客観的な成果を挙げるための調査法)(グーグル)。
「強制立ち退きが繰り返され、 どんどん落ちぶれてゆく場合が多い。 子供のいる家族の場合、子供達は何度も転校せざるを得ない。」
「社会福祉で貰える金額、628ドルの88%を、家賃に取られてしまう店子達が多い。」
「フード スタンプ(食品割引切符)や、公的扶助の一つである、補助的栄養支援プログラム等を利用できても、 1ヶ月の生活は苦しい。」
「下層階級に落ちこぼれてゆくほどに、 借りられた家も、お湯が出なかったり、絨毯が擦り切れていたり、 修理が必要な箇所が多いけれど、修理代が高くて手が出せない。」
「大家は、電話に出ないなど、 修理の責任を避ける傾向が多い。」
「そして、借り手が、家賃を支払わず、「修理後に払う。」と言っても、 大家も「家賃滞納中は、もちろん、修理などしないの一点張り。」両者の水掛け論で、拉致があかない。」
「立ち退き命令書が出るのは、公式立ち退きで、裁判所や弁護士も関わる。」
「大家側は当然弁護士を雇うが、借り手側は弁護士費用も工面できないので弁護士なしだ。 その結果、大概、大家側の言い分が通る。」
「非公式の立ち退きもある。 大家側が店子に、例えば、200ドルの現金を見せて、自主的に立ち退く場合は、店子に200ドルを渡す方法だ。」
「立ち退きの犠牲者で一番多いのは、アフリカ系アメリカの母子家庭だ。」
「アフリカ系アメリカ人男性は、どちらかと言うと、刑務所入りが多く、女性は家を追い出される場合が多い。」
「ウイスコンシン州の冬は寒い。でも、季節に関係なく、立ち退き命令は貧困層を襲う。」
「次の住処を探して、 電話をかけまくっても、なかなか見つけられないのが現状だ。」
デスモンド氏は、 90回目でやっと借家にありついた人の実情を、実際に観察、数も数えた。
「いったん立ち退きを経験すると、その記録は公の情報に組み込まれてしまう。」
「大家は、立ち退き経験者リストに、掲載されている店子は避けようとするので、 ますます見つけるのが難しくなる。」
「昔は、強制立ち退きの事例は稀であったが、現在はアメリカの各地で、残念ながら頻繁に行われているのが現状だ。」
アメリカは世界の中で、 だんとつの超先進国である。 でも、 内訳を詳しく見ると、超富裕層、富裕層、上級中産階級、中産階級、貧困層など、様々に分けることが可能だ。(久子の観察)
21世紀に入り、20年以上過ぎたが、少数の超富裕層はますます富を蓄積、今まで中産階級だと確信していた多くの庶民が、貧困層になだれ込み、今までの貧困層がもっと貧しく落ちぶれていっている。
結果的に、貧困層の数がうなぎ登りで増えている。
米国の中に、先進国、中進国 そして後進国が同時に存在しているのが現状だ。(久子の意見)
世界の先進国の中でも、 アメリカ国内の貧困者の実情は、一番厳しいと著者は述べている。