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短期研修プログラム「表現/社会/わたしをめぐる冒険」|レポート⓪イントロダクション

はじめに

長野県上田市にある劇場兼ゲストハウス「犀の角」は、今秋「表現/社会/わたしをめぐる冒険」という短期研修プログラムを実施。さまざまな分野で表現にたずさわる35歳以下の若者たち13名が犀の角に集い、三日三晩、言葉や想いを交わした。

短期研修プログラム「表現/社会/わたしをめぐる冒険」の概要は以下の通りだ。

本プログラムは、次世代を中心的に担う世代(35歳以下)を対象として、劇場、美術館、音楽堂、映画館、福祉施設、医療施設、相談支援等の場において、独自の視点で作品創りやオルタナティブな場を生み出しているメンターたちと共に、コロナ後の世界を生きる新たな表現や価値観が創造され発信していくためのアイディアやその手段を見い出し、共に発明していこうとする場です。 

(引用:犀の角公式サイト

35歳以下の受講者13名、すでにそれぞれの分野や現場で活躍しているメンター17名、地域の人たち総勢30名以上が犀の角でそれぞれの抱えている想いを「もやもや」と称し、壁に貼りながら共有した。

このnoteは、短期研修プログラム「表現/社会/わたしをめぐる冒険」についてのイントロダクションである。犀の角で起きたこと、あるいは「記録」という立場から見たことを綴っていく。この後に続く、受講者たちの想いが綴られたnoteへのみちしるべとして、読んでもらえれば幸いだ。


わたしを、社会を、表現をめぐる冒険へ

9月8日(金)冒険のはじまり

「はじめまして」「あ、はじめまして」
会場のあちらこちらで自己紹介がはじまる。受講者同士、あるいは受講者とメンター、メンター同士、さまざまな「はじめまして」あるいは「ひさしぶり」という声が聞こえる。定刻を少し過ぎたあたりで開会した。オリエンテーションとして、犀の角の代表・荒井洋文さんが本プログラムについて、犀の角について、そして上田と街をめぐる話をした。受講者たちは、荒井さんの話を一つとして取りこぼさないよう、前のめりに、あるいは静かに耳を傾け、メモをとっていた。

オリエンテーションが終わり、セッションという名のワークの時間へ。受講者は「公共施設」「制作者」「福祉・教育」というそれぞれの所属に基づいた3つのグループに分けられた。会場には3つの大きな机が用意され、それぞれに付箋と模造紙が置かれていた。

セッションでは、受講者が普段感じている思いや悩み、困りごとなどを「もやもや」と称して付箋に書き出し、他の受講者たちと共有した。すぐにもやもやを書き出せた受講者もいれば、「言語化できない!」と頭を抱える人の姿もあった。

グループごとのもやもやの共有を終えると、それぞれのグループの模造紙が壁に張り出された。もやもやの内容から付箋の貼り方まで、三者三様の様相を呈していた。

「30代の仲間がいない」
「助成金が終わった」
「学校もアートも『社会とのつながり』とは言うけども・・・」

壁に貼り出されたもやもやには、「公共施設」「制作者」「福祉・教育」といった受講者の所属、そしてそれに基づいたグループ分けの影響が随所に見られた。全体共有を通して、それぞれのグループのもやもやの特徴をつかむ受講者、そしてメンターたち。

「社会のとのつながりについて書いてあるが、どういうニュアンスか」
「若手と作品が作れないとはどういうことか」

質疑応答を通して、もやもやを深めていく。セッションを終え、食事会の準備に取り掛かった。

食事会の最中、筆者は受講者全員にインタビューをおこなった。「初日を終えてみてどうだったか」。シンプルな問いに対して語られる言葉に耳を傾ける。「言葉にならない」そんな言葉が多くの受講者から語られた。インタビュー後、もやもやが貼り出された壁を眺めた。グループ間にへだてられた壁、あるいは受講者、メンター、運営に至るまで、その場にいる者たちに固い殻があるように感じた。

9月9日(土)冒険の途中に

2日目は、午後に「アート・福祉・<障害>の現在」をテーマにした事例発表とセッションが予定されていたこともあり、関連企画としてNPO法人リベルテが運営する施設見学の時間が午前中に設けられた。見学は希望者を対象にしていたが、受講者のほとんどが参加した。

午後の事例発表では、信州アーツカウンシルのゼネラルコーディネーターである野村政之さんが進行を務め、神奈川県横浜市にある生活介護事業所カプカプの所長・鈴木励滋さん、株式会社precog代表の中村茜さん、上田市にあるNPO法人リベルテ代表理事の武捨和貴さんが、障がい者福祉について、それぞれの現場で見つめてきたことを受講者たちに共有した。

事例発表の後、グループワークを行った。1日目に組んだグループとは異なるメンバーになるよう割り振られ、それぞれのグループに野村さん、鈴木さん、中村さん、武捨さんが混ざった。1人の話にじっと耳を傾けるグループ、活発に議論が行われるグループ、みんなで言葉を探しているグループ。2日目もまたグループごとに違う表情を見せていた。

1日目と同様に、2日目もセッション後に食事会が行われた。そして筆者もまた受講者インタビューを実施し、一人ひとりの言葉に耳を傾けた。「今日はどうでしたか」質問はシンプルに、しかし、語られる言葉は初日から一転した。すっきりとした表情で話す人、涙ながらに抱えた思いを語る人、何かを掴んだ人。初日に垣間見えた固い殻が、柔らかくなった、人によっては崩れ始めていた。

9月10日(日)冒険のおわりに

「昨日何時まで起きてた?」「元気だね〜!」
そんな会話が聞こえてきた最終日の朝。聞くところによると受講者たちは、深い時間までお酒を飲み交わし、交流を深めていたそうだ。2日目同様、3日目の午前中も自由時間となっていた。朝食を終えると受講者たちは、街へと出かけて行った。

午後からは、シンポジウムとして「のきした首脳会議」が開催された。プログラムの受講者だけでなく一般にも開かれたシンポジウムとして、さまざまな人が会場である犀の角に集った。

シンポジウム「のきした首脳会議」は、犀の角の荒井さん、信州アーツカウンシルの野村さん、リベルテの武捨さんに加え、犀の角と共にやどかりハウスを運営しているNPO法人場作りネットの元島生さん、上田映劇から番組編成の原悟さん、うえだ子どもシネマクラブの直井恵さん、アーティストでソーシャルワーカーの羊屋白玉さんが登壇した。シンポジウムでは、主にコロナ禍で上田の街に生まれた「のきした」という取り組み、そしてそのあり方、変遷、マインドが語られた。

シンポジウムの後は、クローズドで短期研修プログラム受講者による成果発表が行われた。この3日間を通して、受講者たちが得たもの、あるいは感じたこと、考えたことがさまざまな切り口で発表された。

詩を作り、読み上げる人。ラジオテイストで3日間について語る人。スライドを用いて発表する人。企画書をプレゼンする人。演劇的なパフォーマンスやコンテンポラリーダンスを取り入れた形で想いを語る人。それぞれが、それぞれに思っていたことを、自分なりの形で、その場にいた人々と共有する。その様子に1日目、2日目に感じた壁や殻のような隔たりが壊れ、あるいは溶けていたように思った。

おわりに:わたしをめぐる冒険の果てに

たった3日、されど3日。長くて短い時間の中で共有された数多くのもやもやという名の想いや悩み、課題は、受講者だけでなく犀の角という場所にも新しい種を植え付けた。

研修が終わってしばらくした後、犀の角で「もやもや」のお焚き上げをした。植え付けられた新しい種、はっきりと輪郭をもった課題。燃えていくもやもやとは対照的に、犀の角スタッフの胸の中には燃やすことのできない新たな「もやもや」が広がっていた。

この新たなもやもやについてや、研修期間中に感じたことは、今後、いずれかの形で発信していきたいと考えている。しかし、まずはわたしをめぐる冒険の果てに、受講者たちが考えた、感じたことに触れてほしい。

文責:やぎかなこ
写真:安徳希仁/やぎかなこ/伊藤茶色


研修参加者レポート

研修という〈冒険〉に出かけた参加者の皆さんにも言葉や写真でこの研修をレポートしていただきました。
それぞれの視点で見えてくる3日間も是非ご注目ください!


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