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焙煎室の危険と火之要心。

焙煎師の仕事。
そこには、繰り返される日常と、稀に非日常的な出来事(イベント)が生じることがある。今日は、その非日常にスポットを当てた話。

種類にもよるが、炭火焙煎には概ね20分前後の時間を要す。
その際の火力はもちろん人間の力で調整していて、ガスや電気、熱風式のようにレバーやプログラムでは制御できない。炭の種類やくべ方、どのくらい投入したか?そんな感覚作業が重要だ。

非日常的なイベントは、突然やってくる。
それはまさに、サントス・ニブラ 極深煎りを焼いているときのことだった。焙煎窯の開放口(豆を排出する部分)の隙間から「黄色い煙」が少しずつ漏れ始めている。いつもの白い煙とは違い、どんよりと重量感のある煙だ。

煙を確認した焙煎師は、急いでダンパー(排気弁)を閉じた。そして、少しずつ焙煎機の開放口を開け、豆をゆっくりと排出する。真っ赤な炎とともに、排出された豆は、冷却台の上で、散水され消化された。

何事もなかったかのように実施されたこの動き。実は、明確なルールは設けられておらず、言い伝えによって受け継がれている、防災手順である。

1つ目は、煙突への延焼の防止だ。
煙を確認するや、ダンパー(排気弁)を最初に閉じることで、「引火性ガスと炎」が煙突へ流れ込むことを防いでいる。万一、煙突への延焼が生じると、火災にもつながりかねない。

2つ目は、開放口を「少しずつ」開けること。
黄色いガスが発生している時点で、焙煎機内の豆は「火が着く」ほどに高温となっている。ダンパー(排気弁)は閉じた状態なので、酸素供給がされていない。この時、開放口を一気に開けてしまうと、酸素が多量に供給され、可燃性ガスに引火する。つまり爆発的な燃焼が発生し、開放口から炎が噴き出すのだ。

非日常的な出来事。それは、いつも同じパターンで生じるわけではない。そこへの対応力は、言い伝えや経験、本能、人間らしさがあってもよいと考えている。現代はマニュアル化が大切とされている時代だ。ならば、焙煎師の日々の体験や風景を文書化していこう。

摩耶の麓の職人達の日常。そのマニュアル文書の1つに「火之要心」であってもよいのかもしれない。

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