マガジンのカバー画像

小説「ミラージュ・サブスタンス」

25
運営しているクリエイター

記事一覧

ミラージュ・サブスタンス #1

 第一章 Open    Prologue  それは、暑い夕暮れだった。  焼け跡となった村を、一人…

白いハエ
5年前
2

ミラージュ・サブスタンス #2

  1  長かった冬季が終わり、暑い夏に向けて草木が準備を始める頃。  広大な草原を貫く…

白いハエ
5年前
2

ミラージュ・サブスタンス #3

  2  蜃体学校には入学費などなく、誰でも入ることができるが、与えられる環境は最低限だ…

白いハエ
5年前
2

ミラージュ・サブスタンス #4

「ロエル、僕、塑性体の取扱者になろうと思うんだ」  中庭に流れる小川で洗濯物をしている時…

白いハエ
5年前
2

ミラージュ・サブスタンス #5

  3  揺籃の国土は南北を峻厳な山に挟まれ、西は大洋に臨んでいる。東は隣国〈異教国〉に…

白いハエ
5年前
2

ミラージュ・サブスタンス #6

第二章 Grow   1  水の入った盥を、デグマが泳いでいる。  ロエルはそれを黙って見つ…

白いハエ
5年前
2

ミラージュ・サブスタンス #7

  -1 「スサノの技能は、〈圧〉を操ることです」  ホメロを師に据えた訓練初日、休憩時間中、彼女は言った。 「圧……」 「大まかに、空気圧や水圧、物体の密度等のことです。差を作って圧を生んだり消したりすることで、発生するエネルギーをある程度自由にコントロールすることができるのです」  坂道を球が転がるのは高低の差があるから。風が吹くのは気圧の差があるから、電気が流れるのは電荷の差があるから。あらゆる動力の源は圧に通じている――。 「ってことはつまり、無尽蔵にエネルギーを生

ミラージュ・サブスタンス #8

 彼女は〈蔚藍の〉トラーネと名乗った。  半地下の店の一番奥の席。客は不機嫌そうな中年の…

白いハエ
5年前
1

ミラージュ・サブスタンス #9

  3  金属製の小さな函の上でデグマが丸くなっている。  ロエルはそれを黙って見つめて…

白いハエ
5年前
1

ミラージュ・サブスタンス #10

  4~7 et 9(Digest)  小さな磁石の函の隅でデグマが丸くなっている。  ロエルはそ…

白いハエ
5年前
1

ミラージュ・サブスタンス #11

  8  一年が経った。  トラーネは週の二日か三日を、ロエルの家で過ごした。色々なとこ…

白いハエ
5年前
1

ミラージュ・サブスタンス #12

  10  日付の変わる少し前、ロエルは自室で荷物の整理をしていた。といっても、元々持って…

白いハエ
5年前
1

ミラージュ・サブスタンス #13

 第三章 Bear   1  ロエルとホメロは、蜃体学校の最上階を歩いていた。時刻は昼下がり…

白いハエ
5年前
1

ミラージュ・サブスタンス #14

 今回の蜃体師争議の首謀者、非派の中心、空翠のアルガ。伸張体扱い者で、史上初となる音声伝達式の伸張体を開発。蜃体学校卒業後、一四歳にして軍の直属となり軍事情報整備士を勤めた後、株式会社オルトハイムにスカウトされ、通信インフラの敷設事業推進のため群青の町に滞在。蜃体師の道を選んだ者ならば、誰もが理想とするエリートだ。  彼を中心とした蜃体師達は、賃上げ、労働時間の改善(形骸化した労働の撤廃)、福利制度の導入等を、国及び町へと要求している。その影響として、既に沿岸地域と群青の町を