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何故か一緒に住んでる赤の他人【短編映画『健太郎さん』の感想・考察を書き綴る】

2019年  日本のショートフィルム。
当時大学生だった髙木駿輝監督がクラウドファンディングで資金を集め制作した作品。
ホラーかと思ったけど、サスペンスかな?


◎あらすじ

とある町はずれの一軒家で暮らす4人の家族、斎藤家。そこには、血のつながりのない赤の他人、“健太郎さん”が住んでいる。彼を“慕う”というより“崇拝する”斎藤家と、容赦なく奇行を繰り返す健太郎さん。そんな歪に保たれた日常に亀裂が入ったある日、彼は突然“失踪”する。彼はいったい誰なのか。彼の目的は何なのか。一つの“真実”にたどり着いたその時、想像を絶する“絶望”が姿を現す。

一つの事故を通して壊れた日常と、複雑に交差する人々の負の感情を描くことで、現代を生きる私たちに警笛を鳴らす、ノンストップのホラーサスペンス短編。

◎登場人物

・健太郎さん(他人)
・斎藤敏夫 (父)
・斎藤和子 (母)
・斎藤賢人 (兄)
・斎藤優愛 (妹)

◎ざっくり本編

・斎藤家の父親、母親は”健太郎さん”に対して腫れ物に触るような態度。
兄は反抗的な態度。
妹だけが健太郎さんに好意的で、普通に話しかける。

・ひとつの家族の中に”異物”として存在し、無言でただ佇む健太郎さんに、観客は言いようのない不安に駆られます。

「この人は誰?」「何でここにいるの?」「何してるの?」「何で喋らないの?」

・どうやら、この一家は健太郎さんに逆らえない何かがありそうだぞ……
というところで、健太郎さんが急に失踪。

・優愛の回想シーンにより、この一家は「健太郎さんとその娘の2人をひき逃げした」過去があることがわかります。

健太郎さんは助かったものの、娘は死亡。

・そして、優愛が健太郎さんに渡したハンカチの名前を辿り、一家のもとを訪れた。

土下座をして謝る父母に対し「ひとりになってしまったので、どうかこの家に住ませてください」と要求。

これが健太郎さんが居候をするに至った経緯だ。

・健太郎さんが失踪してから、一家は「健太郎さんのことは無かったことにして」以前のような穏やかな様子に戻ったが……
健太郎さんは再び戻ってきた。

・映画の最後は、暗い食卓のシーン。
箸がうまく使えない妹を見て、ストレスで当たり散らす母親。

縮こまり無言になる妹と、キレイな所作でご飯を食べる健太郎さんの目が合い、健太郎さんが怪しくニッコリ笑って終了する。


◉感想

・一番最後のシーンが、冒頭の食卓シーンに繋がるんだろうってのは分かったんだけど、健太郎さんが帰ってきた後どうなったのかが不透明でしたね。不穏。

・普通に背筋伸ばしてキレイにご飯食べられる健太郎さんが、冒頭で汚く犬食いしてたのは、優愛のため。

和子は健太郎さんに文句は言えないので、あえて健太郎さんが行儀悪く食べることで優愛が怒られないようにしたんでしょうね。優しい〜

・和子の絵や、敏夫の書類を破いたのも健太郎さん。
子供の話を聞こうとしない両親に、無言の圧力なのかな……

和子に対しては、『子供が朗らかに遊ぶシーンの絵』を大事そうにしてるのに「お前、子供のこと全く見てないじゃん」という皮肉も込められてるのかな……?

・最初は、健太郎さんが斎藤家に不和をもたらす『加害者』みたいに見えてたのに、居候の理由を知ると、一家のほうが『加害者』だと気づく。
どんでん返しは気持ちいい!

◉考察

・一回観ただけだと、理解しきれない部分もあったので、監督さんの裏話動画も見た上で考えました。
・受け取り方は観客次第、という方針のようなので自由に妄想・考察していこうと思います。
作中の設定、セリフを最大限に利用して自分なりに納得がいくストーリーに解釈しました。

↑高木駿輝監督による裏話動画

✤健太郎さんは何故、居候をした?

斎藤夫妻を警察に突き出さずに、一緒に住むことにした理由。

私は『健太郎さんが優愛を見守るため一緒に住むことを選んだ』と思ってますね。

健太郎さんは、優愛と自分の娘を重ね合わせてますよね。

一度死にかけて、『娘を幸せにしてやれなかったことが一番の心残り』だと気づいたのではないでしょうか?

◈まずは、健太郎さんと娘の関係。

・娘は8歳なのに5歳程度の発育だった。
・「ひとりになってしまったので、どうかこの家に住ませてください」のセリフにより、奥さんもすでに亡くなっていることが窺える。(事故時に花束を持っていたことから、墓参りの途中に事故に遭ったと思われる。)

男手ひとつで娘を育ててきたが経済的に困窮するなどで、まともに育てることが叶わなかった?

・鞄などは持たずに身一つでいた。
→妻への墓参りのあとに、健太郎さんだけor父娘ふたりで命を絶とうとしていた可能性?

どちらにせよ、健太郎さんは自分で娘を育てることを放棄しようとしてた。

◈次に『優愛≒自分の娘』の根拠

・斎藤家に辿り着き、優愛を自分の娘と見間違えたときの反応。

もう居るはずのない娘に会えた喜び、戸惑い、申し訳無さが綯い交ぜになったような表情。

とても人間らしい反応。
一番、健太郎さんの表情が変わったシーンですね。

・健太郎さんの娘(由真ちゃん)と名前も似てる、同年代の心優しい少女。
監督の裏話によると「ハンカチ=娘への執着」だそうなので、亡くした娘の面影を追いかけて、優愛のもとへやって来たんでしょう。

・斎藤家を訪れた時点で、健太郎さんは特に何も考えてなかったんじゃないかと思うんですよね。
ハンカチに導かれるまま、来ては見たものの……みたいな。

・そんで、いざ会ってみた斎藤家の両親は平謝りするばかりで自首する気配はない。

健太郎さんは、たぶん事故前は自殺するつもりだったろうから、(元から稼げてたか定かでない)仕事も畳んでいたろうし、身辺整理もついてそう。

今後どうしようかな〜、ってところでポツリと出たのが「ここに住ませてほしい」って言葉なのかなぁ。

娘を失ったばかりの健太郎さんは優愛の中に見出した由真と離れたくなかった。

この時点では、こんな理由じゃないかと思います。

・普通なら突っぱねられそうな要求だけども、自分勝手な理論でひき逃げを正当化する夫妻ですから、普通でない。
要求は通ってしまい、この不思議な関係が始まった……

由真への後悔を、優愛を幸せにすることで昇華させようとしてる。

これまでの無言での奇行も、ほぼ優愛のためにやってる気がするんですよね……


✤最後の笑みは何を意味する?

最後の食卓シーンは、物語の時系列では、健太郎さんが斎藤家に住み始めて初期の頃でしょう。

優愛が食べ方がなってないと母親に怒られたから、「下手な食べ方でも怒られない」方法を健太郎さんが思いついた笑み。

安心しろよ、の笑み。

あとは『これからの生き甲斐を見つけた笑み』……ここで、優愛を見守ることを自分の生き甲斐として再設定したんだと思います。

✤斎藤家の闇

・まず、ひき逃げをして自己正当化しちゃう両親ヤバいですよね。
それを注意することもできない兄。

・子供をちゃんと見ようとせず、自分たちのことばかり。

・いくら父母が参ってるからって、健太郎さんを殺そうとする兄も。
それを止めない父も。う〜ん。

・健太郎さんが失踪して、仲良し家族に戻ったような描写ありましたよね。

あの日からおかしくなってしまったパパとママを許してくれ」と許しを請う言葉。
優愛は「パパとママ少しもおかしくないよ」と慰めてる風に聞こえるんですけど……

これ、”前から変わらず、こんな親だったよ”ということを言ってるのでは?

・最初は戸惑っていた優愛も、健太郎さんが、それとなく優愛の味方をしてくれることに気づいてからは、好意的に接してるんでしょう。

父親が「健太郎さんなんて居なかったんだよ」と言ったときも、名残惜しそうにソファを見てたし。

いなくなってからも、「健太郎さんへの挨拶」をしてしまうくらい、慕ってたよねコレ。

✤健太郎さんが帰ってきたあとはどうなったのか?

私は『再び斎藤家で住み続ける』EDだと思いました。

娘が死んで1年は、健太郎さんなりに喪に服してたのではないかな〜と思いまし て。

帰ってきたときに「あの子のこと、けじめをつけようと、お別れをしてきたんです」と言ったのは、この1年間は『由真の父親』だったから『斎藤家では他人』として過ごした。

でも、今後は『斎藤家の一員として』優愛が幸せに育つのを見守るために、どんどん介入していくんじゃないかな〜

と、妄想したところで終わりにしたいと思います。

観てるうちにイメージがガラッと変わる体験が面白かったです!
怪しくも不思議な魅力のある作品でした。

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