ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンと感情希薄系ヒロインの系譜

劇場版ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン

社屋への放火テロによる悲劇に加え、新型コロナ蔓延による影響もあって2度の公開時期の延期を余儀なくされた「劇場版ヴァイオレット・エヴァ―ガーデン」がついに封切りとなった。

これから観るよ、という人のためにあまり多くを語ることはできない。
が、細やかな感情表現と丁寧な心情描写は京アニならではのきめ細かさで、決して期待を裏切る作品ではないと断言しておこう。

それに何より、
この作品の完成を見ることなくこの世を去ってしまったスタッフの方々が、少なからず居ることを思うと、この作品の持つテーマがずっしりと心に残るのだ。

自分にとって大切な人に、想いをどう伝えるか。
その難しさ、尊さは、いつの世も変わらない。
受け取る側にとっては、
今はもう生きていない、もう逢う事のできない大切な人からのメッセージ。

それは手紙という形式に留まらない。
劇中では電信使ったり、手紙ではもう間に合わないとして、電話で声を届けるという場面もあった。

現代だと離れていても、ネットにつながっていれば映像で会話もできる。
自分の姿形でなくてもいい。
VTuberのようにアバター使ってもいいだろうし、作品という普遍的な形で後世にアーカイブを残すことも可能だろう。

つまり、ヴァイオレットが依頼主のために手紙を書いて思いを綴るという行為は、アニメーションスタッフが監督の意図を汲み取って作品を創り上げ、観る人にメッセージを託すことと同じといっていい。


劇中の物語構成は、3層構造となっており複雑だ。
初見さんには厳しいかもしれない。

本編は50年以上前の話として、現代に生きるデイジーという女性の視点から始まる。祖母が受け取った手紙を代筆した自動手記人形に興味を抱いて旅を始めるのだが、これはテレビシリーズ第10話のエピソードが起点となっている。
ヴァイオレットは歴史上の人物であり、当然ながら会ったことはなく、第三者の視点で物語を俯瞰して語る立場だ。

もう一つの物語は、病床に伏せて死を目前とした少年・ユリスとその家族のエピソード。手紙の依頼を受けたヴァイオレットは、当事者として彼の想いを汲み取って文章を綴るのだが、先の10話の仕事の依頼と重なる部分がある。

そして最後に、並行して一人称で語られるヴァイオレット自身の物語である。
先の戦争が影を落とすギルベルト少佐ヴァイオレットとの不運な再会に、少佐の兄・ディートフリート大佐やC.H郵便社・ホッジンズ社長の思いが絡み合う。

よくもまぁ、これだけ複雑なプロットをストーリーに落とし込んだものだと感心する。
これ以上語るのは野暮だと思うので、ぜひ劇場で観て作品を堪能してください。


さて、ここでキャラクターに注目したい。
本作品の主人公、ヴァイオレット・エヴァ―ガーデンのような、感情希薄系ヒロインの系譜について語りたい。

筆頭は「新世紀エヴァンゲリオン」のヒロイン、綾波レイであろう。

綾波レイ

戦争の道具。命令に忠実な戦う機械のようなキャラ設定。美少女だが、何を考えているか分かりにくい。
ヴァイオレットと共通する要素が多く見受けられるのは偶然だろうか?

今期のアニメでいうと「魔王学院の不適合者」のヒロイン、ミーシャ・ネクロンだ。

ミーシャ・ネクロン

このタイプのキャラは不遇な存在で、重い過去を背負っていることが多い。
ミーシャは生贄となって消える運命を、双子の姉サーシャ・ネクロンのために受け入れた娘だった。


一方で、大人し過ぎるヒロインは、対照的に感情表現豊かな娘とセットで物語に絡むことが多い。
ミーシャの場合、姉のサーシャ・ネクロンがツンデレで毀誉褒貶が激しい人物として描かれているし、アスカ・ラングレー綾波レイとは対照的で感情の振り幅が激しい。
作劇的にバランスを取らないと、主人公が空回りしたり、物語が動かなくなってしまうからであろう。

もう一人挙げておこう。
10月から放送予定の「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のメンバーから、1年生の天王寺璃奈

天王寺璃奈

この娘は感情表現が苦手で、人に想いを伝えるために「璃奈ちゃんボード」を使って表情を作ることで、スクールアイドル活動ができるようになったという。ネット時代ならではのユニークなキャラ設定だ。

キャラ造形的にピンク色の髪は珍しい。
この手のキャラは、だいたい寒色系が定番だからだ。

あとは「涼宮ハルヒシリーズ」の長門有希、くらいだろうか。
なかなか思いつかない。結構レアな存在だ。


感情希薄系ヒロインは描くのが難しい。
表情の変化が乏しく、台詞も少ない。
清楚で神秘的なイメージを持たせやすいとか、知的で情緒が安定しているというメリットはある。が、台詞がモノローグばかりだと視聴者はイラつくだけだ。

演じる側も抑えた演技をしなければならないから、非常に高度なセンスと繊細な表現力が求められる。
声優さんに相当な実力がなければ、できない役柄だ。

でなければ、すぐに空気になってしまう。
下手すると、モブキャラにすら埋もれてしまう。


ヴァイオレットを演じている石川由衣は、「進撃の巨人」でミカサ・アッカーマンを演じている。
エレンに対する篤い想い、その強さは何となく重なるものがある。

誰かを想う気持ちは、人を強くする。
誰かの幸せを願うことで、人は成長する。
結局はそういうことなのかもしれない。

まぁ、現実だとそういう想いが報われないこともしばしばなんだけどね笑。

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