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vol.6〈子ども食堂・香春町キッチン小春ちゃん〉ーみんながいるから成り立つっちゃん

 空が橙に染まり冷えた風が肌を刺す夕暮れの頃、ここ香泉荘には学校終わりの子ども達の賑やかな声が響きます。まだ冬の時期だというのに半袖で走り回る子ども達の姿は、見ている側も寒さを忘れる程のものがあります。「おお、今日もみんな元気しとるな。」机や椅子の準備をしながら子ども達とおしゃべりをする山本さん、キッチン小春ちゃんには特別な思いがあると言います。

自分の住む地域に 何か恩返しができないかな

 「大きな子ども会のような感覚かな。今は子ども達が集まるきっかけがあまり無いですからね。気兼ねなく集まれる場所を作れたらいいな、という思いから始めたんですよ。」
 実行委員代表の山本さんは、地域の子ども達の居場所づくりに携わりたいと、およそ6年前にキッチン小春ちゃんを始めました。「こんなことをしたい」と何気なく話した内容でしたが、地元の方達が一緒になって考え後押ししてくれたと言います。始めた当初は小規模だったキッチン小春ちゃんは口コミで広がり、多い時には100名以上が集まったこともあったそうです。そんなキッチン小春ちゃんの運営を支えてくれたのもまた地元の仲間たちでした。

塩入れた?りんご剥いた?バナナ剥いた?時間計ってる? ぴんちゃかんちゃ

 「みんな地の人やけ、私らの親の代から繋がった縁があるんよね。」と毛利さん。「人のためになることに携われるって素敵よね。それにね、子ども達が美味しいって言って食べてくれるんが一番嬉しいっちゃんね。」と話す調理担当の村門さん。どんなおかずを作ったら子ども達が喜ぶか、そんなことを考えながら献立を立てる時が一番ワクワクするそうです。「普段はこんな真面目なこと言わんけね、今からはおしゃべりしまーす。」と場の空気が一気に和みます。明るく気さくな村門さんは皆のムードメーカーです。
 「美味しく明るく楽しく」それがモットーだという調理部隊。皆でお揃いの小春ちゃんエプロンがとてもお似合いです。「ほんと楽しんでやってるの。回を重ねていると、多くの人と交流ができて色々な話を聞けるしね。そんな集まりが好きなんよね。」と毛利さんは言います。息つく間もなくおしゃべりしながらも、手際良く料理が出来上がっていきます。調理室では終始笑顔が絶えません。

ほーれ、グラタン出来たわよ。美味そうやろが?
本日のメニュー⚪︎照り焼きチキン⚪︎シーフードグラタン⚪︎スクランブルエッグ
⚪︎ちくわの磯辺揚げ⚪︎ウインナー⚪︎フルーツ
小春ちゃんのエプロン、可愛いやろ。お揃いっちゃんね。

”自然と人の流れができて、 思いのつながる人が手伝ってくれるんよ”

 そんなキッチン小春ちゃんの活動は、地域の方だけでなく、今では学生さんや香泉荘に関わる多くの方達がボランティアで参加します。子ども達と一緒に宿題をしたり、より一層楽しんでもらうため、本の読み聞かせや、時には大道芸を披露することもありました。「私達にできることがあれば何でもやっていきたいです。」と話すボランティア部の生徒さん達は、キッチン小春ちゃんから、人と接することの楽しさと、感謝の気持ちを学んだと言います。「大人たちが笑顔でやっていると、子ども達も自然と笑顔になるんですよね。こういった取り組みが地域の未来をつくっていくんですね。」と話す後藤先生の言葉に山本さんも満面の笑顔を浮かべます。

人が来てくれるって 嬉しいですね

 「誰でも気軽に来てほしいですね。沢山の人と交流できたら嬉しいです。」コロナ禍による三密回避のため、形を変えたキッチン小春ちゃん。ドライブスルーでお弁当を手渡しする形式になった今も、その思いは変わりません。わたし達にとって「居場所」とは人とのつながりを感じられる豊かな環境のことなのではないでしょうか。

高野・キッチン小春ちゃん実行委員会


子ども食堂って?
 低額または無料で食事を提供したり、様々な活動や体験を通じて地域で子ども達の成長を見守り、育てていくコミュニティ(交流の場)のこと。
 最近では子どもだけに限らず地域で暮らす全ての人々の居場所として運営されています(食堂によってさまざま)。
 福岡県内では209ヶ所の子ども食堂があり(2021年12 月現在)、香春町唯一の子ども食堂「キッチン小春ちゃん」は2016年6月に発足しました。

 住民有志が運営にあたり、町社会福祉協議会の施設を拠点に年6〜7回実施していますが、毎回40〜50人の利用があり、子どもたちだけでなく保護者の交流の場にもなっています。地域住民や町職員も気軽に訪れるほか、地元香春思永館(義務教育学校)ボランティア部の生徒や県立大の学生などが手伝って、一緒に遊んだり宿題をしたりすることも。
 ここ数年はコロナ禍の影響を受けて、ドライブスルー形式による食材配布に切り替わっていますが、対面での食堂を再開できることを皆楽しみにしています。


旧勾金小エリア・高野周辺
 キッチン小春ちゃんのドライブスルー会場「香泉荘」もある旧勾金小エリア。義務教育学校「香春思永館」や団地、大きな公園もある町内でも比較的人口の多い地域です。

香春町って
 春が香る町と書いて「香春町」。福岡県の筑豊地域の北東部に位置し、石灰石の産地として日本の近代化を支えてきました。
 町のシンボル「香春岳」をはじめ、山々に囲まれた里山の暮らしは、都心部からのアクセスの良さもあって、登山好きや、歴史好き、手作り暮らし好き、半農半X志望者などさまざまな個性を惹きつけます。
(アクセス:福岡市から約70分、北九州・小倉から約50分)

ハダシノステージ06・2023年春号

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