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一大プロジェクト『ロイホのオムライスを食べる』


これは、ロイヤルホストのオムライスを食べるために前日から準備をした記録です。



ロイヤルホスト。それは、田舎の超庶民派家庭に生まれ育ったわたしにとって、子どもの頃は存在さえ知らないファミレスだった。

そのためデビューは遅く、たしか今から5年ほど前。義理の父母と一緒に食事に行ったときである。メニュー表を広げてわたしはおどろいた。

お義父さま、お義母さま。これが、ファミレスなのですか?

どのメニューも高級感があって、たいへんおいしそう。わたしは心を掴まれてしまい、そこから時々行くようになった。

先日、テレビでロイヤルホストのオムライスが紹介されているのを見て、わたしの中に「これが食べたい!」という強烈な衝動が巻き起こった。いやちがう。ほんとうはずっと、ずうっっと、食べてみたかった。初めてロイホに行ったあの日から。義母が「ここのオムライスおいしいのよね」と言いながらオムライスをスプーンで掬っている姿を見て、「そのひと口ちょうだい」と言いたかった。でもわたしは義理の娘としての矜持を貫き、「お義母さん、とてもおいしそうですね」と言うにとどめた。

その後、何度か訪れた際にも、注文のチャンスはあった。しかし、それがどうしても成し遂げられなかった。なぜなら、オムライスの前に立ちはだかる高い壁があるから。

そう、「黒×黒ハンバーグ」。

今日こそはオムライスを食べるのだ!と、どんなに決意をしていても、メニューを開けば「黒×黒ハンバーグ」に引き寄せられてしまう意志の弱い自分がいる。SASUKEのファーストステージ「そり立つ壁」に匹敵する高い壁(今まで隠してたけど実はSASUKE大好き)。

どうすれば、この壁を越えることができるか。場当たり的な対応ではいけない。多くのSASUKEチャレンジャーがきっとそうしてきたように、わたしは前日から精神を統一することにした。「わたしは明日、ロイホのオムライスを食べます。わたしが食べたいのは、オムライスです」そう唱えながら風呂に入り、床につく。

そして迎えた当日。やはり、朝から「黒×黒ハンバーグ」の存在が気にかかる。そのとき、妙案をひらめいてしまった。

そうだ。ロイホに行くのは夜なのだから、昼にハンバーグを食べてしまおう。そうすれば、ハンバーグ欲はなくなるだろう。

我ながらこの案は天才だと思った。天才だと思いながら、肉をこね、丸め、焼いたものがこちら。

裏面は、黒×黒ハンバーグならぬ
黒焦げハンバーグ


そして夕方。夫の運転する車で、SASUKE会場ロイヤルホストへと向かう。わたしは最後の調整として、スマホでオムライスの画像を検索し、オムライスを頬張るイメトレをする。よしっ。わたしはすっかりオムライスの口。文句なしのピーキングができた。

入店。思いはすでに固まっているが、一応メニュー表は開いてみよう。うわあ。やっぱりハンバーグはおいそうだし、コスモドリアもそそられる。落ち着け、おちつけわたし。

「オムライスをひとつ」

言えた!お手洗いに行ったり、持参した小説を読んだりしながらオムライスを待つこと数分。

来た…。感動である。やっと会えたね。すぐに頬張るのがなんだか気恥ずかしくて、夫が頼んだサラダを先につついてしまう。

いざスプーンにオムライスをのせ、ソースを掬って、いただきます。

う…うまい…。うまいいいい。ほどよくパラっとしているケチャップライスに、ふわふわでバターの香りがしっかりする卵。そしてコクがあって結構肉が入ってるハッシュドビーフソース。完璧なオムライスで、しかもでっかい!これが1000円ちょっとで食べられるなんて。は〜天国。黒×黒ハンバーグへの未練を感じることもなく、ただただ満足した。

さあ、お金を払って帰ろうと思い、伝票に目をやる。するとそこには…


合計4800円


へ!?今日はオムライスしか食べてませんけど!?と思い、詳細を確認すると…夫が約3700円分頼んでいた。

わたしが、オムライスをオーダーすることに全集中している間に、夫はファミレスで3700円分注文するという貴族的行いをしていたらしい。かねてから気づいていたが、夫は決して大食いではないくせに、どの店に行っても客単価をやたらと上げる男である。この日も、わたしがひと皿に真剣に対峙する間、「この人誕生日なんか?」と思うくらいステーキやらサラダやらスープやらいろいろ並べてニコニコしていた。夫曰く、「ハンバーグを昼に食べてしまったから、もうステーキを頼むしかないと思った」とのこと。そうか、そうだったか。ハンバーグ作戦の影響がこんな形で表れるとは。

1000円ちょっとであのオムライスが食べられたあ…というお得感はやや薄くなったけど、いやそれでも。わたしは大満足。2日がかりで精神を統一し、ハンバーグをこね、やっとそり立つ壁を越えて、大好きな味に出会えたのだから。ぜったいに、また食べる!



おわり

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