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【カーテンコールの記録】舞台『少女都市からの呼び声』THEATER MILANO-Za③/8月6日東京千穐楽公演 — 安田章大という担い手 —

東急歌舞伎町タワー内の劇場・THEATER MILANO-Zaにて、オープニングシリーズ第3弾として上演された、作・唐十郎、演出・金守珍の舞台『少女都市からの呼び声』。

初日観劇時と、7月17日ソワレ公演観劇時の感想を下記に残したが、その後も数回観劇をした。


本記事では、東京千穐楽公演のカーテンコールでのことを記しておきたいと思う。

その前に。

筆者は、舞台公演における“千穐楽”に、芝居としての特別感は感じない。

「千穐楽だから力が入る」「千穐楽だから出し切る」という役者がもしいたならば、その役者の芝居は積極的に見たいとは思わない。
千穐楽だからどうこうということは、芝居においてはあるべきではない。もちろん、“有終の美”、“もう演じることのない役へ馳せる思い”、“これまで重ねてきた公演の集大成”という感覚はあるかもしれないし、最終公演だから生まれるアドリブなんかで客を喜ばせようとすることもあるだろう。役ではなく役者本人の特別な感情は生まれるものだ。しかし、それを芝居の熱量を増幅させる理由と捉えて役に繋げることは演者にあってほしくない。

一公演一公演、その日その時のステージが、いつもすべてだという姿勢の役者の芝居に宿るエネルギーが、舞台演劇の魅力だと思うのだ。


しかし、初日はまた別である。

舞台演劇は、観客が入ってはじめて完成するものだと筆者は考えている。完成とはいえ、客が入ることでこれまで気付かなかったことに気付く場合や場面も多々あるだろうし、舞台はナマモノであり生き物であるから、初日が変化や進化のスタートとも言える。
なんにせよ、初日特有の空気には、観客としても、「あぁ、生きている」と実感するようなピンと張り詰めた緊張感、ビリビリと痺れる快感、ドクンドクンと胸打つ高揚感を感じる。

2023年7月9日の初日公演から、30公演目。

2023年8月6日、THEATER MILANO-Zaでの、舞台『少女都市からの呼び声』の公演が、千穐楽を迎えた。


安田章大は、彼本人にとっての千穐楽への感情と、役や芝居への熱量を混同させるような役者ではないことは、これまで彼の芝居を観てきてわかっている。

いい意味で、毎公演クオリティーにはブレがなく、それでいて一公演一公演がその時その瞬間だけダイレクトに体感できる生きたエネルギーを放つ芝居を魅せる。

ただ、THEATER MILANO-Zaという新しい劇場のオープニングシリーズとして、彼自身も傾倒しているテント芝居のアングラ演劇の演目で主演を務めることに、きっと強い信念や意志があったことと思う。

カーテンコールでの立ち居振る舞いや言葉にもそれが表れていた。


カーテンコール。鳴り止まぬ拍手の中、ある人物が舞台上に現れた。

唐十郎氏である。

唐氏が車椅子に乗り登場すると、すぐに、“主役は自分ではない”とばかりに、安田氏はグッとスペースを空けた。彼らしい謙虚な姿勢と凛々しい表情であった。

こういう彼の姿を、私は観客としてよく知っている、と思った。

2021年に彼が主演した舞台『リボルバー〜誰が【ゴッホ】を撃ち抜いたんだ?〜』のカーテンコールのことである。
クライマックスのオークションのシーンから、舞台中央にはリボルバーが置かれたままだった。粋な演出で、芝居が終わった後もそのリボルバーにはライトが当てられていた。
東京公演千穐楽だったように記憶しているが、安田氏は、下手側へ捌ける前にさっと左手を出した。まるで、隣に誰かがいて、言葉はなくとも「彼にも拍手を」と言っているような仕草だった。
“彼”とは、もちろん、フィンセント・ファン・ゴッホだ。

余談だが、公演期間中、安田氏は捌ける前に十字を切って天を仰ぐ仕草もよくみせていた。彼自身は神社仏閣にも頻繁に足を運んでいるようだしキリスト教の信仰者ではないだろうけれど(当然、パーソナルなことなので定かではないが)、フィンセント・ファン・ゴッホは熱心なキリスト教信者だったそうだ。そんな彼に呼応し、敬意を表する意味での行動だったのではないかと思う。

主演や座長という立場への責任は全うしながらも、自分こそが中心で主役なのだという意識はない。携わる生命それぞれが主役だという感覚。
そう、彼は、そういう人なのだと感じる。


唐氏は、「今から37年前の芝居を久しぶりに拝見しまして、大変嬉しく思いました。これからも宜しくお願いしまーす!」と、元気に挨拶をしていた。
その姿を見つめる出演者の瞳が誰もみんな優しく、眼差しが力強かった。きっと観客もそうであったと思う。

幕を閉じてもなおも鳴り止まぬ拍手に、また幕は開き、金守珍氏から「安田くんから一言!」と促され今度は安田氏が挨拶をした。

「この芝居は本当に唐さんがいて仕上がったものでございます。これから僕たちはどう伝えていくのか、どう残していくのか。ジャニーズのファンの皆様が僕たちを応援してくださっているのであれば、唐さんの世界・世界観をどう伝えていくのかということは頭の中に浮かんでいるのかなと思います。アングラと呼ばれる世界、そして華々しいアイドルと呼ばれる世界。その二つが手を取り合うという素敵なムーブメントが作れたらと思っておりますので、是非これからも何卒、力を貸してくださいませ。唐ワールド、そして、ジャニーズも何卒宜しくお願いします。本日は誠に、ありがとうございました!」

力強く凛々しかった。今、彼が抱く希望と責任が伝わる挨拶だった。

この日本この世界で、今、彼が“ジャニーズ”にいて、アングラと呼ばれる世界の演目で芝居を魅せることに、彼自身が強い希望と重い責任を感じ抱いているのだとダイレクトに伝わってきた。担い手・伝い手として、今とこれからも生きる覚悟を宿した瞳、眼だった。


THEATER MILANO-Zaでの公演を無事に終えて、次は東大阪市文化創造館 Dream House 大ホールでの大阪公演期間中である。

しかし、8月15日の大阪公演初日は、台風7号の影響で近鉄奈良線の全列車が運転見合わせとなったことに伴い、やむなく公演中止となった。
翌日16日からの公演は予定通り開催されており、筆者は大阪公演千穐楽にまた足を運ぶ予定である。

千穐楽だから特別、とは思わない。
しかし、この夏の呼び声に誘われて、自分が最後にこの作品を観られる機会に、その地に足を運びたいと思った。そして、安田章大が田口としての旅を閉幕させるその瞬間にどんな顔をしているのか見たいと単純に思った。

思い出す、あの少女都市を、西の地で、また。


当日券もあるので、まだ観ていないのならば、どうか最後の機会を逃さないでほしいと思う。

■Information

『少女都市からの呼び声』


【大阪公演 東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール】
2023年8月15日(火)〜8月22日(火)

【料金】
全席指定席・税込
S席 12,000円  A席 11,000円

【キャスト】
安田章大、咲妃みゆ、三宅弘城、桑原裕子、小野ゆり子、細川岳
松田洋治、渡会久美子、藤田佳昭、出口稚子、板倉武志、米良まさひろ、
宮澤寿、柴野航輝、荒澤守、山﨑真太、紅日毬子、染谷知里、諸治蘭、本間美彩、河西茉祐 
金守珍、肥後克広、六平直政、風間杜夫

【脚本】
唐十郎
【演出】
金守珍

【企画・製作】
Bunkamura

【公式HP】
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_shojotoshi/

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