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【観劇記録】舞台『少女都市からの呼び声』THEATER MILANO-Za②/7月17日ソワレ公演 —舞台という海の波に挑む役者たち—

ナマモノの舞台には、波が見えることがある。
時に怖いほどに静寂で、時に穏やかにやさしく揺れ、時に酷く荒れ狂い、時に力強く舞う、波。それにいかに挑み乗り続けるかが、役者の生き様であると思う。

初日にはなかった、様々な波が、見えた気がした。

東急歌舞伎町タワー内の劇場・THEATER MILANO-Zaにて、オープニングシリーズ第3弾として上演されている、作・唐十郎、演出・金守珍の舞台『少女都市からの呼び声』。

初日観劇時の感想を下記に残したが、二度目の観劇で印象が変わった点や、気になったことについて記していきたい。

本記事も、あくまでも一個人の雑記である。


2023年7月17日。

全体として、シーンごとにおける断絶のような、閊える感じがならされて、ひとつの流れができていた印象を受けた。ぶつ切り感のない、ノンストップ感というべきか。


役者に対して初日から変わったなと最初に思ったのは、細川岳氏演じる有沢と、小野ゆり子氏演じるビンコの距離感。物理的に近くなっていると感じた。
精神的な距離はあまり縮まっている感じはなかったものの、婚約者には正直見えなかった初日の二人とは違う印象を受けた。
役柄としての葛藤とは別に、役者がお互いに遠慮しているようにはやはりまだ見えるが、より公演を重ねていくともっと変化しそうな気がした。


また、咲妃みゆ氏演じる雪子も、初日に感じたぎこちなさが抜けていた。かなり思いきりのよい動きと勢いで、それゆえ時に芝居がブレないかと心配にもなるものの、サーフィンボードに乗るように板に足をしっかりつけ重心を見極めつつ、風に煽られ海に投げ出されそうになってもバランスを取って最後まで波を乗りこなしている、という感じがした。
田口の夢の中、田口のナカの、この世に存在できなかった妹であるという役柄ゆえの安定感のなさは逆に魅力であり、常にその日その時の波に挑むような新鮮な感覚で演じることは、雪子を表現する上で重要だろう。
咲妃みゆ氏は、そんな感覚で、この舞台とこの雪子という役に挑んでいるように見えた。

役者が、深く暗く果てのない海にいつ投げ出されるかという恐怖とたたかい苦しみながらも舞台に立ち役の波に乗り続けるからこそ、観客席からは二度とない今この一瞬を活き活きと生きているのだと煌めいて見える。
まさにその光が、THEATER MILANO-Zaに舞う彼女を包んでいるようだと感じた。


田口を演じる主演の安田章大氏については、もともと喜怒哀楽の感情表現を爆発させる魅せ方が巧いのだが、時に、話の序盤は怒りや焦りの出し方が力み過ぎている印象を受けたりもした。これは彼に関しては本作に限らないことではあるのだが、しかし今回の田口という役がその生きてきた背景を構築しづらい役柄であり、観客もまたそれを想像しづらい人物であることから、観る側は序盤の感情の出し方の受け取りに過敏になってしまうために、気になりやすいという面があるように思う。
彼が、もっと肩の力を抜いてラフに立ち居振る舞う芝居も見てみたいが、それは観る側の人間の感覚によっては、手を抜いているのではないか、と感じたりもする。おそらく彼は、それを自分自身で許せないのではないか。舞台に立つということへの覚悟がとてつもなく強固で厳かで、一回一回の公演に対し命を削ってでも表現しきろうという使命感があまりに揺るぎない。
彼の場合、生命を源として身体から迸るエネルギーを放出するその熱量が魅力の役者で、観客としてはそこに見応えを感じるし、充足感や満足感を得るし、彼が目当ての客はそういう姿を見たいと足を運んでいるだろうと思うので、このままでもなんら問題はない。
ただ、力を抜くことを自身に許しても、それは手を抜くこととは違うのだと己で感じられるやり方が見つかることがこの先あったなら、それは悪いことではないと思う。
筆者は、今の彼の熱量のある芝居を敬愛しているし、彼自身の覚悟も客席から肌に感じている。このまま変わらぬ役者・安田章大を見続けたいと思う。なんなら正直なにも変わってほしくはない、ずっと120%の在り方でいてほしいとすら思う。でも、もし変わることがあったとしても、彼が他の誰でもない自分自身に対して許すことができる“抜き方”だったならば、見てみたいなとも思うのだ。

とはいえ、中盤から終盤のエネルギーを放出するような動きや表情はやはり良く、ぐわっと五感に迫りくる表現には胸が震える。
それでいて最後に、みていた夢を朧げに思い出そうとしながらも、現実に侵食されるように忘れ去って有沢と話す声色や顔つき、病院のベッドから起き上がるも脚に力が入らずふらっと倒れる様や、よろよろと立ち上がり、ビンコに向かう間の取り方、二人へ訊ねるある質問の柔和なようでひんやりとした発し方、その夢から醒めてしまった田口のどれもが、対比として絶望と希望、生と死を一気に突きつけてくる。
「これだから、安田章大の芝居はたまらなくよい」と思わせる。


力を抜いた芝居といえば、『テント版 少女都市からの呼び声』で田口を演じ、本作では老人Aを演じている六平直政氏がまさにそれだろう。
老人Bの肥後克広氏とのやりとりは、全てがアドリブやエチュードなのではないかと思ってしまうくらい余計な力が入っておらず気負いがない。テント版の田口の芝居でも、水嶋カンナ氏の雪子の呼吸に合わせつつ、観客の生の空気を取り込みながら、すいすいと水面を泳ぐように進んでいた。
安田氏に感じるような頑然たる覚悟や滾る使命感はなく、飄々とした印象である。かといって、手抜きではないかと思う印象を与えることはなく、逆に、観客と触れ合うような余白のある立ち居振る舞いに、「やる側も見る側も肩肘張らずに一緒に生の演劇を楽しむこと」がすべてなのだと思わせる。さすが、ベテランの力量である。
老人Aでも、観客の凝った肩を揉み解すような存在として笑わせている。


役以外の部分で、初日から気になっていたことがある。テント版から引き続いて出演する役者陣による、大正琴の生演奏である。
テント版にはない新たな演出として取り入れられた大正琴の演奏だが、厳しい意見かもしれないが完成度は高くはない。プロの演奏者ではないし仕方がないと言えばそうなのだが、逆に、プロの役者でありプロの作り手による舞台作品であるので、その中で披露されるならば過程の練習期間や時間の事情は観客には関係のないことだ。製作陣には現状で満足してほしくないし、演奏する役者にはこのままでよいとは思わないでほしいと個人的には感じている。


10公演目である7月17日の公演が幕を閉じ、THEATER MILANO-Zaでの公演は残り20公演。
まだ観劇していないのであれば足を運んでみてほしい。
今この瞬間しか見ること・観ることができない舞台という海に起きる波と、それに乗るのか泳ぐのか溺れるのか沈むのか、生きて挑む役者のエネルギーに、飲み込まれる・呑み込まれることができるのは、この夏だけである。



■Information

『少女都市からの呼び声』

【東京公演 THEATER MILANO-Za(東急歌舞伎町タワー6階)】
2023年7月9日(日)〜8月6日(日)

【大阪公演 東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール】
2023年8月15日(火)〜8月22日(火)

【料金】
全席指定席・税込
S席 12,000円  A席 9,500円

【キャスト】
安田章大、咲妃みゆ、三宅弘城、桑原裕子、小野ゆり子、細川岳
松田洋治、渡会久美子、藤田佳昭、出口稚子、板倉武志、米良まさひろ、
宮澤寿、柴野航輝、荒澤守、山﨑真太、紅日毬子、染谷知里、諸治蘭、本間美彩、河西茉祐 
金守珍、肥後克広、六平直政、風間杜夫

【脚本】
唐十郎
【演出】
金守珍

【企画・製作】
Bunkamura

【公式HP】
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/23_shojotoshi/

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