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緊張がほどけるエッセンス|茉記

昨年、福岡へひとり旅をした。
あるワークショップに参加するための一泊二日。
少し前に体調を崩したこともあって、新幹線のグリーン車で向かった。

会社員時代の社員旅行以来、福岡は二回目だ。
この町に住んでいたことがある友人に、おすすめスポットを教えてもらった。
居心地が良く、おいしいお店を探し当てる才能に長けている友人からのリストには、魅力的なお店がたくさん並んでいた。
教えてもらっていた喫茶店のひとつがホテルの近くにあり、まずはひとやすみ。
コーヒーとケーキでお腹を満たし、ほっとしながら
目的地への行き方を調べた。
慣れない地での電車移動は、いつもすこし緊張する。

在来線でワークショップの会場へと向かう。
一日目の会場は主催のAさんのご自宅。
今回参加しなければ歩くこともなかったであろう住宅街を、Google マップを頼りに歩く。

「こんにちは!どうぞこちらでお茶でも」
と、着いてすぐに招かれた部屋では、先に到着された参加者さんたちがローテーブルを囲み、くつろいでいらした。
思いおもいの座り方で床に座りお茶をいただくことが、そうさせるのか。
初めましてなのに、なんとも心地良くゆるんだ空気が漂っていて、すっと席に着くことができた。

二日目のワークショップは、午前と午後の二部制。
一日目の会場と同じ町にある施設の会議室へ、昨日と同じ在来線で向かう。
午前の部が終わり、近くに昼食を取れる場所がほとんどなく、持参したお菓子とお茶で済ませようとロビーに出た。
Aさんがかわいらしい風呂敷を抱え、自動ドアから入っていらした。
「お昼を食べられるお店が近くにないから」と差し入れてくださったその風呂敷を解くと重箱が現れ、蓋を開けると手作りのいなり寿司が美しく並んでいた。
この日もまた、初めましての方々とおひるごはんを一緒にいただくことになった。
いなり寿司のやさしいおいしさと、Aさんの細やかな心づかいに、自然と会話も弾んでいく。
また、ご一緒した方々はわたしよりも年上のおおらかな女性が多く
「いい時間をご一緒できたお礼に、ごちそうさせてね」自動販売機の紙コップのコーヒーを、さっと渡してくださる方までいらした。
わたしのひとり旅への緊張がほどけるエッセンスが、あちこちに散りばめられていた二日間だった。

新幹線に乗る前に、友人のリストからもうひとつの喫茶店に寄った。
夕陽が沈み、深みを帯びていく空に瞬き始めた星をグリーン車の窓から数えながら、懐かしい仲間に再会したような福岡への旅を終えた。

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