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ズームの魔術師 - ロバート・アルトマン傑作選 -

同じ作家の映画を続けてみるといろんな発見がある。なのでなるべくそうしたいのだが、時間が取れなかったり、途中で味変したくなったりでなかなか続かない。

しかし今回のロバート・アルトマン特集は3本のみ。コンプリートしやすそうだったので行ってみるかと思い立つ。

アルトマンは随分前に『Dr.Tと女たち』をアマプラで見たっきりで、自動翻訳っぽい字幕だったのもあり全然覚えていない。というわけでほぼほぼ初遭遇。

今回は『ロング・グッドバイ』→『ロバート・アルトマンのイメージズ』→『雨にぬれた舗道』の順で見た。遡ってしまったが仕方がない。とにかくひとつずつ感想を書いてみようと思う。

*この文章には一部ネタバレがあります!ご注意を!*


『ロング・グッドバイ』(1973、112分、アメリカ、カラー)

上記予告編より

レイモンド・チャンドラー小説の私立探偵マーロウを現代によみがえらせた、寓話的フィルム・ノワール。脚本はかつてマーロウもの『三つ数えろ』(ハワード・ホークス、46)を手がけた女性SF作家リー・ブラケット。「生命の尊さなど一顧だにされず、友情や義理のたぐいが無意味なものとなった自分本位の世の中でさまよう、道義をわきまえた寛大な男」(アルトマン)の物語である。原作からかけ離れた探偵像と結末の大改変に公開当時は非難轟々だったが、歳月を経てカルト映画に。グールド演じる飄々とした可笑しみのある猫好きのマーロウ、探偵を取り巻く個性的な面々、ジグモンドの冒険心溢れる撮影、奇抜で魅力的な楽曲使用など、繰り返し観たくなる魔術的作品。

どうやら代表作のひとつらしい。妻殺害の容疑をかけられたまま殺された親友の汚名を晴らすために、主人公・マーロウは奔走するが…というお話。

フラフラと定まらないカメラが印象的で、常に動くか何かに寄っていくかしていた。それはまるでこの映画の男たちの生き方そのものにさえ思える。

何よりも忘れられないのが、犬の交尾へのズーム・アップ。街を歩いているマーロウを追っていたかと思えば、カメラは突如として偶然そこで行われていた交尾に寄っていく。この行き当たりばったりなユーモア。思いついても普通やらなくないか?度胸にも感心する。
マーロウの調査は流石に手慣れてはいるのだが、病院へ潜入するシーン等行き当たりばったりでもなんとかしてしまう箇所もある。だからこのカメラワークはマーロウとシンクロしていると言っていい。この自由さが素晴らしいのだ。

『ロバート・アルトマンのイメージズ』(1972、101分、イギリス・アイルランド・アメリカ、カラー)

上記予告編より

ロンドン在住の女性児童文学作家が、ある晩正体不明の女からの不気味な電話を受けたのをきっかけに、幻聴や幻視に悩まされ始め、周囲の男性たちのアイデンティティが区別できなくなり、ついにはドッペルゲンガーと対峙するにいたる。オリジナル脚本はアルトマン自身と主演女優ヨークの共作。劇中で読み上げられる童話も、彼女が書いた作品である。アルトマンが当時取り組んでいた ジャンル映画批評からいったん退いて、複雑な構成を通じて狂気の主題を探求した、さまざまな解釈が可能な芸術映画。ヨークの演技(カンヌ国際映画祭最優秀女優賞を受賞)、ヴィルモス・ジグモンドの撮影、ジョン・ウィリアムズとツトム・ヤマシタの音楽も賞賛された。

同上

個人的にはこれが一番面白かった。というのもぼくは視線の映画が好きなのだが、これはそれに該当するからだ。

とても好きなシーンがある。主人公・キャスリンが夫とともに山間のコテージに向かう折、山の頂から眼下にあるコテージを見下ろすと、なぜかそこにキャスリンが現れる。すると彼女もカメラの方を振り返り、カットが割られて今度はコテージ側のキャスリン視点になって、山頂の彼女が捉えられる。
つまり、キャスリンの視点ショット(≒主観視点)であるはずなのに、その先に映っているのもキャスリン、という現象が立て続けに起こるのである。おそらくここで彼女が分裂してしまった、ということなのだろう。これをズーム・アップと適切な編集によってリズミカルに処理し、事態は複雑であるにもかかわらず、ちゃんと伝わるようになっている点に地力を感じる。

その後コテージでキャスリンが半狂乱となり、夫のカメラに向かって発砲するショットも凄まじい。ここでのカメラは視線の象徴であり、延いては観客自身と言えるだろう。

映画自身が意志を持って観客に牙を剥く。見事このショットに「撃ち抜かれて」しまった。


『雨にぬれた舗道』(1969、107分、アメリカ・カナダ、カラー)

上記予告編より

ブルジョワの婦人が、自宅に隣接する公園のベンチでずぶ濡れになっている見知らぬ青年を招き入れて、風呂に入れ食事を与えたことがきっかけとなり、二人の奇妙な関係が始まる……のちの『イメージズ』『三人の女』と併せて、女性とパーソナリティ障害の関係を探求したスリラー/ホラー/幻想映画的三部作を構成する一編。原作は、ハリウッド映画の子役から作家に転身したリチャード・マイルズの長編小説。この初期作品で早くもアルトマンは、女性の強迫観念や性的欲求不満を前面に出した主題の選択のみならず、画作り(ハンガリー出身の撮影監督ラズロ・コヴァックスが起用された)の面でも大胆な試みをおこなっている。サンディ・デニスの繊細な演技も素晴らしい。

同上

さて、これまでの2本を経てこの監督はズームに特徴があるなと気付く。というわけでその辺りに注目して見た。

この映画のズームは他と比べて説明的なものが多い。分かりやすさに貢献しているという意味であって、悪い意味では決してない。

たとえば主人公・フランセスと青年が彼女の邸宅で目隠し鬼をする際、フランセスに目隠しをしたまま青年は立ち去ってしまう。なんとなくそれを察した彼女がおもむろに目隠しを取ると、カメラはグーっとズーム・アウトし、ポツンと部屋に取り残された彼女を捉える。

青年が部屋に閉じ込められた際の窓の釘へのズーム・アップや、あまりに強烈なラスト・ショットである青年の涙へのズーム・アップ等、こういうベーシックな使い方ができるからこそ、後年の個性的なズームが生み出されたのに違いない。


終わりに

というわけで、結局「アルトマン見るときはズームに注目してみよう!」という個人的な備忘録になってしまった感が否めない。

とはいえズームって極めてカメラを意識させる技法なわけで、使いどころは難しいはず。なのにこうもうまく乗りこなしているのって、本当に神業といっても過言じゃない。大変見応えがありました。

正直言って特集が組まれなければ一生見なかったかもしれない映画群。楽しんでみることができました。しかしこういうリバイバル上映にかまけて新作をあまり追えてないので複雑な気分でもある…笑

見切り発車で書き始めて、案の定頭でっかちな文章になってしまった。でも本当に面白い映画たちだったので、少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。まぁもう特集終わるんだけどね…笑 ソフト化やら配信やらあるといいな。

ではまた。

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