(50)「変化を嫌う人」を動かす
【魅力的なアイデアが成功しない理由】
「燃料」と「抵抗」の戦い
・魅力の増大ばかりに注力する人々
人々に新しいアイディアを受け入れてもらうにはどうすれば良いだろうか。
マーケティング担当者、イノベーター、経営者、活動家など、変化を生み出すことを仕事にしている人の多くは、深い思い込みのもとに行動している。
その思い込みとは「魅力の法則」と呼ばれるもので、人々を説得して新しいアイディアを受け入れてもらうには、アイディアそのものの魅力を高めるのが1番の(そしておそらく唯一の)方法だと言う信念である。
付加価値が10分であれば、人々は賛同してくれると私たちを反射的に思う。そのため、アイディアに機能やメリットを付加したり、メッセージの訴求力を高めたりする方策を取ることになる。すべて、人々をその気にさせたいと願ってのことだ。私たちは、アイディアに推進力を与えることを目的とした戦略を「燃料」と呼んでいる。
「燃料」とは、アイディアの魅力を高め、変化への欲求をかきたてるもだ。
本書が主張する内容は、新しいアイデアの売り込み方や変化の生み出し方について、人々が直感的に思いつく方法は間違っている、と言うものだ。
【新しいアイディアの受け入れを拒む4つの抵抗】
1.惰性
自分の知っていることには限りがあるのに、それに固執しようとする強い欲求。人の行動を変えようとするときは、必ず複数の選択肢を与えるべきなのはどうしてなのか。
2.労力
変化を起こすために、必要なエネルギー(実際に必要なエネルギーと、必要と思われるエネルギー)。ビーチハウスの顧客が「注文」ボタンをクリックしなかったのはどうしてなのか、ニュージーランドが世界で1番起業しやすい国なのはどうしてなのか、その理由は「労力」で説明がつく。
3.感情
「感情面の抵抗」のこと。起こそうとしている変化そのものが引き起こす思いがけない否定的感情
。ケーキミックスが売れるようになるまで30年かかったのも、傾斜が、優秀な従業員を最も重要でない役割に、戦略的につかせることがよくあるのも「感情面の抵抗」が原因だ。
4.心理的反発
変化させられまいとする衝動。1980年代に米国人がシートベルト、反対運動を起こした理由も、変化を導入した方が良いことを示す。確固たる証拠ある方が、証拠が全くないより、かえってまずい場合が多い理由も「心理的反発」がどういうものかを知れば理解できるようになる。
【「抵抗」は自分の目の前にあっても気づかない】
私たちが「燃料」思考をする理由はもう一つある。「燃料」は身に付きやすく、「抵抗」は見えないところに潜んでいるから。
「抵抗」を発見するのが難しいのは、寄り添う気持ちが必要だからだ。
オーディエンスを理解し、彼らの視点から世界を見ることが必要になる。変化を受け入れさせようとしている時、アイディアに固執するのは当然だ。だが、「抵抗」を理解しようと思ったら、スポットライトをアイディアからオーディエンスに移動させる必要がある。
【「惰性」を克服する】
よく知らないものを知っているものに変える
「惰性」はイノベーションや変化に対する「抵抗」である。「惰性」を克服するのは、少なくとも概念は簡単だ。よく知らないものをよく知っているものに変えてやれば良い。なぜなら、知れば知るほど「抵抗」は和らいでいくからだ。新しいアイディアが、得体の知れない侵入者ではなく昔ながらの友人のように感じられるようにすることを目指そう。
戦略その1:何度も繰り返す
・接触効果とは、接触すること好感度が増すことだ。これと似たもので、心理学者が「真実性の錯覚効果」と呼ぶ現象がある。これは同じことを耳にする回数が多くなれば、なるほど、それを信じやすく、また支持しやすくなると言う概念だ。
戦略その2:小さく始める
・大きな変更は必要な場合は、アイデアを小出しにした方が初めて知った。話でもすんなり聞き入れられることが多い。「小さく始める」という発想は、効果抜群の恐怖症治療法の基礎な概念だ。
戦略その3:伝達者をオーディエンスに似せる
・込もうとしているメッセージがなじみのないものであったとしても、メッセージを伝える人にもなじみがないと限らない。私たちは情報を伝える人が誰かと言うことに大きく左右される人は、自分が知っている人や、自分に似た人からのメッセージには耳を傾ける傾向があるのだ。
戦略その4:提案を典型的なものに似せる
・一般に、カテゴリー内の典型と言われるものと一致するアイデアは、そうでない。アイディアより身近なものに感じられる(従って好感をもたやすい)。新しいアイディアが典型的なものと一致していない場合は「抵抗」が生じる。脳を、普段より活発に働かせて、新しいアイディアを理解しなければならないからだ。。
戦略その5:喩え(アナロジー)を使う
・喩えを使うと、効果的なのは、なじみのないものがなじみのあるものに思えてくるからだ。
【選択肢の提示に相対性を取り入れる】
例えば、従業員に新しい経営報告のやり方を受け入れてもらいたいと思っているとしよう。あなたはどうするだろうか?きっと、「燃料」中心のアプローチに準じて、新しい経費報告システムの利点を説明するに違いない。
例えば、新しいやり方に変えた場合の時短効果などを力説するだろう。
ここに大きな問題があることにお気づきだろうか。このシナリオで、相対性はあなたに対してどのように作用しているだろうか。(A)有利に働いている、(B)不利に働いている、(C)どちらでもない、のどれなのかを考えてみよう。
従業員は1つの選択肢しか検討していないのだから、相対性は作用しない、と直感的に思うのだ。ところがそうではない。
新しいやり方を人々に提示するときには、必ず暗黙の比較対象が存在する。「現状」だ。
人は、なじみがあって、快適なものと新しいものとを比較する。この比較はイノベーションの敵だ。なぜなら、私たちの多くは快快であることよりも快適であることを望むからだ。ここで良い知らせがある。
相対性の仕組みを理解すれば、「惰性」を「抵抗」から「燃料」に転換することができる。
そのためには、比較対象を作ってやれば良い影響を与えるための鉄則の1つは「選択肢を1つだけにしない」ことだ。選択肢が1つしかないと、人は、無意識のうちに新しいものとなじみのあるものとを比較するからだ。しかも大抵はなじみのある者に軍配がある。
戦略その1:選択肢を追加する
戦略その2:尖った選択肢に光を当てる
【相対性に関する失敗はいつ起きるか】
変化を導入するプロセスを、ごく簡略化して、以下に時系列で示す。
ステップ1:問題を発見する。
ステップ2:解決策の候補を集める。
ステップ3:最も良い解決策を決める。
ステップ4:解決策をオーディエンスに売り込む。
相対性の原則を理解すると、失敗が起きるのはステップ3と4であることが。
私たちが犯すのが、人々に1つだけすなわち妥当な(とはいえ理想的ではないかもしれない)選択肢だけを提示するという過ちだ。
あなたはそれが妥当な選択肢であることを知っているが、それは尖った選択肢を検討した上で却下したからでもある。そのことをあなたは知っている。だが、相手はそうではない。むしろあなたがその考えに至った背景がわかるようにしたほうがいい。基準点を設けてやるのだ。
何事も他との比較で決まるのだから。
【「高い価値】より「少ない労力」が優先される】
採用者の決定に関するデータも、「労力」の観点の優位性を裏付けている。非常に有能ながらも、一緒には仕事がしづらい候補者と、能力は劣っていても一緒に仕事がしやすい候補者のどちらかを選べと言われたら、採用者は前者を選ぶと口では答える。
だが、実際に採用者を決める段になると、難のある優秀な候補者より、良好な関係を築きやすい候補者を一貫して選ぶのである。
キャッシュバックや粗品など、顧客の期待を超えることを目指した「燃料」中心の戦術では、顧客ロイヤリティーが構築されないということだった。むしろ顧客サービスでのやり取りでよく発生する「抵抗」(担当者に問題を説明しなければならないことなど)を減らすことで、ロイヤリティが構築されることがわかったのである。この結果は、顧客サービスに対する企業の考え方を根本的に変えるはずだ。
問うべきそとは、「どうすれば顧客に喜んでもらえるか?」ではない。「どうすれば、顧客に負担をかけずに済むか?」だ。問いかけをすれば、新たな改善余地や優先すべき事柄が見つかる可能性がある。
【「労力」の計算は少しのことで大きく変わる】
ある条件では被験者から75センチメートルのところに菓子を置いた。別の条件では25センチメートル離れたところに置いた。25センチメートルの所だと菓子にすぐ手が届く。後、調査員を菓子の入ったボールを回収し、菓子がどれだけ消費されたかを計量して確認した。この50センチメートルの差大きかった。菓子に楽に手が届いた被験者は、およそ倍の量を食べたのである。この結果からイノベーターが学ぶべきは、小さな変化が大きな影響を及ぼすこともあると言うことだ。何らかの手段でほんの少しだけ行動しやすくしていることができれば、望む方向に大きく行動を変えることができるかもしれない。
【「労力」に価値が見出される状況】
・体験すること自体が目的である場合
・美徳のシグナル
・質としての「労力」
・退屈しのぎ
【「感情」を克服する】
理由を聞き出す質問の方法
本当の「感情面の抵抗」を探るときに「なぜ」という言葉そのものを使って質問する必要は無い。新しいアイディアに「抵抗」する理由を明らかにする質問は、次の3つの特徴を備えているものが多い。
1.自由回答式の質問(オープンクエッション)
2.探りを入れる質問
人は恐れや不安を犯すことを嫌がるものだ。探りを入れる質問とは問題をより深く掘り下げることを求める質問だ。「前回はどのような感じでしたか?」と質問することで詳しい説明をそれとなく促すことができる。を入れるための質問は複雑でなくても構わない。「それは興味深いですね。詳しく教えてもらえますか?」と言う素朴なフレーズはほとんどの場面で使えるとても効果的な質問だ。
3.問題を浮き彫りにする質問
問題を浮き彫りにする質問は、新しいアイディアが相手のニーズや目標と対立しそうな部分はどこか、と言う点に的を絞って行う。「このプラットフォームのどのような点が気になっていますか?」と言う質問は、問題や浮き彫りにするのに非常に効果的だ。このような質問すると、新しいアイディアのどこに人々が脅威を感じているのかを発見できるはずだ。
【「感情面の抵抗」に効く一般的な治療薬】
①お試しができるようにする。
②決めたことを簡単に覆せるようにする。
③サービス込みにする。
【心理的反発】
自由が奪われると感じると「心理的反発」は起きる。
自律性を守りたいという欲求が「心理的反発」の原因だと言うことがわかったのは重大な発見だ。男子トイレの落書きを減らすために大学が2種類の張り紙の効果を検証したときのことである。
一方には「落書きは絶対禁止」と書かれ、もう一方には「落書きしないでください」と書かれていた。どちらの紙も逆効果だった。それまで以上に緑が増えたのである。だが、「落書きは絶対禁止」という極めて強い口調の張り紙が貼られたトイレの方が、格段に落書きが増えていた。厳しくすればするほど反発が強くなったと言うわけだ。
【変化を無理強いするのはやめよう】
「心理的反発」をこの克服方法で影響与えたり、イノベーションを起こしたりすることを「自己説得」と呼ぶ。自己説得は変わることについての議論や洞察が内面から生まれたときに始まる。
【イエスを引き出す質問をする】
性別の分野ではこのテクニックを「イエス誘導法」と呼んでいる。つまり、同意で始まる質問をすると言うことである。激しく敵対している人が相手であっても、一致点はほぼ必ずあるものだ。
「自分とは、反対の意見を持つ人を相手にするときは『自分と違う考え方を受け入れる用意はあるか?』という質問から始めると良い。相手の反対感情が強い場合は、なおさらそうした方が良い。」
そうすると、人はこの質問には「イエス」と答えなければならないと言う。心強いプレッシャーを心の内に感じる。そして「はい、あなたの意見を聞きたいです。」と相手に言わせることができれば「心理的に反発」が解消して心を開かせることができる。
【自己説得の3つのルール】
自己説得の目的は、人々の内面に自分の力でメッセージを吸収させることだ。つまり気づきを押しつけるものではなく、自ら気づいてもらうことで「心理的反発」の発生を防ぐのである。アイディアから「心理的反発」を取り除くための戦略として「イエスを引き出す質問をする」と「コ・デザイン」の2つを確認した。ここでは、自己説得力を高めるためのルールをあと3つ紹介する。
①自己説得は目安箱方式では無理
②メンバーにコミットメントを発表させる
③参加を実質を伴ったものにする