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「自分がやったほうが早い仕事」を委譲できる人が、組織を成長させる

企業が成長するたびに必ず起こるのが、「自分がやったほうが早い仕事」を新任者に上手く委譲できるか否かです。
 
どの企業でも、規模に限らずメンバーが増えるたびにこの課題が生まれます。元からその仕事を携わっている人(前任者)が、これから携わる人(新任者)よりもその仕事を早く熟せるため、つい自分がやってしまう。

もしくは急ぎな案件であるほど、メンバーに任せられなくなってしまう。事業創造のスピードを上げるためには、自分がやったほうが良いのでは。ついそのように考えてしまう場面は多いです。

中には、前任者よりも新任者のほうが仕事が早い場合もあります。

例えば、新しく入ったエンジニアのほうが技術力が高く、その領域や言語に対して経験豊富な場合、前任者よりも開発スピードが早いです。この場合は全く問題なくすぐ委譲できます。
  
既存メンバーよりも優れた人たちが、次々に入ってくるのは理想的な状況ではありますが、殆どの場合そうでないことが多いです。そもそもそのような人の市場母数が少ないですし、その少数を他社も獲得しようと採用合戦が繰り広げられています。

また、優秀な挑戦者ほど自分で起業しちゃいます。自分の事業を創りたくなっちゃいます。
 
もちろんその限りではありませんが、その仕事をすでに熟している前任者のほうが、委譲する瞬間は「自分のほうがその仕事を早くできる」と感じてしまう場面のほうが多いです。

しかし委譲できないと組織の成長はない。とくにスタートアップでそれが起こると、急激な成長が見込めなくなります。
 
実際に以前調べたときには、「メンバーに任せると遅くなるので、つい自分で全部やっちゃう」という創業者や上長が一定数いました。
 
このような人たちのことを、一部では「自分でやった方が早い病」と呼ばれているようです。

長期的には、委譲することによりそれ以上の仕事が生み出される

短期的に見てしまうと、どうしてもやり慣れている人のほうが仕事は早いです。それは当然です。

しかし長期的に考えると、新任者も前任者と同じかそれ以上になる可能性は十分あります。そしてそれは実際に起こっています。

また、どのような仕事かによっても変わってきます。

例えば、伝統工芸のように先代から代々伝承されているようなものの場合、仕事の内容やスタイルが、何十年何百年と殆ど変化しません。そうなると、どうしても経験値の多い先代のほうが、パフォーマンスが良くなりやすいです。

一方、事業創造の場合は異なります。

前任者から伝承されたやり方と同じことをずっとしていても、パフォーマンスは上がらないことが多いです。上がらないどころか下がっていきます。なぜなら、市場が変化するためです。

人は常に何らかの先入観にとらわれています。

その先入観のおかげで、無駄なエネルギー消耗を避けることが出来ているのも事実です。ホモサピエンス全史で語られているように、そのおかげで今の人類が生き残れているのかもしれません。

しかしその能力が悪いほうに働くこともあります。

人は、今の仕事が当たり前のように熟せるようになりルーティンになってくると、その行動や思考に疑いを持たなくなります。気づかぬうちにいつも同じ視点で眺めてしまい、慣れ親しんだ行動と思考を継続します。

ましてやある程度の成果が出ていれば尚更です。

前任者のほうが仕事が早いかもしれませんが、実は既存メンバーはバイアスまみれです。今のやり方に、あまり疑いを持ちません。

一方、新任者はまだバイアスがありません。仕事は引き継いだ直後は前任者よりも遅いかもしれませんが、それ以上のメリットして、今この瞬間を真っさらに観察できます。感度ビンビンであり、その点に関しては前任者よりも上です

すると、前任者が今まで見つけられなかった、その仕事に対する課題を「あれ、これって」と発見したり、「こうしたほうが良いかも」と解決方法を生み出す場合があります。バイアスまみれの人では気づけなかったことに、気づく現象が起こります。

実はこの気づきが、組織と事業を成長させます。

また、市場は常に変化しています。今までのやり方がすぐ通用しなくなったり、ユーザの嗜好も時と共にどんどん変わっていきます。

そのような状況下でも、バイアスのない新任者が力を発揮しやすいです。前任者が気づけなかった市場やユーザの変化に、いち早く気づいたりします。

故に目先では、「自分でやったほうが早い仕事」を新任者に任せることがデメリットに感じるような状況でも、長期的にみるとメリットのほうが大きくなります。

自分がやったほうが早いと感じている、バイアスまみれのあなた以上に、新任者が今後成果を残す可能性が高いです。そしてそれにより、組織としての非連続な成長が起きます。

従って、自分でやったほうが早いと感じる仕事ほど、どんどん新メンバーに任せていくことが吉です。そしてあなたは、さらに上のレイヤーの仕事。新しいチャレンジをしていく必要があります

それを繰り返すことにより、あなたもその新任者と同じように、バイアスのない状態で次の新しい仕事にチャレンジし続けることが出来ます。あなた自身に非連続な成長を起こすことが出来ます。

これがそれぞれのメンバーで常に起こっている組織は、とても強いです。

どのように仕事を委譲するのが正解なのか?

身も蓋もない話ですが、正解はありません。但し一つの考えはあります。

例えば、企業で既存メンバーが新メンバーに伝えるものは、大きく分けて下記の4つがあります。

・どんな仕事をやるか(タスク)
・その仕事の細かいやり方(マニュアル)
・その仕事に必要な技術(スキル)

さらにはこれらの上位概念となる
・会社の目的、価値観、行動様式(カルチャー)

多くの現場では、上から順番に教えていると思います。

なぜかというと、そのほうが早く前任者のスピードに追いついてくれるからです。今まで上手くいっていたやり方を順番に細かく覚えてもらい、それをトレースするだけなので、ある意味とても効率の良いやり方です。

しかし問題もあります。

それは一気に新任者がバイアスまみれになり、前任者以上の人に育たなくなります。要は、前任者の劣化コピーを生み出すだけの可能性が高いです。本来、思考しなければいけない部分を用意されるので、思考停止にも陥りやすいです。

先述したように、市場は常に変化しています。そのような状況で、前任者と同じバイアスまみれの、かつ劣化コピーを生み出していっても会社の未来はありません。

一方、それを上手く避け非連続な成長を遂げている企業は、4つの中のまず上下だけを伝えています。

☆どんな仕事をやるか(タスク)
・その仕事の細かいやり方(マニュアル)
・その仕事に必要な技術(スキル)
☆会社の目的、価値観、行動様式(カルチャー)

細かいやり方については、最初はあえて何も言いません。

会社のカルチャーを伝承することは大前提ですが、あとは「これを任せます」くらいを伝えて、細かいHOWについてはその人にお任せです。人によっては、これを無茶振りと表現するかもしれません。

もちろん放置プレイという訳ではなく、丁寧にケアします。定期の1on1で状況は把握しますし、分からないことがあったらいつでも聞いてと、門戸は常に開いておきます。聞かれたことは伝えます。しかし細かい手引きは、聞かれない限りはあえて言いません。

それは、やはり自分の劣化コピーを作らないためです。

早く効率良く仕事を覚えてもらうためには、マニュアルを渡して、細かく指示したほうが良いです。また、仕事によっては、そうしなければいけないものもあります。

例えばマクドナルドのように、どの店舗で同じ品質を届けるような仕事です。徹底的に仮説検証され精査された行動様式を、全スタッフがとることにより、同じ品質を顧客に提供することが出来ます。工場などもそうですね。

一方、事業創造者に関しては異なります。

我々のような仕事の場合は、一人一人がクリエイティブでなければいけません。新任者が前任者を越えるためには、過去の産物によりバイアスまみれにさせてしまうことを避ける必要があります。

まずはカルチャーとタスクを伝えて、自らやり方を考えてもらう。そして頃合いを見てスキルを伝えるタイミングを設けたり、マニュアルの大事な一部をチラ見せするなど、なるべく劣化コピーを作らないように気をつけます。

そうすることにより、手取り足取りよりは効率は悪くなりますが、長期的には前任者よりもその仕事を上手く熟したり、その瞬間の市場にあったスタイルへと変化させてくれる可能性が高くなります。

失敗を許容する文化を築くことが大切

劣化コピーを生み出さず、組織が非連続な成長を遂げるためにもっとも大切なことは、失敗を許容する(褒める)文化を築くことです。

先述したように、タスク、マニュアル、スキルと、全て細かく教えてその通りやってもらったほうが効率が良いです。仕事を早くトレースしてもらえるということは、失敗も少なくなります。

逆に細かいことは伝えず、その人に考えてやってもらうことは、挑戦する領域が大きくなります。これは会社にとってもリスクになり、失敗も増えます。

しかしその失敗が起こらなければ、非連続な成長は難しくなります。失敗=挑戦の数です。あの百戦錬磨にみえる柳井正さんでさえ、一勝九敗と仰っているくらいなので、どんな人でも挑戦すれば失敗のほうが多くなります。

それを認めない、受け入れない文化は、会社としての成長を諦めていることになります。なので私は、失敗は会社の財産と捉え、自信を持って報告してほしいと思っています。むしろ失敗した人は称えてあげたいです。

そういう文化がメンバーの視座を上げていき、会社を成長させると信じています。


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