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建築士の資格について思うこと

どうも、動物と打ち合わせる建築家です。

仕事の上では欠かせない資格について思うことを記します。主に建築士試験については3点気になる事があります。
項目は製図試験について、名称について、更新性について、です。

 ※3500文字くらいあるので興味のあるところを読んでいただければ幸いです。

なぜ製図試験は変わらないのか

 実際の業務においては、フロントでクライアントに提示したり現場での納まりを検討する時くらいしか手で書く事はあまりありません。例えば、ハウスメーカなどと契約した契約書に手書きの図面が挟まっていたらなんか不安になりますよね?私のような弱小設計事務所でもCADを使って描くのが一般的な時代なので、ゾーニング段階ですらCAD上で済ませるようなこともあります。学生でも手書きは一周回って表現の手法と化していますから、私個人としては非常に滑稽な試験方式であると思っています。

 かつて有名な建築士試験の対策スクールで製図試験の指導を受けていた時、合格になる図面はぱっと見の出来が良いことが重要だと言われました。複数の講師が仰っていたので間違いないと思うのですが、図面は絵ではないので、沢山の回答用紙を捌かなければいけない状況はあったとしてもちょっと納得がいきません。


覚えている範囲では、合否の判定はぱっと見でOKなものを合格ゾーンに置き、それ以外と分けるそうです。汚い図面ほど内容を疑う方式と伺いました。確かに理にかなっているのですが、このご時世にそれを人の目でやっているのもどうなんでしょう。

 例えば設計条件の要求居室を満たしているか、みんな大好きAIを使って文字情報を判別して足切りをするとか。採点側の工夫はあると思います。
ただ、そもそも建築士の製図試験のために製図板を買ったりするあたり利権じみたものを感じざるを得ないのですがどうなんでしょう。その後使う機会ありましたか?製図板買うお金があればCADソフトが動くPCは用意できる時代ですし、手書きを強いるくらいならJWCADを強いても問題ないような気がします。このかなり型式ばった古い習慣を打ち破ってくれる偉い人は出てこないものでしょうか。。(いっそのことBIMでの試験もいいなぁ...)

建築士の資質で問うべきは知識(筆記試験)と技能(製図試験)なので、技能がお絵描きスキルとなってしまっている状態はうまくありません。エスキス以降はCAD入力で良いじゃないですか?公平じゃないのでしょうか?

資格の名称と内容の違和感

 建築士は木造・二級・一級と分類されています。世間的には一級建築士を一人前と考える風潮ですが、本当にそうでしょうか?特に住宅分野をやっていると感じるのは二級で十分じゃないかということです。

条件なく一級か二級かで言われれば皆一級でしょうが、
好きな河川が一級か二級かと言われたらどっちでも良いですよね?(一級河川の水の方が美味しいとか面白い話があれば別ですが。)
建築士の級はどちらかといえばそういった違いに近いと思っています。なぜなら両者の違いは「扱える建物の規模に対する制限の有無」しかないからです。なお、一級は無制限です。(試験の段階で言えば、出題範囲が広く、製図試験の出題内容も大規模なものになります。)実質的に二級は住宅建築が対象範囲となっていて、一級は病院や商業施設など専門的かつ大型の建築物が対象です。

この建築士の二つの級の違いは数字でなく、対象建築物でラベルすべきと常々思っており、車で言えば普通運転免許特殊大型免許のように用途と名称を一致させるべきだと思っています。

二級建築士 = 住宅建築士
一級建築士 = 特殊大型建築士

このように整理することによって、試験の内容や出題方式も変わり、一般のクライアントにもその建築士がどの業務に精通しているのか分かりやすくなると考えています。過去には一級じゃないと信用できないと担当を外されたこともありました。一般的な住宅の設計で級による差が出るのでしょうか?本質的に、その建築物に対する知識や専門性はいくつ場数を踏んできたかによるものではないでしょうか。

度重なる改正、緩い講習会

 今年は建築士法が改正され、受験資格が大幅に緩和されました。ざっくりまとめると、実務経験は後で積んでもOKだから試験を先に受けましょうという内容です。受験資格の実務経験を、交付条件に変更したことで試験は特定のカリキュラムに沿って履修していればOKとなりました。実際のところ就職してから仕事と勉強の両立は本当に酷ですし、有資格者が減少傾向にある状況では有効打になると思っています。非常に羨ましいです。

 私が大学院でお世話になった教授は専門が建築でないにも関わらず、一級建築士の受験資格を持っていました。昔は工学を学校で学んでいれば受験資格がもらえたそうです。当時は二級の受験資格しかなかったのでかなり歯痒い思いをした記憶があります。なお受験資格自体は時事によって変わってきました。かの有名な2005年の構造計算書偽造問題以降、建築士はかなり厳しい改正を行ってきました。いまだに口酸っぱく講習で触れられる問題ですから、非常に業界に与える影響が大きかったと思います。

 受験資格同様に、試験内容も年々難しくなっており、二級建築士を受験していた当時で「今の二級は昔の一級より遥かに難しくなっている」と講師が漏らしたり、有名建築家がコラムで「今受けたら絶対受からない」と言うほどでした。世の中の技術の進歩、社会情勢に合わせて資格の難易度や取得の意義が変化していくことになんら不満はありません。唯一あるとすれば定期講習でしょう。

 設計事務所に所属する建築士に3年おきの講習を法で定めた建築士定期講習ですが、実態はかなり緩い内容と言わざるを得ません。講習と試験で結果が出ますが、講習自体がテキストをかいつまんだ内容で、試験も講習中に使ったテキストを見ることができます。(某大手の資格スクールの場合)また講習は試験も含めて1日で完了しますので、かなりスピーディーです。この講習が始まったのは約10年前ほどですから、最近資格を取得した方にとっては改正のポイントなど理解しやすいはず。しかし建築士の歴史はかれこれ70年もあり、講習を受けている人の年齢もバラバラで恒例の方も沢山いらっしゃいます。本当にこの講習で建築士たる技術水準が保たれているのか、という点が気になって仕方がありません。(有資格者減らせないから更新が緩いのかと思ってしまう...)もちろん資格取得後も実務を通して学ぶことは続いていきますから、全く無学でいるわけではありません。しかし、いずれこの年代ごとに起きる水準の違いを正面から問い直す必要は出てくると思います。

 最初に触れた製図試験についてもそうです。「昔からこうだから」と言っても世代が変わればCAD試験に変わる可能性も大いにありますし、そのタイミングではBIMなどの次の概念が実務では使われている可能性があります。何が言いたいかと言うと、こうしている間に日本の技術力やその成長が諸外国に比べて遅く、既に周回遅れレベルにあることに強い危機感を覚えます。少なくともBIMの導入に関しては相当に遅れており、今後も日本特有のガラパゴスな開発によって歪になっていく未来が見えます。

まとめると

 一級建築士は持っておいて損はない資格です。余裕があれば是非取得した方が良いでしょう。特にサラリーマン設計士をやっていると会社や上司から一級建築士の資格についてかなり口酸っぱく言われるでしょうし、私もそうでした。ただ住宅を設計することに人生を費やす覚悟でいるのなら、優先順位は高くありません。試験問題と実務は大きく違うからです。
特に戸建て住宅であれば数をこなして経験を積む最新技術にキャッチアップするなどその道のスペシャリストを極めた方がクライアントにとっても幸せなことです。名称のトリックに惑わされず、設計士とクライアントが信頼関係を結んで仕事を納めることが重要だと、このnoteを書きながら深く思い直しました。

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