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優しい店員さん

人間の性格は様々ですが、いい人、悪い人の区別によく使われる要因として「優しさ」がバロメーターとなるケースが多いように思います。

優しさとは?

優しさとはなんなんでしょうね。
そんなことを考える出来事がありました。

年老いた母との買い物

帰省中に母が新しい下着を購入したいというので、一緒に大型ショッピングモールに行ってきました。

私の母は85歳。脳の問題で記憶することも歩くことも最近では少しずつ難しくなって、思う通りにできることが少なくなってきているようです。買い物も最近では難しく、特に下着の買い物は、父にお願いすることも、父についてきてもらうこともできずにここ1年ぐらい過ごしていたようです。

私が帰省した時に下着を買いに行きたいと思っていたのだそうです。

店員さん①

行き慣れないショッピングモールに着いてウロウロしていたら店員さん①が声を掛けてくれたので、その店員さん①に誘導されるまま母の求めていた下着がおいてある場所までいきました。

母は元々、思ったことをオブラートに包んだり、人がいなくなってから本音を私に伝えるタイプの人ではないのですが、珍しく店員さんの薦める商品を購入する決断を割と早くしました。ただ、サイズ選びになると、店員さん①との意見が合わず、店員さん①が母に「サイズをお測りできますよ。」と優しく言ってくれましたが、それに対し母は「結構です。」と返事をし、店員さん①の薦めるサイズより1サイズ小さいサイズのものを手に、早く歩けないけれど彼女なりの早歩きをしてレジの方に向かっていきました。すると、その店員さん①が私に向かって言いました。

「サイズが合わないと何度も来ていただいても困りますので、そこはご了承ください。」

それはそうでしょうにと納得。私は店員さん①のいう事も聞かずにひとサイズ小さいものを購入した母の行動について「申し訳ありませんでした。」と謝り、その場を立ち去りました。

その日の夜、母が「やっぱりあの下着じゃないその横にあったのにすればよかった。」と言いだしました。昔持っていたものと似ていたもう一つの方が着心地がいいに違いないと。

母は、店員さんが薦めてくれた時から気が乗らなかったのだけれど、あまりに薦められるので購入したそうで、帰ってからもその後悔の念が強すぎて、買った商品を試着しようともしていませんでした。

そこで、私がイギリスに戻る前の日にもう一度ショッピングモールに行って、本来買いたかったものと交換したいと言いだし、わがままな理由とわかりつつも、母の願いをかなえてあげるため、翌日一緒にショッピングモールに行きました。

店員さん②

母とショッピングモールに着いたのが夕方6時ぐらいでした。
下着コーナーにはお客さんは私達だけ、従業員の数も日中に比べると半分ぐらいになっていました。

返品の前に、母が本当はほしかったという品物が果たしてまだあるのかを確認しようと思って探していたところ、前回と違う店員さん②が対応してくれました。店員さん①と同じく、大変丁寧に対応してくれました。

母が本当に欲しかったという品物のあるところに店員さん②にも来ていただき、まずは事情を説明するところから始めました。

店員さん②はとても暖かい笑顔で、「全然問題ございません。」と私たちに伝えてくれました。母も私も安心しました。

問題は・・・ 母のサイズが店頭になかった。

その話を聞いて母は「小さいサイズで大丈夫です。」との一点張り。
私と店員さん②は「そのサイズは恐らく小さすぎると思う」という意見で一致していました。
でも母は、「大丈夫です。」の意見を変えません。

そこで「私はもうイギリスに帰るのだから、返品をしに来たりするのは難しいし、何度も返品すると迷惑がかかるから考えてほしい。」と説得を試みましたが、母は「大丈夫です。」の意見を変えませんでした。

私が母に話をしているところを見ていた店員さん②に目と会釈で「すみません」というサインを送りながら話をしていたところ、店員さん②

「いいんですよ。買っていただいて下着を履いた状態で試着いただいているものであれば何度でも返品していただいても問題ありませんので。ご足労をお掛けしてしまう事だけが心配ですけど(笑顔)」

と言ってくださいました。

私の事をいたわってくれるような温かい目で見ていただいて、品物の支払いが終わり、品物を手渡してくれる際も、

「何かあったらなんでも言ってきてください。本当に何度来ていただいても問題ないですから。」

と優しい笑顔で言ってくださったのを聞いて、心が温かくなりました。

店員さん①がやさしくないとかいうわけでは全くなく、店員さん①の店員としての手際の良さとセールスのうまさはすばらしいと思いましたが、同じお店の店員さんでも、客として対応してくれる方と、人間として相手の気持ちをくみとって対応してくれる方がいるのだと思いました。

優しいという遺伝子なのだろうか、それとも自分も似たような経験があったり、同じような立場に置かれたことがあるので相手の気持ちがすっとくみ取れるのでしょうか。『優しさ』って… よく考えると興味深い感情の部分だなと思いました。

若い時にてきぱきしていた母。なんでも完璧にこなしていた母の手を引き買い物をしながら、店員さん②の優しさを思い出し、気がついたら涙が目に浮かんでいました。


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