【感想】石井僚一第一歌集『死ぬほど好きだから死なねーよ』
石井僚一さんが、とうとう第一歌集『死ぬほど好きだから死なねーよ』を出版された。
これは本当にめでたいことだと思うので、拙文ながら感想を書いておきたい。
石井さんは1989年生まれ。北大短歌会出身。
2014年、父の死を詠んだ連作「父親のような雨に打たれて」で第57回短歌研究新人賞を受賞。
しかし受賞直後、北海道新聞のインタビューに答えて、父がまだ生きていることを記者に明かした。このことについて歌人の加藤治郎が「虚構の議論へ 第57回短歌研究新人賞受賞作に寄せて」を発表したことから、当時の歌壇では歌と「虚構」についてたいへんな議論が巻き起こった(短歌に詳しくない人は、「父親が死んでなかったから何だっつーの?」と思うだろう。僕もそう思う。加藤さんの言い分も徐々に分かっていったのだけれども)。
『死ぬほど好きだから死なねーよ』の帯には、
自分をとことん晒し、噓のない言葉の力を探し続ける歌人の、記念碑的第一歌集。
とある。
一見、「虚構」事件のことを思うとずいぶんな皮肉だ。
以下、気になった歌を引用します。
* * *
傘を盗まれても性善説信ず父親のような雨に打たれて
助手席を永遠の行き場所とする法定速度遵守のあなたの
鞄の中の六法全書で変質者を殴打しこの街いちばんの頑張り屋さんのスカートふわり
煩悩108きっぷでゆこうよ春の旅 普通列車は今日も普通だ
マザー・テレサ、どれだけ人を愛したら布団はふっとんでくれるでしょう
舞うようにゆっくり喋れば月面の手話通訳士のうつくしい手技
みずうみで足を洗えば永遠に汚れてしまうみずうみだろう
手を振ればお別れだからめっちゃ振る 死ぬほど好きだから死なねえよ
※本のタイトルと下の句の表記が違う。どういう意図だろう。
プールに金魚が鮮やかでどの子がわたしたちだろうねってこれからすくうやつだよ
生きているだけで三万五千ポイント!!!!!!!!!笑うと倍!!!!!!!!!!
おれがおまえを抱く おまえはおれを抱く これぞ一石二鳥
魚群がぎょっぐーん!って迫る水槽のふたりってばかみたいゆめみたい
誕生日にもらった花枯れちゃう前に食べるぞってネットで調べたら毒があって症状「笑い死に」って(笑)
* * *
一番好きな歌は、迷うけど、
手を振ればお別れだからめっちゃ振る 死ぬほど好きだから死なねえよ
かなあと思う。
「手を振ればお別れだから手を振らない」という歌詞なり台詞なりは腐るほどあるけれども、それを裏返して、この作中主体は手を「めっちゃ振る」。
で、読んだ僕は「たしかにお別れならめっちゃ振るべきだ!!!」と思う。
下の句も同じ構造だ。「死ぬほど好き」という言葉は掃いて捨てるほどあるけれども、それを裏返して、「死ぬほど好きだから死なねえ」。
意味がわからない。わからないけれど、やっぱり僕は「たしかに死ぬほど好きなら死なない!!!!!」と思う。
詠われている「だから」を理屈で説明する必要はなくて、ここには理に落ちないからこそのきらめきがある。しかも1首で2発。
1冊通して石井さんの歌を読んでみると、たしかにそこには「噓のない言葉の力を探し続ける」過程を感じた。受賞とその議論を機にとても短歌を勉強していらっしゃったのを思い出す。読むと3年という短い間でも文体がころころ変わっていて、ずっと挑戦してきたのだろうなと思う。帯に噓なし。
研究経費(書籍、文房具、機材、映像資料など)のために使わせていただきます。