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たらこおにぎりと猫と私


パリパリ…

向こうから走ってくる愛猫達

米袋を開ける音
柿渋のコーティングが施されたこれは
お米の保存が
通常よりも長く保たれる優れもの
…らしい

効果のほどはまだ使い始めたばかりなのでよくわからないのだけど

毎度 こうして米を取り出すときに

大好きなおやつと勘違いして
ウニャぁ、ワァ、と
それぞれ小さな声を漏らしながら
寝床からダッシュでこちらへ走ってくる

その姿の可愛さに
米だよぉと罪悪感を持ちながら
だけど苦笑してしまう

「はい」と手のひらに載せた米を鼻に近づけると
妹は「なんだ」とそっぽを向くのに
兄ちゃんはなぜか静かにそのまま
米を食べてしまう

初めは驚いたけど
二つぶ位で「違う(-_-)」となるため
彼の好きにさせている

いつものように二つぶ食べて
目も合わせず向こうへ行った

ちぇ 冷たいもんだよ。

ちなみに兄ちゃんは
炊いた米も普通に食べる

その時は二つぶではなく
ムシャムシャとしっかり食べてしまう


皆のところの猫はいったいどうなんだろう?と思うところ

「産んだら猫だった」と
普段から公言している私の子供達(猫)は揃いも揃って食いしん坊だ

兄は温厚無口なロシアンブルー
妹は活発ワイルドアクティブなベンガル

どちらも元気が良くて
沢山食べるのは私に似たのね、と謎に納得をし 
(普段の主食はキャットフード)

どちらにせよ良いことだと
米を炊く準備を進めていく


数年前に炊飯ジャーが壊れたのをきっかけに
今は土鍋で炊いている

買って数日で
内蓋を割ってしまった時
キッチンで数秒固まったが
どうってことない
普通に炊ける

ドンマイ精神で逞しく生きるのが
モットーだ

そんな私はなぜか子供の頃 
「死ぬ前に食べたいものは何?」
と よく周りの人に聞いてまわっていた

真剣に悩みに悩んで

『白い新米炊き立てご飯』と
『上質なたらこ』

これを上回るものは無いと考え
最後の晩餐は絶対にこれだ!と
心に決めた

それから幾つか候補や順位は
変わったけれど
二十数年近く経った今はもう
あまり真剣に考えてはいないが

"うん、それで間違いない"と変わらず納得 不動の一位として変わらない

結局
子供の頃に受けた衝撃は
良いも悪いもインパクトは大きいのだと思う

それでは
"私人生最高"とランク付けされた
その『たらこ』との出会いを語ろうと思う

少し長くなるがどうか良ければ
付き合ってほしい

それは
少し離れた街に魚屋を営むという
会ったこともない親戚のお店のものだった(と記憶している)

実家で暮らす時は
父がずいぶんと食にこだわる人で
特別な時だけではあるけど

考えてみれば
印象に残る美味しいものを
食べさせてもらうことがあったように思う

だから普段でも
スーパーのたらこではなくて 
鮮度の良い魚を揃える店のものを食べさせてもらえていた

今ではそのこだわりもありがたみもちゃんとわかるし
感謝していること

その会ったこともない親戚の店の
そのたらこは
食べたことのあるそれと比べて
見た目の色艶も大きさも
子供ながらに一瞬で
"絶対美味しいやつ"ってわかるほど
全てが衝撃すぎた

そして少し食べただけで
とんでもなく美味しかったことの
衝撃はやはり忘れられない

なぜ忘れられないかと言うと


当時から米が大好きな私は
学校から帰って小腹が空くと
普通にご飯をおにぎりにしておやつに食べていた(昭和っ)

いつものように
何食べよっかなぁ…と冷蔵庫を開けると

見慣れないパッケージに入った
大きなそれがそこにあった

好物のたらこがそこにあるし
お腹は空いている
ジャーを開ければ炊き立てのキラキラ光るコシヒカリが湯気を立てて待っている

なんだかいつもとは雰囲気が
違いすぎる気配を感じつつ
条件は揃っていた

"少しだけ…"と 
ご飯一膳分だけを遠慮がちに
切り分けて取り出した

…はずだったのよねー(。・ω・。)

結果なんと あまりの美味さに
箸もおかわりも止まらなくなり
全部食べてしまったのだ
(結構なサイズと罪悪感)

※もう一度書くけど
おやつ、としてだ

お腹いっぱいに満たされた頃
母が戻ってきて

いつものじゃない
たらこの素晴らしさと
美味しかった喜びを
あまりの興奮にて伝えてしまう

つまり 結局
全部食べたことがバレてしまい
(夕飯用に炊いた米も)

なんと(確か)
食べ盛りの娘が夕飯前に母親から

「食べ過ぎだ!」とゲンコツをくらうという


衝撃的なオチにて

たらこと私の
"幸せ時間"はその瞬間幕を閉じたのでした

(-_-)… だって だってさぁ
そこにたらこがあるんだもん


その時は

早く大人になって
思う存分たらこを食べてやるぅ〜
。・゜・(ノД`)・゜・。

と痛む頭を抱えゲンコツした母に
内心静かにブチギレるのが精一杯で
口答え出来ずにいたのだけれど…


ほどなくして専門学校無事卒業し
19歳で県外の美容室に就職する

一人暮らしを始めた当時の月収は
今では考えられないだろうけど
ブラックどころかブラックホールとして悪名高き業界だもんで
社会保険無し手取り12万弱

そんな私がスーパーで1人
たらこの値段を初めて見た時に
"たらこ独り占め・ゲンコツ事件"の
真相、親の気持ちを知ることとなる


19歳、県外での初めての一人暮らしスーパーで出会う目の前にあるそれは

見た目から
あの記憶の中の
"キラキラたらこ"とは
比べ物にならないほど安っぽく
着色料で染まる嘘っぽい赤ピンクをしていて不気味だった

その姿はまるで

キラキラたらこが
高級クラブの上品で知的な選び抜かれた美しいホステスならば

スーパーのたらこは
場末のスナックでノリと勢いで
のしあがったやさぐれネエちゃんくらいに違いがあって
(失礼m(__)m)

たらこの世界にも
『格の差』があることを知った

しかし残念な事に
超貧乏アシスタントの私には
"場末のスナックネエちゃんたらこ"の値段すら驚きで
実家を出て経済的にも一人立ちした現実の厳しさを痛感したのであった

結局

"たっか!!((((;゚Д゚)))))))"

と次の給料日までのやりくりに
怯んでしまい
手を出すことが出来ないほどの
贅沢品(たらこ)はしばらくおあづけとなる

当時同期の誰かしらが毎月電気やガスが止められていた
大袋のパンを何日かけて食べるだの
一つくれ、イヤだ!だの
笑いながら大騒ぎしながら
なぜか毎晩先輩に連れ回され飲み歩くと言う謎のギリギリ生活
美容師アシスタント時代の金無い話も今では良い思い出だ

絶望するほどお金はなかったのに
楽しかった
(フリをしていたのかもしれない)


そんな中
目指す"ブツ"は一体いくらするのかと
興味も湧いた

念の為、怖いもの見たさで
デパートの高級たらこのお値段を見に行ってみたこともある

見た目 記憶のあれと似たような
金ピカのパックに入った
たらこを見つけその値札を見ると

文字通りギョッとしたのは
言うまでもない
(昭和の美容師、アシスタントなんてきっとそんなもんだろう)

そして当時
両親、姉妹の食べる分を考えもせず
目先の欲で"キラキラたらこ"
(推定数千円分)を 

しれっとパクッと

しかもおやつ的に

全部 一気に食べてしまった

自分のアホさ加減とわんぱくさ
その罪の重さに

一人愕然とし脳内で即、土下座した

稼ぐこと、お金の重さを
私はたらこから学んだと言っても
過言ではない

(いや過言だろ)

これがわたしと"キラキラたらこ"の
物語だ

"たらこ独り占め・ゲンコツ事件"
確か高校生だったかなぁ?
中学生だったろうか?

でもさ
若いって 良いよね

もりもり食べても
まだまだ食べたくて
食べれるしさ

懐かしいね〜〜〜(´∀`)ウフフ



あ、そんなこんなで書いていたら
そろそろ米が炊き上がる

土鍋が吹いたら火を止めて
30分程蒸らしたら
ふっくらとかえすように混ぜておけばご飯の準備が整う

丁寧に炊き立てご飯を用意したのはもちろん

昨日 売り場で目が合った
色艶ハリ感の良いたらこが久々に
いたので連れて帰ってきた

地方だけど美人で健康的な
感じのいいホステスってところか

初めて"たらこが食べたい時に買えるようになった時"
一人前になったなぁとニヤニヤしたのを思い出す。
(下積みって夢食って生きられる)

今日はそれで
おにぎりを作ろうと思う


ほんのりとした苦味と甘味を感じる
ちょっといい塩と

ちょっと奮発してたまに食べたくなる
いい海苔で

焼き鮭や昆布、筋子や梅干しも良いけれど
やっぱり一番好きなおにぎりは
たらこなんだよなぁ

そうそう
うちの子供達は 
海苔が大好きで 
以前ネットで安く購入した海苔には見向きもしなかった

違いのわかる猫…いや子供達

その海苔は美味しくなかったから
自家製の海苔の佃煮を作ったっけ
添加物の心配が無い"〇〇〇ですよ"は意外と簡単だったから
定期的に作るお弁当用の
ご飯のお供となった


さていよいよ準備だ

せっかくだから
味噌汁でも作ろうか

絹ごし豆腐を5ミリ幅の細長く
えのきだけと合わせよう

味噌は三年熟成
信州味噌

煮干しを用意しておいた鍋を
火にかけるときっと良い出汁が出る頃合いだ

間もなくグリルの中のたらこに
ほんのりと焼き色がつく
火の通し具合は気を抜けない
せっかくのたらこが無駄に
堅焼きにするのはゴメンだからな

あ、そうだ
作ったおにぎりをテーブルの上に
置いておこうもんなら 
数秒で子供達に奪われる

真剣な目をして
おにぎりをしっかりと口に咥えて走る
猫をみたことがあるだろうか

美しいグレーの猫と海苔のおにぎり
それを追いかける豹柄の猫

その絵面は
吹き出すほどの可愛さなのだが

ど真ん中を齧られたおにぎりの
哀れな姿と言ったら無い

その姿は見るも無惨なので
可能な限り避けたいところだ

よっておにぎりを作る前に
猫達にはケージに入ってもらう

ではいよいよ
おにぎりを仕上げていこう

片面2ミリほどに
火が通った半生のたらこ

天日干しで丁寧に職人が仕上げた
味わい深い塩

それを少々まぶして握る
甘い香りの炊き立ての白米

そこに黒光りが美しい程よい厚みと歯切れの良さが絶妙な海苔の香り

炊き立てを
すぐに食べるために作るおにぎりは

あえて少し キュ、と握って
ポロポロこぼれにくいくらいに
中のたらこと米をフィットさせるように結ぶのが好みだ

子供達が海苔の香りで
ゲージの隙間から手を伸ばし
ここから出せと口々に鳴きながら
大騒ぎをしている
しばし 御免だ

おにぎりをいくつか作り
海苔が少し馴染む間に
温まった鍋に味噌を入れれば

美味しいご飯のお供達の
勢揃い


これ以上の至福は無い
やはり死ぬ前に食べるよりも

今、お腹いっぱいに
遠慮なく食べておこうと思う


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