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偉大なる母に感謝してもしきれない

私には母と呼べる方が5人もいます。
今回は、私を生んでくれた感謝してもしきれない母の話です。

小学1年の時、中学1年だった次兄に数学の問題を出され、直感で当てたりするような子供だったからか、母からは過度な期待をされ厳しく躾けられました。
テストの点が悪いと、裸足で外に出されて反省させられたりと、何で私だけという日々が続き、次第に母を憎むようになってしまいました。

そんな母が小学5年の時に入院しました。
私には、何故入院したかなど、教えて頂ける訳もなく、私自身は厳しい母から解放された、そんな気分になりました。

病院に見舞いに何度か行き、初めて胃がんだと知り、手術で胃を全摘出することを聞きました。
胃を摘出し、食道と十二指腸を繋ぐというものです。

それから母は退院し、自宅の布団からほぼ出られない状態になり、食べるとしても、小さなおにぎりを一個くらい。
少し瘦せこけた母は、片手でおにぎりを握って、口に入れました。

そして「まだ胃が無いから、これくらいでお腹いっぱいになるんよ」と私に微笑みかけてくれました。
「胃は切除しても再生するから」とも話してくれました。

自宅に居たのは一週間だけ、後で聞いた話は、胃の摘出手術をした時には、もう他の臓器まで転移してしまっていて、絶望的だったこと、母にはそのことを告げず、一時的にも帰宅療養させたというのを聞かされました。

それから一ヶ月ほどし、母の見舞いに行ったとき、母のやせこけた姿がそこには有りました。
既に食事も点滴さえも受け付けなくなって、骨と皮だけのような母を見たのは、これが最後となります。

それから数日後、親戚一同が我が家に来て、私は訳も分からず、従妹たちと遊んで疲れて寝てしまい、真夜中に叔母にたたき起こされます。

叔母は泣きながら、母が亡くなったという知らせでした。
翌朝、棺桶に入れられ自宅に戻って来た母は、生前の様に死に化粧され、まるで生きているかのように思えました。

そして葬式、多くの方が泣き崩れ、母を見送りました。
私は涙一つ流さず、皆から気丈な子だと言われましたが、そうじゃない母を憎んでいたからだと理解していました。

それから6年が経ち17歳になるまで、ずっと母を憎んだままでした。
しかし17歳の時に、伯母から母の事を聞かされます。

あなたの母は、とても素晴らしい人だった、PTAの副会長も務め人望も有り、子供たちにも愛情を注いだ、偉大な方だったと。

食事ものどを通らなくなり、点滴も受け付けなくなって、医者からももう長くは無いと宣告され、それでも2週間生き続けているのは奇跡だと言われたこと。

病院で花を買い、病室に飾って、トイレから戻ってきたら、花が折れていたのを見て「こん畜生」と声をあげ、何と無情なことかと涙したこと。

既に母は昏睡状態になりそれでも生きているのは、兄二人の大学受験の合格を精神力で待っているのだと父は悟り、父は母に嘘をつきました。
二人とも大学に合格したぞ、涙しながらそう告げると、母はそのまま息を引き取ったそうです。

しかし、霊安室に行く途中、母は動き出しました。
死後硬直とかそういう状態ではなく、今にも生き返りそうな勢いだった、伯母はビックリして気絶したそうですが、父は数珠を持ち、母に「もういい、もういいから」となだめたそうです。

少しずつ動かなくなり号泣する父、よほど子供たちの事が心配だったのだろうと教えてくれました。

あなたの母は、本当に子供たちの事をずっと心配していた、あんな素晴らしい母親はいないと話してくれました。
私の知らなかった真実が6年も経って初めて知ることとなりました。

その日、私は一人2階に上がり、横になって初めて母の為に涙しました。
今までずっと憎んできた、でも間違いだった。
母は、私たちの為に一生懸命だったんだということを改めて理解しました。

でも、私には母との楽しい日々が思い出せない、そう思ったとき、思い出しました。
小学生の低学年だった時、家族で父の小舟で島に渡り、飯盒炊飯を炊いた時、おかずも調味料も海苔も無い事に気が付き、母が海水を使って塩にぎりを作ってくれたことを。

その塩にぎりの美味しかったことを。
私が美味しそうに食べている姿を微笑ましい笑顔で私を見ていた母を思い出しました。

そう、私は母を憎むあまり、楽しかった出来事を全て封印していたことに気が付きました。
もう既に母はいない、親孝行したくても出来ない、そう思うと涙が止まりませんでした。

母が生きていれば、たぶんその後も喧嘩をしたと思います、でも生きてて欲しかった。
親孝行させて欲しかった。

くじけそうになった時、問題にぶち当たった時、今でも母の事を思い出します。
私にはとても素晴らしい母が居たことを、母は私の心の中にいまでもいます。
母に感謝の気持ちを伝えたい、私を生んでくれてありがとうと。

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