【連載】D2C Design Studio Talk vol.7 –サービス・ドミナント・ロジックとは何か–

みなさん、こんにちは。 
博報堂ブランド・イノベーションデザインの児玉誠周です。

Vol.6では、「ナラティブ」の要素として様々な要素を散りばめて、ブランドがユーザーの立場から語ることを重視する必要があるとお話をさせていただきました。

 今回は、ユーザーはどのような時に価値を感じるかに焦点を置いている「サービス・ドミナント・ロジック」の考え方、そしてD2C ブランドに活用できる私たちの考え方「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」についてお話をさせていただきます。

「サービス・ドミナント・ロジック」とは

「グッズ・ドミナント・ロジック」との対比

「サービス・ドミナント・ロジック」は、2004年にVargo and Lushが提唱した概念になります。
それまでは、生産・効率性を重視した製品に価値がある「グッズ・ドミナント・ロジック」という概念が主流でした。

「グッズ・ドミナント・ロジック」は、価値はグッズ(=最終的な製品・アウトプット)に埋め込まれおり、生活者はグッズの受け手である、という考え方です。
つまり、グッズを生み出している企業=価値を生み出している主体であり、生活者との関係性は取引的な間柄だったわけです。

グッズ・ドミナント・ロジックの考え方を料理器具で例えるなら、料理器具そのものに価値が埋め込まれているので、生活者が企業の提供する料理器具を購入した時点で価値は生まれるという考え方になります。

それに対し、「サービス・ドミナント・ロジック」は、価値を判断するのは生活者であり、グッズの役割はサービス伝達の手段である、という考え方になります。
グッズ(=サービス提供者のナレッジやスキルを具体化したもの)は、価値のある目標状態に達するまでの手段と捉えています。
つまり、製品を利用している中で価値が創造されるということになり、生活者は価値の共創者という位置付けになります。

「サービス・ドミナント・ロジック」の定義する『サービス』

「サービス・ドミナント・ロジック」の定義するサービスとは、

『他者あるいは自身のベネフィットのために、行為、プロセス、パフォーマンスを通じて、自らの資源(ナレッジやスキル)を適用すること』

とされています。

自らの資源とは、何かと言うと、ナレッジやスキルといった『オペラント資源(無形で効果を生み出すために行為を加えられる資源)』を指しています。

「グッズ・ドミナント・ロジック」では『オペランド資源(有形で効果を生み出すために行為を加える必要がある資源)』が重要とされており、重視される資源が異なります。

食材をオペランド資源とすると、それを調理するスキルやナレッジがオペラント資源になります。

「サービス・ドミナント・ロジック」では、本質的な価値はオペラント資源を活用することで生まれます。
では、オペラント資源が、どのような形で生活者の価値になるかを説明させていただきます。

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「サービス・ドミナント・ロジック」の『価値創造』

「サービス・ドミナント・ロジック」では、価値が生まれる瞬間は、購入された時ではなく、使用された時であると捉えています。
これを『使用価値(value in use)』と言います。

「モノからコトへ」の考え方はよく耳にすると思いますが、生活者側も『使用価値』を重視しています。
オペランド資源の所有によって価値が生み出されるのではなく、体験・経験していく上で自らのオペラント資源を適用し、価値の創造を行っているのです。

『使用価値』は、生活者に現象学的に判断されます。生活者ごとにサービスを使用する背景・文化は異なっており、受け取る価値や意味がそれぞれ違います。
そのように価値の捉え方がそれぞれ違うことを『文脈価値(value in context)』と言います。

サービス・ドミナント・ロジックの考え方を料理器具で例えると、多くの人に料理を振る舞う人もいれば、一人暮らしで少量の料理をする必要がある人もいます(文脈価値)。
また自身の料理スキル(オペラント資源)を適用しやすい料理器具も求められます。例えば初心者でも分量などが分かる料理ガイドライン/レシピ動画などを設けることで、オペラント資源を適用しやすい料理器具になり、料理を行っていく上で価値が生まれてきます(使用価値)。

 価値は生活者毎に独自的に判断されるため、企業側から決めつけで価値提供をすることは出来ません。
ただ、どのような文脈で生活者に経験をしてもらうかについては、企業側から価値提案することが出来ます。
つまり、文脈価値を生み出すために、vol.4でご紹介させていただいだ『提案』と『経験』を繰り返す顧客志向的なプロセスで開発をする必要があるのです。

D2Cブランドに応用できる「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」という考え方

D2Cブランドでは、UXを意識した「サービス・ドミナント・ロジック」も必要ではあります。

しかし、コミュニティ形成を意識した「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」(博報堂ブランド・イノベーションデザインによる造語)と呼べるような考え方もD2Cブランドの構築には重要になってくると思います。

「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」の『プラットフォーム』とは、事業者が提供者として、生活者に製品やサービスを展開する中央集権型のプラットフォームではなく、
関係者全員が共創し価値創造を行う主体と捉え、複雑なネットワークのように絡み合う構造である分散型のプラットフォームとします。

例えば、中央集権型のプラットフォームですと、生活者に料理器具を提供して終わりになります。
しかし、料理器具の価値を「食材を美味しく料理する経験」と捉えると、料理器具の価値が発揮できる新鮮な食材が欲しくなります。
そうすると、新たな共創者として食材提供者も加わっていくと思います。
そのように分散型のプラットフォームでは、複雑にサービスが展開されていきます。

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後述のエコシステム(ポイント②)が分散型のプラットフォームであり、
「サービス・ドミナント・ロジック」でも重要な視点の一部です。

「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」は関係者が全員、価値創造を誘引できる主体と捉え、様々な価値提供をエコシステム全体に行いコミュニティ形成を促す考え方です。

D2Cブランドが、コミュニティ形成を設計するにあたって意識すべき「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」のポイントをお話させていただきます。

ポイント①:文脈価値(value in context)の提案を広げる

Vol.2で「モノからコトへ」「コトからコミュニティへ」というお話をさせていただきました。
「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」では、動的になっている生活者の『文脈価値(value in context)』に着目していくべきだと思っています。

現象学的に判断される『文脈価値』は、『使用価値』に大きく影響しており、生活者に提案できるUXの視点に取り入れられています。

「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」では、体験(what)以外にも誰が(who)、何故(why)という要素も文脈に入っており、ブランドと繋がり続けたいと思われる設計が必要になります。

 ブランドが提案できる「どのような文脈で生活者に経験をしてもらうか」だけでなく、「私達が何故、このような経験をしてもらいたいか」という風に文脈を広げて価値提案を行うことが、「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」では必要になってきます。

 プラットフォーム・ドミナント・ロジックの考え方を料理器具で例えると、どういう思いでその料理器具を作成したかの背景や、目指していきたいビジョンや目的であるパーパスを設定し、価値提案の幅を広げていくことになります。

 生活者は常に動的に自らの経験を学習させ、変化し、価値を現象学的に評価していきます。体験価値の提案も重要ながら、文脈価値が動的に変化することを意識し、価値提案が出来る幅を広げられるように設計をすることが重要な視点になります。

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ポイント②:価値提案はエコシステムへ行うことを意識する。

「サービス・ドミナント・ロジック」では明確にB(ビジネス)、C(コンシューマー)といった区分をせずに、ビジネスに関わる関係者は全員A(アクター)と表現します。
なぜなら、BもCも関係なく、関係者は、自らのオペラント資源を活用し、開発や適用を行い、他の関係者とサービス交換をしながら繋がっているという考えだからです。
つまり、生活者も企業も供給される資源と公的資源を統合し、市場創造をしている資源統合者であるA(アクター)なのです。

社会は、複雑なA to Aのネットワーク構造を保ちながらサービス交換が行われているサービス・エコシステムが形成されています。
エコシステムでは、それぞれのA(アクター)の文脈から新たな意味が見出され、価値共創が行われているのです。

ブランドの生存可能性に影響を及ぼすA(アクター)は、全て利害関係者になります。そしてエコシステムは複雑なネットワークで構成されているため、価値提案はエコシステム全体に広がります。

「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」ではA(アクター)という考えに着目し、A(アクター)がブランドに参加し、エコシステムの一部になるような相互作用を生み出し、コミュニティ形成を活性化する価値提案を重視します。

 D2Cブランドはブランド・コミュニティを活用して生活者とブランドとの関係性を強化しています。ブランドと生活者の積極的な相互作用を促し、コミュニティを活性化させる必要があるのです。

 料理器具で例えると、利用し続けている生活者を交え新たな商品開発を行っていくコミュニティ作成や、インテリアなど他分野も巻き込んだライフスタイルの提案などを行い、相互作用を促すようなブランドの活性化を行うことになります。

Vol.5で、D2Cブランドの中には、オープン/透明性を持って、情報を公開しているものもあるとお話させていただきました。
このような情報もA(アクター)によっては、重要な価値提案になりえます。オペラント資源が最も重要な資源であると考え、A(アクター)のオペラント資源を生成・活用できるかを念頭に、エコシステム全体に効果的に価値提案を行なうことが重要な視点になります。

ポイント③:オペラント資源という視点で考える。

「サービス・ドミナント・ロジック」では大きくオペラント資源とオペランド資源という考え方があると前述させていただきました。

この考え方は、雇用者と従業員にも当てはめることができます。
主導権があり支配的な立場にいる雇用者はオペラント資源であり、
受動的な立場にいる従業員はオペランド資源であると言えます。

しかし、「サービス・ドミナント・ロジック」ではどちらも価値の共創者(オペラント資源)という捉え方をしています。
「サービス・ドミナント・ロジック」では、Mcgregor'sのXY理論とよく似ていると提唱しています。X理論では、従業員を仕事が嫌いなやる気のないオペランド資源と見なし、Y理論では、従業員を自分で仕事の価値を探す仕事を楽しんでいるオペラント資源として見なしています。

このようにオペランド資源として受け取るか、オペラント資源として受け取るかで、価値共創の広がりが違うことが想像できると思います。
「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」では、この考えを踏襲し、オペラント資源と捉えた従業員も重要なA(アクター)と捉えます。

Vol.6でブランドストーリーを構築する要素として、「ブランドに関わる、人という資産」とお伝えさせていただきましたが、従業員やファン、ステークホルダーといったブランドに関わる全ての関係者をオペラント資源として捉え、共創相手と捉えることが重要な視点になります。

最後に

「グッズ・ドミナント・ロジック」と、「サービス・ドミナント・ロジック」の違い、そして「サービス・ドミナント・ロジック」で言及されている価値創造についてお話させていただきました。

また、「サービス・ドミナント・ロジック」の考えの延長線上にある「プラットフォーム・ドミナント・ロジック」がD2Cブランドで重視されるコミュニティ形成に活きる考え方であることも合わせてお話しました。

次回は、プロトタイピングについてご紹介させていただきます。プロトタイピングは、サービスを開発する際に素早く検証を行えるだけでなく、身体を使い、作りながら考えることによって文脈価値を生み出すための『提案』と『経験』を繰り返す顧客志向的なプロセスにもなり得ます。今後のサービス開発やD2Cブランド開発の手助けになれば幸いです。

参考文献
Lusch, R. F., & Vargo, S. L. (2014). Service-dominant logic: Premises, perspectives, possibilities. Cambridge University Press.(井上崇通(監訳),庄司真人・田口尚史(訳)(2016).『サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用』.同文舘出版.)

この記事を読んでD2Cに興味を持って頂けたらお気軽にご相談ください。

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ライター紹介
児玉誠周| 慶應義塾大学大学院卒業。2017年に博報堂に入社し、ブランド・イノベーションデザインに所属。デザイン思考をベースとした事業・商品・サービス開発や、解釈人類学(エスノグラフィー)等のデザインリサーチ、商品サービスのコミュニケーション設計、マーケティングを行う。

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