見出し画像

ユーザーが共創に参加する動機を探る/USER INNOVATION LAB. レポートVol8

本記事は博報堂と法政大学西川英彦研究室の共同で立ち上げましたユーザー・イノベーションの研究会「USER INNOVATION LAB.」の活動をレポートする連載になります。 (「ユーザー・イノベーション」「USER INNOVATION LAB.」の詳細は下記をご覧ください)

こんにちは!
過去記事を読んでくださっている方はご無沙汰しております! 

博報堂ブランド・イノベーションデザインの今井と申します。
2018年に博報堂に入社以来、企業のブランド戦略立案や事業開発の支援を主に担当させていただいております。 

今回は「ユーザーが共創に参加する動機を探る」と題し、ユーザーがどのようなモチベーションをもって企業活動に参加しているかについて、6月に実施しました研究会の内容をもと に簡単にレポートいたします。

今回の研究会では、甲南大学マネジメント創造学部准教授の青木慶先生より「なぜ人は共創に参加するのか」、法政大学イノベーション・マネジメント研究センター客員研究員でいらっしゃる田中祥子先生より「よい結果を生み出す動機とは?」について、それぞれインプットをいただきました。 

本レポートではお2人の講義内容から、以下2つの問いに絞ってお伝えします。 

1. ユーザー発のアイデアの量と質を高めるには
2. ユーザーが企業との共創活動に継続的に参加しつづけるには

ユーザーの参加動機を捉え、きちんと報いる 

まず、1つめの問い「ユーザー発のアイデアの量と質を高めるには」について。 青木先生に講演いただいた内容をもとにお伝えします。 

青木先生は、共創コミュニティのマネジメントにおける重要課題は「アイデアの量と質のマネジメントである」という気づきのもと、どうしたらアイデアの量と質が上がるのか、レシピ投稿サイトの比較をベースにこれまで研究されてきました。 

その中での大きな気づきとして、「好奇心」「スキル向上」など先行研究で使われている共創に参加するモチベーション項目について、今回のレシピ投稿サイトのユーザーに聴取し回答ごとにクラスタリングをかけたところ、5階層になることがわかったそうです。

UIL_作業用

(青木先生 講義スライドより)

それぞれ以下のような動機をもつ方の集まりになり、大きくは階層①の「高次の目標を持ち、自働的にモチベーションを高める層」、階層②・③の「インセンティブに反応する層」、階層④・⑤の「特に何かに動機づけられているわけではない層」に大別されます。 

階層① 最高水準:どのモチベーション項目を聞いても高いモチベーションを示す方 
階層② 内発的高水準:投稿したレシピを参考にしたという報告を他ユーザーからもらうことがモチベーションになっている方
階層③ 外発的高水準:金銭やポイントをもらうことがモチベーションになっている方
階層④ 中水準:どのモチベーション項目にもあまり当てはまらない方
階層⑤ 低水準:どのモチベーション項目にもほとんど当てはまらない方 

青木先生は、動機がハッキリしている上位3階層について、それぞれの参加動機に合わせたサポートの提供を行うことがアイデアの量と質を高めることにつながると言います。

UIL_作業用2

(青木先生 講義スライドより)

階層①の方を例に考えてみましょう。

このレシピ投稿サイトに参加する最高水準の動機のユーザーの中には、フィードバックや金銭を得たいからではなく、料理研究家を目指す足がかりとしてレシピ投稿をされている方がいたりします。

そのような動機を持つ方に対して、たとえばその方を先生に招いた料理教室を運営会社主催で開いてあげると、共創活動へのさらなるモチベーションアップにつながります。

このように企業はアイデアの量と質を高める上で、ただ報酬を与えればユーザーが参加すると考えるのではなく、ユーザーそれぞれの参加心理を正確に捉え、きちんと報いることが必要になります。

参加初期と継続時の動機の変化に着目する 

2つめの問い「ユーザーが企業との共創活動に継続的に参加しつづけるには」に移ります。 こちらは田中先生に講演いただいた内容をもとにお伝えします。 

田中先生によると、そもそも動機は自己決定理論という考え方によって大きく3つに分類されると言います。先ほどのピラミッドの上位3階層と重なる部分もありますね。 

1. 外発的動機(面白くない活動を報酬などのためにしぶしぶやっている状態)
2. 内在型外発的動機(大変でつまらないことでも、重要だとわかっているから取り組める状態)
3. 内発的動機(個人がその活動を面白いと思い、自発的に取り組む状態)

UILab#7_田中先生資料_作業用1

(田中先生 講義スライドより)

この中で内発的動機は最も理想的な動機にあたりますがこの段階まで至る人は少ないため、企業は内在型外発的動機をもつユーザーに注目し、このユーザーの動機の内在化を高め、共創活動への参加をより内発的動機に近づけていくべきと田中先生は言います。

内在化を高めるためには、ユーザーのアイデアを企業がちゃんと認めたり、サービスの開発者はじめ従業員と直接やりとりする機会を与えることが有効になります。

さらに興味深いことに、田中先生によると、初期の参加動機と継続する際の参加動機は異なると言います。

はじめはお金や評判、好奇心で始めてみたところから、参加するにつれて、もしかしたらこのコミュニティ内の活動が仕事につながるのではといった期待感が継続につながったり、サービスに慣れ親しんだ親近感自体が動機になったりと変化していくそうです。ひとりの生活者としても「たしかに!」となります。

UILab#7_田中先生資料_作業用2

(田中先生 講義スライドより)

ここから、継続的なユーザー参加を得るためには、企業はユーザーの参加初期と参加継続時の2段階で動機を確認すべきという示唆が得られます。 

ユーザー共創型のサービス展開をされている方でユーザーの継続率の低さに悩まれている方は、この継続動機に着目してみると改善への糸口が見えてくるかもしれません。 

最後に、この章で掲げた問いに戻ります。 

ユーザーが企業との共創活動に継続的に参加しつづけるには、ユーザーによる参加動機の内在化を高めること、ユーザーの参加動機と継続動機をそれぞれ確認し動機に合わせたサービス提供を行うこと、が継続的な共創活動のために必要であることがわかりました。 


以上が、講義のまとめになります。

私自身もアイデアコンテストに参加することがありますが、たしかに企業からプランナーとして認知してほしい、コミュニティ内での自身の存在感をあげたいといったことがモチベーションのベースにあるので、ひとりのユーザーとしても腹落ちする内容でした。

一方、これまで自分が運営者側としてアイデアコンテストを実施したときのことを思い浮かべると、その立場から設計できていなかったという気づきもありました。 

コンテストのお題を出す企業の企画開発者と話す機会を提供したり、惜しくも落選してしまったアイデアの提供者にまた出たくなるようなインセンティブを提供したりと、時間をかけて参加してくださったユーザーのモチベーションに誠実に向き合う必要性を感じます。 

次回、発案者効果について 

次回は、7月の研究会で実施した「発案者効果」の講義についてレポートいたします。 こちらは本ラボの共同代表で博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 部長/法政大学大学院後期博士過程の岡田庄生よりお話します。 

発案者効果とは、「ユーザーと開発した商品です」と表明することによる効果を指し、表示することで売り上げがどう変わるか、どのような商材と相性が良いか、といった点を次回レポートではお伝えする予定です。

これまでとは毛色が少し変わり、製品開発後のプロモーションにおけるユーザー・イノベーションの活用方法のインプットになります。 ぜひ楽しみにお待ちください! (noteのフォローもぜひお願いします!!) 


<参考文献> 
Antorini,Y.M, A. M. Muñiz, Jr. and T. Askildsen (2012), “Collaborating With Customer Communities: Lessons From the Lego Group”, MIT Sloan Management Review, 53(3), pp.73-79. 

Füller, J.(2010), "Refining virtual co-creation from a consumer perspective.", California Management Review ,52(2), pp.97-122. 

Janzik, L., C.Raasch and C.Herstatt (2011), "Motivation in innovative online communities: Why join, why innovate, why share?", International Journal of Innovation Management, 15(4), pp.797-836. 

Füller, J. (2010). Refining virtual co-creation from a consumer perspective. California Management Review, 52(2), 98–122. 

Gagné, M., & Deci, E. L. (2005). Self-determination theory and work motivation. Journal of Organizational Behavior, 26(4), 331–362. 

Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2020). Intrinsic and extrinsic motivation from a self-determination theory perspective: Definitions, theory, practices, and future directions. Contemporary Educational Psychology, 61(April).

 ―――――――――――――――――――――――――― 
本件に関するお問い合わせは以下までお願いいたします。 
メールアドレス:uilab@hakuhodo.co.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?