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高打率の製品開発アプローチ「リードユーザー法」/USER INNOVATION LAB. レポートVol4

こんにちは!
博報堂ブランド・イノベーションデザインの今井と申します。 

2018年に博報堂に入社以来、企業のブランド戦略立案や事業開発の支援を主に担当させていただいてます。 

本記事は博報堂と法政大学西川英彦研究室の共同で立ち上げましたユーザー・イノベーションの研究会「USER INNOVATION LAB.」の活動をレポートする連載になります。 

今回は「高打率の製品開発アプローチ「リードユーザー法」」と題し、1月に実施しました2回目となる研究会(以下、研究会#2)の内容について簡単にレポートいたします。 

研究会#2では、静岡大学学術院工学領域事業開発マネジメント(MOT)系列 准教授で、法政大学イノベーション・マネジメント研究センター 客員研究員でいらっしゃる本條晴一郎先生より「リードユーザー/リードユーザー法」についてインプットをいただきました。 

リードユーザーとは「商業的に魅力あるイノベーションを起こす人」を指し、リードユーザー法は企業が自らリードユーザーを探しにいく手法を意味します。

ちなみにリードユーザー法は前々回のレポートでも扱っていますので、合わせてお読みいただけると、より理解が深まるかと思います。

さて、研究会#2では、リードユーザー/リードユーザー法についてアカデミアの世界でどのような研究がされてきたか、本條先生より研究者が立ち向かってきた問いをもとにお話いただきました。 

本レポートではそのうちの2つの問いについてお伝えしていきます。

 1. リードユーザー法は、伝統的な製品開発に比べ、どれくらい優れているのか? 
2. リードユーザー法を実施するにはどのような準備が必要なのか?


きざしを捉え、圧倒的な売り上げ成果を生む

まず、1つめの問い「リードユーザー法は、伝統的な製品開発に比べ、どれくらい優れているのか?」について。

2002年に発表された論文をもとに本條先生にお話いただいた内容を簡単にお伝えします。

同研究は、1997年から2000年の4年間に、某グローバル化学・電気素材メーカーで生み出されたアイデアを比較した自然実験の結果をまとめたものになります。

比較されたアイデアは、リードユーザー法で生まれたアイデア5案と非リードユーザー法(従来の製品開発手法)で生まれたアイデア42案。

研究結果によると、驚くことに、非リードユーザー法のアイデアの売り上げ予測は1800万ドルと試算されたのに対し、リードユーザー法のアイデアは1億4600万ドルと試算され、売り上げ成果の予測において、なんと8倍以上の差がついたそうです。

また、新製品ラインの創出に至ったかどうかという点でも、リードユーザー法で生まれた5つのアイデアはいずれも重要な製品ラインになったのに対し、非リードユーザー法で生まれたアイデアからは1つしか生まれず、その他41のアイデアは既存製品の漸進的な製品改良アイデアに止まる結果になったとのことでした。

この点から、リードユーザー法を活用した製品開発手法は従来の手法に比べて成果を生み出す打率が高いということがご理解いただけるかと思います。

念のため補足しますが、ここでお伝えしたいのは、従来の製品開発手法をやめてユーザー・イノベーション的アプローチに変えようということではありません。

従来の製品開発手法に加えて、リードユーザー共創アプローチを複線で走らせ、両方の学びを生かしていくことが重要ではないかと思います。


リードユーザー法アプローチの製品開発を成功させるには

では、そんな成果を生み出す手法をどうすれば実現できるのか。
2つめの問い「リードユーザー法を実施するにはどのような準備が必要か?」に移ります。

リードユーザー法を実施するには、大きく4ステップあると本條先生は言います。

1.リードユーザープロジェクトの準備
2.トレンドと主要な顧客ニーズの特定
3.リードユーザーのニーズとソリューションの理解
4.コンセプトデザイン

1つ1つ具体的にどのような動きをすべきか、解説いただいたので要点をお伝えします。


1.リードユーザープロジェクトの準備

大きくは、チームづくり、ターゲット市場の定義、リードユーザーの関与の深さの定義の3つに分かれます。

まずチームづくりですが、従来のプロジェクト以上にこの点が重要になります。多すぎてもうまくいかないため、3-4名のチームがベストと言われているそうです。

加えてユニークなのが、技術の専門家とマーケティングの専門家が1人ずついることが必須であるというところです。部門横断的なチームづくりが肝になります。

次に、製品開発を行うターゲット市場の定義をします。要するに、どんな市場に出す製品を開発するのかを決めるということです。
ここで考えるアイデアのスコープを明確にします。

最後に、リードユーザーの関与の深さを定義します。
ただアイデアをヒアリングしたいのか、WSに来て一緒に考えてもらうのか、どこまで巻き込むかを定めます。


2.トレンドと主要な顧客ニーズの特定

ターゲット市場とリードユーザーの関与が定義されて、すぐにリードユーザーの探索とはいきません。

先に、ターゲット市場でどのようなトレンドがあるのかを探ることが重要です。ここでいう「トレンド」とは、将来の顧客ニーズに影響を与える主要な傾向を意味します。

このトレンドの探り方は大きく2つ。

ベーシックなやり口ではありますが、1つはマーケティングの観点と技術の観点の両視点での、専門家へのインタビュー調査。2つめは文献やインターネットでのデスクリサーチになります。

これらの調査を経て、ターゲット市場における最も魅力的なトレンドを選択します。

たとえばかつての自動車市場であればブレーキ性能への注目の高まりといった具合です。

その中からさらにフォーカスする製品属性を定義します。ブレーキ性能であれば「止まる」などになるかと思います。

この製品属性の定義がこのあとの展開の重要なキーになります。


3.リードユーザーのニーズとソリューションの理解

リードユーザーの探索にはピラミッディングという方法を用います。
聞きなれない言葉かと思いますが、要領は明快です。

まず、ターゲット市場のリードユーザー特性をもった方(先進性と高便益期待を併せ持つ方と定義されていますが、本記事での説明は割愛します)を探してインタビューを行います。

そこで終わりではなく、わらしべ長者のように、よりリードユーザー特性の高い先進的な人を紹介してもらいます。それを繰り替えします。

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ここでポイントになるのが、積極的に遠い市場のリードユーザーを探索することになります。先ほどのステップ2で決めた製品属性はここで活きてきます。

やみくもに別の市場を探索するのではなく、共通の属性に注目する類似市場を探索することで現実的な製品開発が可能になるからです。

詳細については前々回記事をご覧いただければと思いますが、たとえば止まる技術について、ジェット機市場のリードユーザーから示唆を得て成功した例があります。

このように別の市場含め、ピラミッディングで出会ったリードユーザーの方々からニーズやアイデアを聞き出し、それをスクリーニングすることで有望な初期アイデアを導出します。


4.コンセプトデザイン

初期アイデアから具体的な製品コンセプトの策定や改善を行うためのワークショップを行います。

この場にリードユーザーや専門家を巻き込むことも多いそうです。

こうして精緻化され、新アイデアのコンセプトが生まれます。


以上が、ユーザー・イノベーションの手法の1つである「リードユーザー法」についての講義まとめになります。

多数の論文をもとにお話くださったのでとても納得度が高く、学生時代はゼミに入らず卒業論文を回避した身としては論文を読む重要性を痛く感じました。(本條先生も「ビジネス書より論文のほうが実用的な場合もある」と言われてました。)

そもそも、こうした研究が20-30年以上前に行われていたってすごいことですよね。

海外で盛り上がったビジネスモデルをいち早く輸入して国内で展開する「タイムマシン経営」という考え方がありますが、特に社会科学系のアカデミアの知見は、企業活動と密接に連関するにも関わらず、なかなかアカデミアでの盛り上がりに気づけないために活用機会を逃してしまっているのではないか、という気づきを得ました。

もちろん、すでにアカデミアの知見とビジネスでの実践をつなげている方もいらっしゃるかと思いますが、アカデミアのホットトピックをすぐに自社に取り入れるという、タイムマシン経営的なアカデミアとの接し方もあるかと思いました。


次回、クラウドソーシング法について

本記事は講義内容のまとめに留めましたが、実は本條先生の講義のあと、メンバーのみなさんから積極的な質問があり、30分延長するほど白熱した議論がありました。

実践に向けての質問がとても多く、さっそくどのように自社で活用できるかを考えてくださっているなという印象を受けました。

次回2月の研究会は、(私の遅筆がゆえ)すでに終了しておりますが、本ラボの共同代表で法政大学経営学部教授の西川英彦先生より「クラウドソーシング法」についてインプットいただきました。

次からはバトンタッチし、博報堂の比留川からレポートさせていただきます。

楽しみにお待ちくださいませ!
(フォローもぜひお願いします!!)

<参考文献>
 Churchill, J., von Hippel, E., & Sonnack, M. (2009). Lead User Project Handbook: A practical guide for lead user project teams. 

Franke, N., Poetz, M. K., & Schreier, M. (2014). Integrating problem solvers from analogous markets in new product ideation. Management Science, 60(4), 1063–1081. 

Lilien, G. L., Morrison, P. D., Searls, K., Sonnack, M., & von Hippel, E. (2002). Performance assessment of the lead user idea-generation process for new product development. Management Science, 48(8), 1042-1059. 

Poetz, M. K., & Prügl, R. (2010). Crossing domain-specific boundaries in search of innovation: exploring the potential of pyramiding. Journal of Product Innovation Management, 27(6), 897-914. 

von Hippel, E. (1986). Lead users: A source of novel product concepts. Management Science, 32(7), 791-805.

von Hippel, E., Franke, N., & Prügl, R. (2009). Pyramiding: efficient search for rare subjects. Research Policy, 38(9), 1397-1406.

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 本件に関するお問い合わせは以下までお願いいたします。
メールアドレス:uilab@hakuhodo.co.jp


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