見出し画像

革新的なアイデアを生むユーザーの見つけ方_USER INNOVATION LAB.レポートvol.2

こんにちは!博報堂ブランド・イノベーションデザインの今井と申します。

 2018年に博報堂に入社以来、企業のブランド戦略や事業開発の支援をメインに担当させていただいております。 

本記事は博報堂と法政大学西川英彦研究室の共同で立ち上げましたユーザー・イノベーションの研究会「USER INNOVATION LAB.」の活動をレポートする連載になります。

「ユーザー・イノベーション」「USER INNOVATION LAB.」の詳細につきましては以下の前回記事をご覧ください。

連載2回目となります今回は「革新的なアイデアを生むユーザーの見つけ方」と題し、11/12に博報堂マーケティングスクールで実施しましたオンライン講座「ユーザーイノベーション。生活者と一緒に創る革新へ。」について、簡単にレポートいたします!!

本講座は、USER INNOVATION LAB.で共同代表を務める博報堂ブランド・イノベーションデザインの岡田庄生と、法政大学経営学部・大学院経営学研究科の西川英彦教授からお話をいただく形で進みました。司会は博報堂ブランド・イノベーションデザインの米満良平が務めました。

画像2

はじめに博報堂の岡田より「ユーザー・イノベーションとは何か」について、導入のお話をさせていただきました。

岡田は博報堂でディレクターとして企業のブランディングや商品・サービス開発、組織開発などを担当する傍ら、自らも法政大学大学院の博士課程でユーザー・イノベーションを研究する研究者になります。

「ユーザーから良いアイデアは生まれない」は本当か

「ユーザー・イノベーション」と言うと、商品開発のご担当者の多くは「ユーザーに聞いても良いアイデアなんてでないよ」と思われるかと思います。

それもそのとおり、と岡田は言います。

「そもそも日本のユーザー・イノベーター(高いイノベーション能力を持つ生活者)は3.7%と言われています。たまたまインタビューで集まった人の中にはそうそういない確率なんです。」

画像3

通常の定性調査の設計の仕方でユーザーを集めたとしても、3.7%しかいないと言われているユーザー・イノベーターに出会うのは難しいところ。

それでは、どんな人をどのように集めれば新しいアイデアが生まれるのでしょうか。

研究の知見を生かすことでその問いに答えることが可能、と岡田は言います。

リードユーザーをさがせ

岡田の話を受けて、「企業がユーザー・イノベーションを活用する方法とは」というテーマで西川教授にお話いただきました。西川教授はユーザー・イノベーション研究をリードする研究者の一人です。

はじめに企業が抱えるイノベーションの課題について、こう指摘します。

「イノベーションの探索には、知の深化(社内の専門知識)と知の探索(社外の新しい知識)が不可欠です。ですが、知の探索をはじめても、街灯が当たっているところだけで鍵を探すように、いつも見ているところしか見ていない企業が多い印象です。事実、消費者イノベーションにおいて、ユーザーの革新的なアイデアに注目するケースはおよそ5%しかありません。」

そうした中で企業が取り組むべきことは何か。

リードユーザーの探索が重要、と西川教授は言います。

リードユーザーとは、ユーザー・イノベーターの中でも商業的に魅力あるイノベーションを起こす人を指します。

では、どのようにこのリードユーザーを見つければ良いのでしょうか。

手法は大きく2つあります。リードユーザー法クラウドソーシング法です。

リードユーザーを見つける2つの手法

リードユーザー法は企業が能動的にユーザーを探すために活用する方法、クラウドソーシング法はユーザーに自ら応募してもらう方法を指します。それぞれについて西川教授から説明をいただきました。

「リードユーザー法では、ピラミッティング探索という考え方が重要と言われています。」

ピラミッティング探索とは、簡単に言うと、専門的な知識を持っている方からより詳しい人をどんどん紹介していってもらうという手法です。

画像4

たとえば自動車メーカーの担当者が新しい「ブレーキ」のアイデアを探していたとします。

まずは自動車市場でリードユーザーと思われる人を探し、その方からさらに自分より詳しいリードユーザーを紹介してもらいます。

ある程度、繋いでいってもらうと、「航空機の技術が参考になるよ」と別の市場である航空機市場のリードユーザーの方を紹介されました。

その方にヒアリングをしてみると、航空機市場ではブレーキに関して自動車市場より先進的な考え方が採用されていることがわかり、自動車のブレーキ改良につながる重要なヒントを得ることができました。

このような要領です。

自動車市場から航空機市場にジャンプがあったように、ターゲット市場と離れた先進類似市場のリードユーザーにたどりつけるかどうかがアイデアの新規性や斬新さを決める重要なポイントになります。

西川教授曰く、リードユーザー法をうまく活用している企業の1つに3Mがあります。

外科手術をする際の感染予防の方法を検討する際、医療市場の知見ではなく、舞台メイクさんの知見に着目。

舞台メイクさんが日頃気をつけている演者それぞれの顔面皮膚の感染予防の方法論を活用することで、患者に合わせた感染予防の産業材開発につながった事例などがあります。

2つ目の手法がクラウドソーシング法です。こちらはリードユーザー法よりピンとくる方が多いかと思います。

コンテスト形式で行うことが多く、新アイデアの投稿やデザイン案への投票など、新製品開発の多くのプロセスで活用することが可能な手法になります。

画像5

西川教授から、クラウドソーシング法でユーザーを巻き込みながら積極的に新しいアイデアを生み出している企業例としてレゴ社が紹介されました。

新規事業開発責任者の方のコメントから、同社がリードユーザーをどう捉えているかが端的にわかるかと思います。

「我々の顧客の90%は消費したいだけです。おそらく10%は自分のモノを作りたいと思っています。1%は、他の人が買いたくなるような良いものを作るスキルを持っています。1%は高すぎで、0.1%あるいは0.01%かもしれませんが、3200万人の顧客基盤では3000人以上にはなります!現在、レゴには150人のデザイナーがいます。(レゴ社新規事業開発責任者 パール・スミス-マイヤーズ氏)」 
(出典:Jensen, M. B., Hienerth, C., & Lettl, C. (2014))

以上、簡単にではありましたが、講座の内容をベースに、リードユーザーをさがす方法論についてまとめさせていただきました。 

ここからは個人的な感想になりますが、レゴ社の方のコメントのように、リードユーザーを社外にある人的リソースとして捉えるというのは1つ面白い考え方かと思いました。 

「共創」がキーワードとなっている昨今ですが、企業間連携や産学連携は自社内の調整なども伴って、なかなかハードルが高いところかと思います。

一方、ただユーザーに意見を聞くだけでは効果が出にくいという実感を持たれている方は少なくないかと思います。 

その点、リードユーザーと一緒に考えるというのは、トライしやすい上に、斬新なアイデアも期待できるやり口かと思います。

 次回は、アカデミアの知見と企業の実践が交わる場“USER INNOVATION LAB.”の初回研究会(キックオフ)の様子についてレポートしていきます!

<参考文献>
 Howe, J. (2006). The Rise of Crowdsourcing. Wired Magazine, 14(06).  
https://www.wired.com/2006/06/crowds/

Jensen, M. B., Hienerth, C., & Lettl, C. (2014). Forecasting the commercial attractiveness of user-generated designs using online data: An empirical study within the LEGO user community. Journal of Product Innovation Management, 31(S1), 75–93. https://doi.org/10.1111/jpim.12193 

Lilien, G. L., Morrison, P. D., Searls, K., Sonnack, M., & Hippel, E. von. (2002). Performance Assessment of the Lead User Idea-Generation Process for New Product Development. Management Science, 48(8), 1042–1059. https://doi.org/10.1287/mnsc.48.8.1042.171

March, J. (1991). Exploration and Exploitation in Organizational Learning. Organization Science, 2(1), 71–87. 

Poetz, M. K., & Prügl, R. (2010). Crossing Domain-Specific Boundaries in Search of Innovation: Exploring the Potential of Pyramiding*. Journal of Product Innovation Management, 27(6), 897–914. 
https://doi.org/10.1111/j.1540-5885.2010.00759.x

von Hippel, E. (2005). Democratizing Innovation. Cambridge:MIT Press. 

von Hippel, E., Ogawa, S., & de Jong, J. P. J. (2011). The Age of the Consumer-Innovator. Mit Sloan Management Review, 53(1), 27–35. 

――――――――――――――――――――――――――
 本件に関するお問い合わせは以下までお願いいたします。
 メールアドレス:uilab@hakuhodo.co.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?