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昔語り/英語格闘気:幼児の英語(ねんねの時間)

「It's time to go to Bedfordshire(ねんねの時間ですよ)」

このフレーズを初めて聞いたのはもう40年近く前の事。

当時筆者は親の転勤でイギリスに住んでいた。その頃筆者は中学生だった。

到着後、父の会社の人達と会ったのだが、地元の人達は皆、「セサミストリートをテレビで見ると良いよ。言葉の勉強になるよ」と熱心に勧めてきた。

筆者は当時日本のNHKで放送されていたセサミストリートは何度か見たことがあるのだが,文字通りちんぷんかんぷんだった。黄色の大きなふわふわのぬいぐるみや、赤や青のぬいぐるみがしゃぺっていることは見事に一言も分からず、いつも途中でチャンネルを変えていたものだった。

セサミストリートは難しいと文句を言うと、その場に居た人たちは神妙な顔でこう言った。

「Blue Peterを観なさい。あなたの年齢では大きすぎるかもしれないけれど、子供番組と言えばこれだよ」

騙されたと思って、夏休みの間気が向いたときにテレビでこの番組を観てみた。

NHKの「おかあさんといっしょ」に「できるかな」を足した様な、おしゃべりと音楽、工作が主な番組だった。

観ても殆ど分からなかったが、セサミストリートの様に子供がしゃべる設定では無かったのが気に入った。大人が子供向けに普通に喋っているものだった。視聴者はおそらく幼稚園から小学生位を想定しているのかもしれなかった。

その番組の途中で、ごくたまに出てきた表現が「It’s time to go to Bedfordshire」という表現だった。大概小さい子供に対してだったが、何度か見ているうちに「Bedfordshire」が「Bed」と頭韻を踏んでおり、「ねんねの時間ですよ」と言っているのだろうな、と理解した。

その後、数年たってこの「Bedfordshire」を「もう寝ましょう」と言う意味で使っている場面を何度か普通のドラマやコメディ番組で聞くことがあった。

数年後、筆者はインターナショナルスクールに通う様になっていた。ある日の午後、授業も終わってさあ帰るかと思っていた所、何気なくあくびをしたところ、友人から「Going to Bedfordshire?」と言われた。何気なく「Yeah, maybe I will」と返したのだが、それがテレビ以外で初めて言われたBedfordshireの使い方だった。「Going to Bedfordshire?」の意味は恐らく「おねむですか?」といった所だろうか。

テレビ以外で実際に聞いたのは初めてだと言ったら、どの番組で言っていたか聞かれたので、Blue Peterやコメディ番組で聞いた事があると説明した。

この会話を、日本人の子が聞いており、「Bedfordshireは何か、Blue何とかは何か」と聞いてきた。筆者は簡単にBedfordshireは地名だが、I’m going to BedfordshireやI’m off to Bedfordshireと言ったら「もうねんね」又は「もう寝るね」という意味になり,Blue Peterはイギリスの子供番組だと説明した。

この日本人の子、後から日本語でBedfordshireの意味は何になるのかと聞かれて「ねんね」だと答えたらしい。翌日の朝、何人かのイギリス人やオーストラリア人の子達から「ねんね」と言われた。

「ねんね」は朝一で言う言葉ではない。「朝一から言う言葉じゃないけど、良く言えたね。まだ午前中だからまた寝ちゃだめだよ」と言って回った。

この会話は何人かの先生に聞かれていたようで、その日の終わりにカナダ人の先生から「今朝言っていたBedfordshireは何のことを言っているんだ」と聞かれた。

「I’m going to Bedfordshireの事ですよ」と言うと、先生には通じなかった。

その後知ったのだが、どうやらこの表現は、当時北米では使われていない表現だったようだ。

あれから何年も経って、なぜ「Bedfordshire」がベッドを指すのかが分かった。

1920年代に出版されは本の中に,1850年代にベッドに行くことを「Going up the wooden hill to Bedfordshire」と言う、という記述があるそうだ。ここで言う「Wooden Hill」は二段ベッドにある木製の階段を現わしているという説がある。Wooden Hill(丘)を登って「ベッドフォードシャー」に行く、と言うのは二段ベッドの木の階段を上ってベッドに行く、という含みがあるようだ。

この表現が広まったのは、イギリスの古い歌手でDame Vera Lynn(ヴェラ・リン)という女性歌手が歌った「Up the Wooden Hills to Bedfordshire」という曲が発端の様だ。
歌詞はこのような内容だ。

 
Up the wooden hill to Bedfordshire
Heading for the land of dreams
When I look back to those happy childhood days
Like yesterday it seems
It was grand my mother held my hand
Daddy was the old gee gee
The old wooden hill was the old wooden stairs
and Bedfordshire of course where I knelt to say my prayers
Climbing up the wooden hill to Bedfordshire
They were happy happy days for me.
Last night I dreamt about the place where I was born
The village school the winding lane the fields of waving corn
Seems that dream brought memories to me
My childhood days in fancieness I could see
When the sun had gone to rest and I was tired of play
Dad would put me on his back and then to me he'd say

Up The Wooden Hill To Bedfordshire - Meaning & Origin Of The Phrase (phrases.org.uk)


この歌では「Bedfordshire」が樹の階段を上っていく二段ベッドのことを指している内容で、この曲のヒットでベッドと頭韻を踏む「Bedfordshire」を使う表現が広まっていったらしい。

この表現はハリウッド映画でも使われており、20年程前に出た「ブリジット・ジョーンズの日記」という映画でブリジットが父親にお休みを言う前に使っている。

(Bridget Jones’diary 0:42あたり)

今でも使われている表現なのかは不明だが、言葉はどんどん変わって行くものだ。

この「Bedfordshire」ではなく、何か新しい表現があるのかな、と興味が尽きない。

参考文献

Up The Wooden Hill To Bedfordshire - Meaning & Origin Of The Phrase (phrases.org.uk)



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