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銀の光

学生時代、友達がよく夏に怪談話をしてくれました。古い時代の侍の霊にあったという話でしたが、その子が実際に体験した話だったそうです。その子は落ち着いた常識派として知られていた子でしたが、まさかそのような不思議な体験をしていたとは、と周囲が驚いたものです。


霊の話となるとやはり怖がる人が出てきますが、その子は冷静に語り続けました。霊にあってその後どのように対処したか。あまり良い体験ではなかったため、知り合いのつてを頼ってお守りを持つようになった、など。とつとつとした語り口なので、私は特に怖いとも感じず、珍しい体験をする人もいるんだな、と感じました。


ある日、その友達も含めて何人かで外で話をしていた時です。私たちは陸橋の上で周りを眺めながらたわいない話をしていました。その時、遠くの高層ビルの近くを、銀色の光の塊がいくつか飛んでいるのが目に入りました。


この光は高いビルの近くや、緑の多い公園の上などでよく見えるものでした。楕円形のものもあれば、正方形に近い形をしたものもあり、大きさも動く速さも様々でした。


その日は動きかたが違う二つの銀色の光の塊が浮かんでいました。その動きの面白さにつられ、つい話の輪からそれて一人で光に見入っていた時、その子が話しかけてきました。「ねえ、見えるの?」と。


私はその子の言った意味がどういう事か判らず、一瞬ぽかんとしていましたが、その子が言っていたのは遠くに見えていたその銀の光の事でした。一瞬返事に困りましたが、一言「見えるよ?」と返しました。


「あれって何だと思う?」とその子は尋ねました。


光ではあるけれど、形もある。大きさはまちまちだけれども、様々な速さで動く。飛行機のように一直線に飛んでいるわけではなく、途中で止まったり方向転換をしたりと、かなり忙しく動き回っている。


「乗り物?観光に来ているのかね。それとも遠足かな?」と返事をしました。恐ろしい雰囲気は全くせず、平和で穏やかな場合にしか見えないため、何か悪いものには見えなかったからです。


そのあとも二人でぼんやりとその光の塊を眺めながら、あれは何なんだろうと少し話をしました。でも、やはり他の人たちと一緒にいる手前、二人だけ他の事をするわけにもいかず、その時はそこで話を終わりにしました。


確信はありませんが、その光は何らかの乗り物かもしれません。動きも誰かが運転している物のようにも見えます。光を放っているのは、それ自体がライトをつけているのか、それとも太陽の光を反射しているだけなのか、そこまでは判別できませんでした。


テレビなどで未確認飛行物体やUFOなど、不思議な動きをしながら空中を浮遊するものが時々放映されることがありますが、それとはまた違ったものでした。映像に出てくるような形や動きのものは、これまで見たことがありません。


インターネットが使えるようになってから、こうした光の事についての記事を目にすることが時々あり、決して自分やその子だけが見ていたものではない、ということが判り安心をしました。


結局、今になってもあの光が何なのかはわかりません。ただ、友達とのんびりと二人で光を眺めた事は今も印象的に残っています。


最近は空をゆっくり見上げることもなくなったので、今ではそのような光があるのか気にすることもなくなっています。ただ、時々あの歩道橋に行って、昔のようにのんびりと銀の光の塊を眺められたらいいな、と思うことがあります。平和で穏やかな、ゆっくりとした時間を楽しめた夕暮れの事でした。

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