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「本当に怖いお客さんって?」



カスハラ

最近SNS上で「カスハラ」という言葉を聞くようになった。カスハラとは
「カスタマーハラスメント」のことで、主に接客業やサービス業従事者に対し、理不尽な要求や強要をする行為のことを指すようだ。そのような行為をする人はクレーマーと呼ばれる。

ごく最近では東京都が「カスハラ」防止条例を打ち出したりと、行政を巻き込んだ社会問題になっている。カスハラのせいで業務が停滞したり、精神を病んで退職してしまったりする人がいるのも現実であり、画期的な取り組みである。

しかし、なんでもかんでも客の言い分を「カスハラ」だの「クレーマー」だのと言うことにはいささか疑問がある。そこで、私がアルバイトをしていたときに経験していたことをお話ししたいと思います。

某鉄道会社で学んだこと①

わたしは学生時代、首都圏の某鉄道会社でアルバイトをしていた。地方の人はあまり馴染みがないだろうが、首都圏の鉄道会社では通勤ラッシュ時のホーム整理や券売機の案内などに学生アルバイトを雇用している会社があるのだ。私が配属されたのはオフィス街に面する駅だった。

あるとき、お客様への切符の説明について、誤った内容をお伝えしてしまい、お客様からお怒りの電話が駅に寄せられてしまったのだ。管理職から叱られ、休憩室で肩を落としていたときに先輩社員Aさんが話しかけてきた。訳を話すと、しばらく沈黙したあとにこう切り出してきた。

「ぎゅるはね君さ、接客業において本当に怖いお客さんって、どんなお客さんだと思う?」

「大声で怒鳴るようなお客さんでしょうか?」と答えた。
そして、Aさんは「若いな」と言いたげなような笑みを浮かべてこう言った。

「それはね、何も言わずに来なくなるお客さんなんだよ」

意図がくみ取れなかった。Aさんが続ける
「日本人の場合、文句があっても口に出さない人が多い。でも、心の中ではかんかんに怒ってて、『二度と利用しない!』と明日から来なくなる。大声で怒鳴ってくるお客さんは怖いよ。でも、理不尽にしろ、そうでないにしろこちらの何がいけなかったのかを学ぶことができる。でも、前者のお客さんからは何も学ぶことができない。そして、同じミスを繰り返してお客さんを失っていくんだよ。ぎゅるはね君の場合、お客様がお怒りの電話をかけてきたことで、何がいけなかったのかわかっただろう?」

この言葉は脳髄まで響いた。そして、いままで以上にお客様への誠意ある対応を心掛ける決心をした。

某鉄道会社で学んだこと②

休憩時間、たまたま先ほどの先輩社員Aさんと一緒になった。またそこで、クレーマーの話になった。
Aさん
「僕はバカの一つ覚えにクレーマーだなんだというのは懐疑的なんだよね」
私が真意を問うた。

Aさん「お客さんは本当にいろんなことを言ってくる。理不尽な要求もある一方で、会社や他のお客様の利益になりそうなこともある。そういったものをクレーム扱いするのはどうかと思うんだよね。単にお客様の私利私欲を満たしたいだけの要求はクレームとしてとらえていいだろう。でも、会社や他のお客様の利益につながるものはクレームではなく、『ご意見』と表現すべきだよね」

ぐうの音も出ない正論であった。

おわりに

日本のサービス業従事者の労働環境はよいとは言えない。国税庁が行った「令和4年度 民間給与統計実態調査」によれば、年間平均給与は宿泊業・飲食業が268万円、サービス業が377万円、卸売・小売業が384万となっている。最高が電気・ガス・熱供給・水道業の747万円なので、ほぼ倍以上の差がある。賃金が低く、年間休日も少ない中でお客様のために日夜奮闘している人たちに感謝と尊敬の念を持つ必要があるのではないか。

接客業の側も、会社や他の客の利益となる『ご意見』はどんどん上にあげ、業務を妨害する悪質なカスハラやクレーマーには毅然と対応すればよいのではないだろうか。



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