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思い出の香りをまとえば、あの頃の私に戻れるはず

皆さん、好きな香りってありますか?(急なコメント乞食)


嗅覚って不思議なもので、嗅ぐと一瞬で昔の記憶や感情を思い出す事がある。プルースト効果、というらしい。マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」という長編小説の中で、主人公がマドレーヌを紅茶に浸した時に幼少期を思い出す場面がもとになっているとのこと。


昨晩、部屋の掃除をして、集めたボディミストや香水を整理していると、ずっと愛用していた‘’キャロライナヘレナ212‘’という香水が出てきた。そういえば最近、つけてなかったなぁ・・・仕事でも使わないし、プライベートでも外に遊びに行くこと殆どないし。香水好きな彼(kemioと同じと言っていたが何かはわからない)の匂いがとても好きだったので、自分はあまり香水をつけないようにしていた。


懐かしいなぁ、と久しぶりに嗅いだら、何か色々思い出してセンチメンタルな気分になった。ここからは私のどうでも良い回想です。



社会人1年目の頃。半年実家で貯金したのち、職場の近くで一人暮らしをする事にした。勧められた物件は、市内の中心地、築浅8階建てマンション最上階、1LDKだった。チラシを見た時に、家賃高っ!1LDK!?贅沢すぎ!!って思った。一人暮らしと言えば、大学時代住んでた8畳ワンルームユニットバスのイメージだったから。


まぁ今後セレブ(?)になった時のイメージでもするか、と8割冷やかしで内見した私は、この部屋に一目惚れしてしまった。白を基調とした内装、だだっぴろいお風呂場、ウォシュレット付きのトイレ(あの頃ウォシュレット付きがステータスだと思ってた)、そして一番私の心を動かしたのは、ベランダから見た景色だった。マンションはその付近で一番高い場所にあり、最上階なので、目線を遮るものは何もない。果てしなく続く空と、遠くに見える海と、真下に見えるキラキラした街並み。かっこいい・・・!!!ベランダで景色見ながらワインとか飲んで、いい女・・・!!!


そこから迷いはなかった。秒で契約書にサインし、実家に帰って母親に怒られた事を覚えている。最上階なんて夏は暑い冬は寒い、あんた酔っぱらって落ちたらどうすんの、と、散々な言われようであった。ちなみに実家はマンションの7階である。わけがわからない。


もっと考えなさい、という母親の反対を押し切って、私の似非セレブ生活←実際に母親に言われた文句 が始まった。

大して貯金もなく、手取りも少ない、家賃は高い。なのに週3で飲み歩いていた。KAT-TUNも驚きのギリギリ生活である。


だけど私はあの頃、すごく自己肯定感が高かった。良い部屋に住んでいた。髪を巻き、ガッツリ化粧をして、カラコンを入れて、キャロライナヘレナ212(やっと出てきたね)の匂いをまとって、良い女になりきっていた。

当時、3年ほど彼氏はいなかった。夜な夜な遊び歩き、浴びるように酒を飲み、クラブでへたくそなダンスをして、次の日には覚えていないような男と連絡先を交換していた。ナンパを断ってブスと文句を言われれば、お前がブスと中指を立てるような、殴られても文句言えないぐらい強気な女だった。あれ、書いてて恥ずかしくなってきた・・・


だけどそんな自分の事が大好きだった。周囲からどう思われようが、自分がやりたい事を全力で楽しむ自分が好きだった。若さを思いっきり武器にして、キャーキャー騒ぐ自分が好きだった。綺麗になるために努力している自分が好きだった。良い部屋に住んでいる自分が好きだった。毎日がキラキラしていた。


そんな似非セレブいい女気取り生活は、3年ぶりに彼氏ができた事であっけなく幕を閉じてしまった。彼とは2年付き合い、同棲もして、お互いの親にも会ったのだが、めちゃくちゃしょうもない事で破局してしまった。今では笑い話である。この話もいつか書こうっと。



大学生の頃から一人暮らしを始め、もう10年目になる。引っ越しを繰り返したため、今住んでいる物件は5つ目。住宅街の中の、風通しの悪い、景色も全く良くない1DKだ。転職のために急いで決めたこの部屋は、居心地は良いが、あの頃と比べて全然キラキラして見えない。



そんな自分の現状にがっかりしながら、もう一度キャロライナヘレナ212の香りを嗅いだ。あの頃みたいな若さと勢いは減ってしまったけど、もう一度全力で走れたら、また自分の事を大好きだと思える日が来るんだろうか。あの頃のわたし、なんだかんだ、良い女だったのかな。


なんて思い出に浸りながら、枕元に、少しだけ香りを撒いて、眠りについた。すごく幸せな気分で眠れた。



色々整理して落ち着いたら、元気が出たら、そしてコロナが収まったら、あの頃みたいに街に出よう。しっかり化粧をして、髪を巻いて、お気に入りの服を着て。仕上げにキャロライナヘレナ212をまとわせて行こう。そしたら、あの頃みたいに自分を大好きだと思えるかもしれない。少しだけ、未来が楽しみになった。

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