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R怪談「うわさのアプリ」・・・ホラー。無作為に送られる噂のアプリが。


『エアウワサ(仮)』というスマホ向けアプリが開発された。
テキストや写真を、近くにある同じアプリを入れているスマホに、
次々に転送していく、というものだ。

iphoneの「エア〇ロップ」に少し似ている、と指摘する者もいたが、
どちらかというと、チェーンメールに似ている。

「口コミをアプリ化したようなものだな」

鋭いあなたは、アプリの本質を見抜いた。

「ある種のコンピュータウィルスのようにも思えるが、転送される情報は、インアウト共に全く同じで、スマホ内の他のデータを加工したり、抜き取ったりする機能はない。数百キロ程度のメモリを使うだけなので、一般にも受け入れられるだろう」

その予想は当たった。

『エアウワサ(仮)』は瞬く間に普及し、多くのスマホユーザーがインストールした。

そんな話を耳にしたあなたは、一つの悪戯を思いつく。

「一つ実験してやろう」

暑い夏の日。不快指数100%、コンクリの床が熱波を照り返している駅のホームで、あなたは、静止画とテキストを『エアウワサ(仮)』で流した。

静止画は「拳銃の銃口を真正面から撮影した写真」

テキストには、
「あなたの隣にいる人が、拳銃であなたを狙っている」
と書いた。

効果は絶大だった。

ホームでスマホを持った人たちの間に連鎖的に恐怖の表情が広がって行った。

ほんの数秒の後、ホームはパニック状態になり、
多くの人が恐怖の表情を浮かべて走り回った。
自分を守ろうと焦った人の中には、隣にいる人間に殴りかかった者もいた。

あなたは、大混乱のホームをしり目に、笑いを堪えながら駅の改札を出て、
駅前の商店街を歩いていく。
先ほどの駅の様子を思い出すと、心の中に神にも似た万能感が湧き上がり
うすら寒い笑いを押さえることが出来なかった。

その時、あなたのスマホが着信音を鳴らした。

『エアウワサ(仮)』が何かを受信したのだ。

見ると、ライフルの銃口を真正面から撮影した静止画だった。
テキストには、
「人ごみの中から、あなたを狙っている。心臓を撃つ」
と書かれていた。

「フン。俺と同じような事を考える不心得者が、もう一人いたようだな」

だが、先ほどの駅のホームとは様子が違った。
商店街を歩く買い物客たちは誰一人パニックに陥らず、
走って逃げだすような者もいない。

「この辺りには『エアウワサ(仮)』を入れている奴がいないのかな」

あなたは、少し不思議に思いながらスマホをポケットに仕舞った。

キィン!

何かが風を切るような音がした、と思う間もなく
あなたは心臓を撃ちぬかれていた。
倒れたあなたは、自分の血液が商店街の石畳を染めていくのを見つめた。

そしてあなたは、今ここにいる。
楽しいことだけを選んで、暗いけど大事な事から目を逸らすと危険だ。
それは呪いを撒き散らしているだけかもしれない。そんな人間は、天国にも地獄にも行けない。
快楽と苦痛の間を何度も行き来するのだ。
パニックする人々を見る冷たい笑いと、突然の苦痛とともに失われていく自らの人生の意味。万能感を味わいながらどうしても消えない不安と虚無感。何でもあると思った心の中に、希望だけがなかった。
そのままでいいのか?
さあ。前を見て、仮でもいい、希望を飛ばせ! 続ければそこに本物がある。

           おわり

「あなた」とは誰でしょう。この小説は誰に語り掛けているのでしょう。 二人称のシリーズは又いつか登場します。



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