楽しそうにサッカーをする下手なおじさんが”足りない”理由
先日、「日本に足りないのはめっちゃ楽しそうにサッカーをする、死ぬほどサッカーが下手なおっさん」というとてもインパクトがあり興味深いタイトルの記事を読みました。
この記事では日本と欧州のサッカーの違いの1つとして町中でサッカーを楽しむ人について取り上げていました。この記事内ではあまり日本の”草サッカー”事情について触れていませんでしが、日本は欧州に比べて楽しそうにサッカーをする下手なおじさんが少ないと著者の中野さんは書いていました。
上記の記事に書かれているような光景は話を盛っているわけではなく本当に起こっていて、実際に町を歩いているとそういった光景が目に飛び込んできます。それだけ欧州ではサッカーが文化として根付き、サッカーが彼らの生活の一部となっているということです。
では日本はどうでしょうか。欧州で日常的に見かけるこのような光景があるでしょうか。個人的にはそういった光景や「楽しそうにサッカーをする下手なおじさん」は存在していると思います。しかし、圧倒的に欧州に比べて”足りない”ように感じます。この”足りない”は単純に数的なことだけでなく、そういったおじさんの存在がいないように感じるという意味も含んでいます。
楽しそうにサッカーをする下手なおじさんが”足りない”理由
私自身も日本のフットサル場でアルバイトをしていたことや社会人サッカーチームの監督をしていた経験があり、現在はイギリスでサッカーを指導しています。様々な年代やレベルのサッカーに触れてきましたが、欧州に比べて日本は「楽しそうにサッカーをするおじさん」は少ないように感じます。そしてその理由は大きく分けて3つあると思うので、今回は「楽しそうにサッカーをするおじさん」が”足りない”理由について考えていこうと思います。
草サッカーをする場所
まず大きな原因として草サッカーをする場所が日本は限られている、無料でサッカーができる場所が非常に少ないという点です。
らいかーるとさんのツイートの中で日本の草サッカー事情について書かれたブログが紹介されていました。そのブログの中で草サッカーをする場所が限られていることを言っています。
都内でサッカーをしようにも無料でサッカーができる場所などほとんど無く、基本的にフットサルコートやグラウンドをレンタルしないとボールを蹴ることができません。そして、これは都内だけではなく多くの都市で起こっています。
最近ではボール遊びを禁止している公園増えてきていて実際に私の実家の近くにある公園も数年前にボール遊びは禁止になりました。詳しくは下の記事をご覧ください。
話を戻しますが草サッカーや楽しくサッカーをやりたい人がプレイできる場所が限られている、あるいはプレイできる場所がないことが原因で「楽しそうにサッカーをするおじさん」が少ないということが事実としてあると思います。そして、そのようなサッカー好きな人たちが一定数はいるとは思いますが公園や河川敷などの公共の場でボールを蹴ることが禁止されていることがゆえに、”目につきにくいこと”は確かです。ですので、欧州に比べて圧倒的に”足りない”と感じてしまいます。
適切なプレイ環境
2つ目の理由としてサッカーを”楽しめるプレイ環境”を見つけることが困難な点です。無料でサッカーやフットサルなどボールを蹴る場所はなかなかありませんが、お金を払えばボールを蹴る環境はあります。「個サル(個人フットサル)」と呼ばれる、フットサルをやりたい、ボールを蹴りたい人がフットサルコートに集まってゲームを中心にボールを蹴ることを楽しむイベントは多くのフットサルコートで行われています。個サルは参加者一人当たりの料金が決まっていることが多く、比較的安くボールを蹴ることができることが魅力です(1000円~2000円/人くらいで参加できます)。また、最近では「ソサイチ」と呼ばれる7人制のサッカーとフットサルの中間のようなスポーツも大会が開かれるなど人気になってきています。
とは言え、個サルやソサイチといったボールを蹴れる環境はあることにはありますが各フットサルコートによってレベルもまちまちで、参加してみたらレベルが高すぎてついていけなかったり、逆にレベルが低すぎてあまり楽しめなったなんてことも耳にします。ただでさえ、日本は草サッカーをする場所が限られているのにも関わらず、自分のレベルにあったプレイ環境を見つけることが難しいように思えます。
中野さんも書いていましたが欧州ではあまり上手い下手を気にする人が少なく、上手な人から下手な人までごちゃ混ぜでプレイしているのをよく見かけます。しかし、日本では同じレベルでサッカーをプレイしたい人が多く、そして同じレベルでプレイすることが好まれているように感じます。これはサッカーが上手な人が上手な人とプレイしたいのと同様に、下手な人も同じくらいのレベルの人とプレイしたがっているということです。もちろんどんなレベルでも楽しめる人はいますし、違うレベルの人とプレイすることを気にしない人もいます。ですが、サッカーというスポーツの性質上競技思考になりやすいことや、ストレスなくサッカーを楽しむには同じレベルの人同士でプレイすることが好まれることは自然な流れなのかなとも思います。
中野さんがサッカーというスポーツをしているのにも関わらずヒエラルキー存在すると言っていましたが、それはある意味正しくある意味違うのかなと感じます。日本はそもそも大きくレベルの差がある人と一緒にプレイをしたがらない傾向にあるからです(当然、そうでないチームもあると思います)。ですので、チーム中で上手い下手でヒエラルキーができているかといわれると微妙なところです。草サッカーを全体的に見た時に同じレベルでプレイしている傾向にあることを考えると、ヒエラルキーがると言えると思います。
話が脱線してしまいましたが個サルやソサイチを運営する方も様々な工夫を取り入れてはいますが、「楽しそうにサッカーをするおじさん」が増えにくいことは事実としてあると思います。
コミュニティの形成
サッカーやフットサル、ソサイチにしても全てがチームスポーツです。なのでプレイするにもコミュニケーションが必須です。そこでよく起こることがコミュニティに入れないことやチームの雰囲気に馴染めずに気まずさを感じてしまうことです。
サッカーやフットサルを趣味として始めようと草サッカーチームや個サルなどのイベントに参加するとします。当たり前ですが、そこには既にコミュニティが出来上がっていて、そこに溶け込んでいくにはなかなか勇気がいることだと思います。その場の雰囲気に馴染むことが得意な人や運よく気の合う人がいればいいですが、そうでない人は居心地の悪さから通わなくなってしまうこともよくあると思います。
社会人チームでもそういった問題はよくあります。チームの中に試合に勝ちたい選手と試合の結果よりも純粋にサッカーを楽しみたい選手との間でサッカーをどのくらい真剣に取り組むかで違いが出てくることはよくあります。また、サッカーをどのくらい本気でやりたいかの差も大きく、例えばアウェイゲームは遠出になるのであまり参加せずにホームゲームだけ来る選手などがいたりします。他にも試合や練習のコンディション(芝かどうか、天気、気温、人数など)様々なことで参加する選手と参加しない選手が開きが出やすいのが草サッカーです。
このようなコミュニティのトラブルや居心地の良いチームや環境を見つける大変さが、サッカーやフットサルへの取っ付きにくさを引き起こしている可能性があると思います。
これだけは…
今回、この記事を書いていてこれだけは言っておきたいと思ったことが2つあります。日本サッカーは良くも悪くも整っているのかなと感じます。サッカーをする環境やサッカーのルールなど非常に整備されているように思います。
日本の交通整理のようなサッカー環境
先程も言いましたが欧州に比べて日本は気軽にサッカーができる環境が少ないです。真剣にサッカーをする環境は非常に整備されていて人工芝のサッカー場やフットサルコートなどはレンタルすることができます。ただ、ライト層にとってはどうでしょうか。真剣にサッカーする環境が整ってきていることとは反比例するかのように、15分だけボールを蹴りたい人やサッカーをしているなんて呼べないくらいレベルの人たちが、友達とボールを蹴れる場所、ゲリラ的にサッカーをする場所がどんどん減ってきているように感じます。
どんなレベル、どんな形のサッカーでさえ、プレイできる環境がないということは、子供たちや様々な年代の人々がサッカーに触れる機会が減っているということです。人間、いつ何がキッカケで物事に興味が湧き、関心を持つかはわかりません。仮に何かのタイミングで友人たちと集まってボールを蹴る機会があり、サッカーをやってみたら意外と楽しかったという経験からサッカーを始めるかもしれません。友人たちとボールを蹴っていたらボールを蹴る感覚、触れる感覚にやみつきになるかもしれません。めちゃくちゃサッカーが下手くそなおじさんが楽しそうにサッカーをプレイしているだけで、そのおじさんの息子がサッカーへ関心を持ち、サッカーを始めるかもしれません。
ストリートサッカーという文化がブラジルにはありますが、日本では道路でサッカーをしていたら怒られてしまう文化です。欧州ではテレビでサッカーのリーぐ戦の中継がありますが、日本ではDAZNのみがJリーグを配信し、NHKがどこか1試合を放送する程度です。W杯アジア最終予選もアウェイゲームはすべてDAZNのみの配信となりました。コアなサッカーファンはDAZNと契約し見るかもしれませんが、そうでないライト層はどうでしょう。これまでは「テレビで観れるから試合を観ていたけど、わざわざ契約してまでは…」という人も多いのではないでしょうか。
現在の日本におけるサッカーに触れるキッカケが減少傾向にあることは日本サッカーが進化していくために、ワールドクラスの選手を多く輩出するために、日本サッカーが盛り上がるために、危機感を感じる必要があると思います。
日本人の独特な距離感
欧州と日本の決定的な違いとしてどれだけ”真剣”にサッカーをプレイするかがあると思います。日本の草サッカーや個サルなどでは”手を抜く”ことが求められることが多々あると思います。ルールの中に「スライディングタックルは禁止」、「フルパワーでのシュートは止めましょう」、「フィジカルコンタクトはなるべく控えめにしましょう」など本来のサッカーからすると”手を抜く”行為が推奨されているところがあります。ルールまでにはなっていなくとも初対面の人とプレイする際には強くボールを奪いに行かない、ショルダーチャージのような激しいプレイは控える風潮があります。
つまり、これが日本人のサッカーにおけるプライベートゾーンであり、あまり親しくない人が急にそのプライベートゾーンに入ってくると不快に感じるからだと思います。これは日本人特有のサッカーにおける人との距離感であり、その距離感を保つ傾向にあるのが日本人に多いと思います。しかし、欧州では日本人のようなプライベートゾーンがなく、激しいコンタクトや相手に気を遣うことなくプレイする人がほとんどです。
欧州ではどのレベルにおいてもサッカーをやる上では勝利を目指すことが根底にあるので、草サッカーだろうが友達とのボール蹴りだろうがプレイヤー全員が1つ一つのプレイに真剣です。自分が上手くプレイする、チームが相手よりも上回る、そして勝利こそが最高の「楽しさ」なわけです。日本の草サッカーや個サルではその「楽しさ」は全員がプレイに関わることができることや、ストレスなくプレイすること、全員が楽しめることに変わってきます。サッカーをする上で「楽しさ」の基準が違えば、プレイの激しさや求められるプレイが変わってくるのは当然のことだと思います。どちらのスタイルが良いというわけではなく、文化的に違いがあるということです。
最後に
今回は楽しそうにサッカーをする下手なおじさんが”足りない”理由について個人的な見解から紐解いていきました。勿論、私の見解と食い違う方もいると思いますが、個人的にこの記事で伝えたいことはサッカーはサッカーを愛している人達に支えられて成り立っているということです。サッカーの上手い下手に問わず多くの人がサッカーをプレイしてほしいと思いますし、多くの人がサッカーを好きになりプレイすることでサッカー熱が高まってきます。そしてサッカーの楽しみ方は人それぞれだと思うので、プレイするだけでなく観る楽しさであったりしますが、いずれにしてもサッカーに触れる機会を増やしていくことが、日本サッカーの発展に繋がっていくのではないでしょうか。やはり欧州に比べると日本サッカーは欧州サッカーの後を追っているような形となっていて、そこにはサッカー文化が大きく影響していると思います。今回の「楽しそうにサッカーをする下手なおじさん」という視点から日本サッカーを考える良い機会だったと思います。私自身も含めて多くの方がこれを機に様々な視点からサッカーを考ることができると良いのかなと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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