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「スーパーナチュラル」最終話

 さよなら、サム&ディーン――!

 『スーパーナチュラル』ファイナルシーズンを、ようやく視聴することができました。
 最終話(ep20)には心を揺さぶられ、連続して2回見ましたが2回とも泣きました。15年にもわたって続いてきた長寿シリーズのキャラクターとファンを、作り手が大事にしているのがよく伝わってくるエピソードでした。
 ep19はファイナルシーズンの締めでしたが、それに続くep20はこの『スーパーナチュラル』という作品自体の締めになっていました。

 もう二度と彼らに会えないなんて! けれども、作品中でもディーンが言っていたように「これでいいんだ」。これこそが、彼らにふさわしい終わりの形なのでしょう。
 あまりに見事な終わり方だったので、もう「番外編を見たい」とも思えないんだよなぁ。とどめを刺されてしまった、というか。

【以下、盛大なネタバレを含みます。閲覧にはご注意ください。】

ep19で神との死闘を終えた後のep20は、兄弟のほほえましい日常から始まります。ずっと重苦しい展開が続いてきたので、こういうユーモラスな雰囲気はひさしぶりです。
シリーズ初期の頃のように、二人はただのハンターとして、各地に出現する魔物を、軽口を叩きながら倒して回るのか――と思っていた矢先。

魔物との戦いの最中、ディーンは致命傷を負います。

これまで数多くの悪魔や天使、大天使や神とさえ戦ってきた彼が! こんな、それほど強敵とも思えない、ローカルな普通のモンスターを相手に! あっけなくやられるなんて!
しかしまあ、人ならざる者との戦いは常に命がけです。どんな狩りにも死の危険はあるわけです。

涙にくれるサムに対し、「これでいいんだ。もう生き返らせないでくれ。ロクなことにならないのはわかっているだろう」と震え声で告げるディーン。

"Tell me it's okay." (大丈夫だと言ってくれ)とディーンは繰り返します。

"It's okay. You can go now."(大丈夫だ。逝っていい)

覚悟を決めたサムがそう言うと、ディーンは美しい涙をひと粒だけ落として絶命します。

「ハンターの葬儀」を執り行うサム。思い出の詰まったアジトでの暮らしに、寂しさを噛みしめるサム。ついにアジトを去る決意をするサム。
悲しみに暮れるその姿に、心打たれずにはいられません。

一方、天国へ行ったディーンはボビーと再会します。ボビーは山小屋のポーチでのんびりビールを飲んでいます。
「ここは、ただの天国じゃない。おまえが来るべき場所だ(It's the heaven you deserve.)」とボビーはディーンに告げます。すべての望みがかない、会いたい人に会える場所だと。
振り返ったディーンの前に現れたのは、愛車インパラ。
幸福な笑みを浮かべながら、ディーンは山の中、車を走らせます。

再び地上。公園で、胸に「ディーン」と書かれた服を着た幼児と、笑顔で遊んでいるサムの姿が描かれます(このあたりで涙腺決壊)。サムは結婚して(相手の女性の顔は決して映らない)、立派な家を構え、ディーンと名付けた一人息子を愛情たっぷりに育てます。どうやらハンター稼業は息子に受け継がれたようです。
おなじみのテーマ曲『Carry on Wayword Son』が流れる中、あっという間に時は過ぎ、年老いたサムは自宅で息子に看取られて亡くなります。
"It's okay. You can go now."という息子の言葉に、涙をひと粒落として息を引き取る。ディーンとまったく同じ最期の瞬間です。

天国で再会したサムとディーンは、無言で抱き合います。
これからも二人は永遠に幸福に暮らすのだろうな、と思わせるラストシーンです。

☆  ☆  ☆

コロナのせいで当初の構想が変更になり、こういう「人里離れた山の中」での「メインキャラ三人きり」のエンディングになったのだ、という情報もありますが。
いずれにしても、さまざまな考察をめぐらせる余地のある終わり方だと思います。

「天国では時の流れ方が独特だ」とボビーが言います。
だから、ディーンがインパラと再会してドライブを楽しみ、サムと出会うまでの間は、たぶんディーンの体感ではほんの数時間だったのではないかと思います。地上ではその間に数十年が経過していますが。

そして、この「天国」は、人によって違う、カスタムメイドの天国なのではないかと思います。その人が最も幸福を感じられる天国。ボビーが It's the heaven you deserve.と言ったのはそういう意味ではないかと。

あれほど両親に愛着を持っていたディーンなのに、そんな彼を天国で出迎えたのが父母でなくボビーであった、というのが、なかなか深いと思います。(もちろん、実際にはコロナと俳優さんたちの都合のせいなのでしょう。それでも)
そりゃあ、やっぱりボビーでしょう。生前も、生き返ってからも、愛情を示すのがあまり上手とは言えなかった実の両親のことを思うと、本当に親らしい愛情を注いでくれたのはボビーです。間違いなく。
それに、親子四人の団欒は、ほんの食事一回とはいえ、すでに地上で実現しています。

そして、たぶん――我々視聴者が見せられたのは「ディーンの天国」なのではないでしょうか。年老いて死んだはずのサムが若い姿で現れたのが、その証拠です。ディーンにとってのサムは、若い姿のままなのです。

おそらくサムの行った天国は、まったく違うものでしょう。
もちろんサムにとって、兄は大切な存在です。けれどもサムには妻と息子があり、その二人に対しても深い愛情を注いでいたに違いありません。
サムの自宅には、額に入ったたくさんの写真が飾られていました。サムは知性と常識があり、穏やかな気性で、社会でも十分うまくやっていける人間です。良い友達も多くできたのではないでしょうか。
神を倒すまでの果てなき戦いの日々の中で、ディーンやハンター仲間と、写真を撮る機会がそんなにあったとは思えません。実家が焼失していることを思うと、先祖の写真も手には入らないでしょう。つまり、自宅に飾られていた写真は、ディーン亡き後に撮影した妻子や友人との写真です。
サムはきっと、大勢の親しい人たちに囲まれた天国へ行ったのではないでしょうか。亡くなったときの老いた姿で。
もちろんその中にはディーンも含まれています。
それでもその天国は、何もない山の中、という殺伐とした世界ではないはずです。

あのラストシーンは「ディーンの天国」であり――「我々視聴者にとっての彼らの天国」です。
たとえ殺伐としていても。他に誰もいなくても。
サムとディーンがいつまでも若い姿のまま、二人仲良く過ごしてほしいのです。


『スーパーナチュラル』は私が初めて見た海外ドラマでした。
もう十年以上にわたり追いかけてきたことになります。
それが終わってしまい……おそろしい喪失感にとらわれています。それでも、それぞれの人生を全うして、二人が天国へ行くエンディングは救いに満ちています。寂しいですが、これでいいんだと思えます。
「すばらしい二人の物語をありがとう」。心から、この言葉をスタッフに贈りたいです。

そして、この最終話で、シリーズ第1話の冒頭シーンでのディーンの気持ちが語られたので……むしょうに懐かしくなり、第1話を見直してみようかな、と思っています。
さすが、心憎い演出です。アメリカのドラマは本当にうまいなぁ。

【3回目視聴後の追記】
「サムは別の天国へ行ったんじゃないか」などと書いてしまいましたが……3回目に見直したところ、老いたサムが車庫のインパラに乗り込み、切なそうに思い出にひたる場面があります。
人生の後半で穏やかな幸福を手に入れたサムにとっても、やはり、兄と旅した日々はかけがえのない大切な時間だったんだな、と感じました。

だから、サムも天国で、若返って、兄とインパラに合流したのかもしれません。血と涙に彩られていても、やはりあの日々が至福!

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