「ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ」の感想。賛否が分かれるのは分かる。わたしは好き!
前作「ジョーカー」(2019)からの続編。
ラストシーンから約2年後、アーサー・フレック=ジョーカーはアーカム精神病院(ほぼ監獄)に収監されており、事件についての裁判が行われる話。
「ジョーカー」というキャラクターは様々な作品、コミックや映画の中でいろんなジョーカーが存在する。そのすべてを知ってる訳ではないけど、こののジョーカーは、既存のキャラクターのどれとも違う「異質なジョーカー」だった。
※以降ネタバレを含みますのでご注意ください。
ポイント1:実際に生まれてもおかしくないジョーカー
まず前作も本作も、いわゆる"バットマンにでてくるジョーカー"のイメージではなかった。
自分の中のジョーカーのイメージは、圧倒的なカリスマと、純粋な狂気によるヴィランの王様のような人物。やっぱダークナイトのヒース・レジャーが演じたジョーカーが一番イメージが強い。
でもアーサーは、もともとは気弱だし、脆弱だし、卑屈で陰キャ。精神的に病んでいて、妄想癖がある。そして、それは幼少期の虐待が原因となっている。
前作で、たまたま銃をプレゼントされ(押し付けられ)、たまたまピエロの格好をしているときに暴行され、それまでに溜まっていた様々な鬱憤に限界がきて、キレて反撃して殺してしまった。
この”たまたまピエロだったとき”っていうのがポイントで、それをメディアがそれをアイコン化し、それに同調した社会対する怒りを溜めてた人たちが、「勝手に作り上げたカリスマ」が本作のジョーカー。
そもそもアーサーに”ジョーカー”たる資質があったかと言われると、そうではない気がしていて、「キレて殺してしまった」ところだけ切り取れば、実際に起こり得る事件であることが怖い。(あとから知ったが、1作目は模倣犯も出たとか)
銃乱射事件だったり、放火事件だったり、たまに聞く悲惨な事件の犯人はどこかしら精神的に病んでいて、ある時限界を迎えて犯行に及んでしまったと考えると、本作のジョーカーの行動は理解できてしまう。
この理解できてしまうというのが、今までのジョーカーと違うところで、リアルで起きてもおかしくないと思ってしまうところが怖い。(まぁ犯行後にスッキリしたような振る舞いをしているところは、ジョーカーらしい狂気ではあるけど。)
ポイント2:ちゃんと”人間らしい心”を持ってるジョーカー=アーサー
元同僚のゲイリーに対してだけ、君だけは傷つけないと言ったりする。1作目でも殺さず逃がしている。
そしてゲイリーも、アーサーだけは自分をバカにしなかったと言い、ジョーカーではなくアーサーに語りかける。なぜこんなことをするの?という言葉に心を揺さぶられてるアーサーを見たとき、やっぱりアーサーは”ジョーカー”になれない、なりきれない優しい心を持ってしまってるなと思った。
また、リー(ハーレイ・クイン)に恋に落ちるところも、とても人間らしい。
いままでの不幸な境遇においてあまり人から必要とされてなかったアーサーは、自分を必要としてくれてるリーが現れたことで、コロっと恋に落ちる。
後半で、リーはアーサーに近づくために自分から入所し、アーサーに気に入られるために嘘をついていたという真実を知っても、それでもアーサーは最後までリーに恋をしてた。ほんとに単純な男の話。
そもそも幼少期に虐待され、"まともな男性"としての人生を送ってこなかったから、初めての恋で舞い上がってしまったんだろう。とても人間らしい。
ポイント3:ジョーカーを演じているアーサー=ジョーカー
前作の冒頭の看板回しをしている時や、小児病棟でピエロをやってる時、そしてジョーカーとしての装いをしているときは、動きも機敏で表情も作れている。妄想の中ではタップダンスも披露するし、タバコを吸って両手を広げている様子はとても堂々としている。
自分もちょっとガチな仮装をしたことがあるが、その時は気が大きく、というより見られることを意識して、その装いにマッチするような振る舞いをした経験がある。
つまり、見られることを意識すると、人はその期待に答えるように振る舞う。だから逆に、そんなところも普通の人間っぽい感じがしてしまう。
アーサーは、ジョーカーの装いをしなければ、ジョーカーにはなれない。だから最後の裁判ではジョーカーの装いで参加し、ジョーカーであれば、こう自己弁護するだろうという振る舞いをしようとしたんだとおもう。
でも実際、あまりうまく出来ていた感じはしなかった。証人としてゲイリーと会話してる時、途中で中断するかのように終わらせたのも、ジョーカーを演じ切れなかった(アーサーの面のほうが強くなった)感じがした。
そして判決がでるときに、「ジョーカーはいない」という話をする。結局、人々が作り上げた、求められてるジョーカー像にはなれないと気づいてしまった。ジョーカーとしての犯行後に、冷静にメイクを落とすのを思い出し、結局は"アーサーとして犯行を行った"という事実を自分でも受け入れてしまった。
人間はだれしも、社会的立場や家族としての立ち位置で、求められてる役割をある意味演じている。会社員として、父や母として、息子や娘として、夫や妻やパートナーとして、友人やライバルとして。そして精神的に病んでしまう人は、役割を演じることに疲れてしまう場合もあると思う。
だからこそ「自分探し」という言葉があったり、一人の時間を作って自分と向き合う時間が必要なんだと思う。
前作と本作を通して、アーサーはアーサーであることを取り戻すというお話だった。前編後編で、しっかり完結した感じがした。
レディ・ガガと音楽
あとから知ったが、監督はこの作品をミュージカルとは思ってないらしい。確かにミュージカルは歌でストーリーが進むが、本作は歌が挿入されてるだけで、歌のシーンの間はストーリーは進まない。あくまでその時のアーサーとリーの心情から歌を歌っているというだけ。
とはいえレディ・ガガが出る時点で、歌には超期待してた。相変わらずの癖のある美声。めちゃ好き。
そしてまさかの、ハーレイ・クインとして?カバーアルバムを出している。ここまでやるガガ様すごい。
ホアキンの歌は、アーサーというキャラクターとしての歌という意味ではアジのある歌だった。決して上手いとか美声とかではなく、しゃがれてて、ちょっと不安定な感じ。
使われてる楽曲はすべて既存の曲らしい。映画のために作られた曲なら、ストーリーにマッチして当たり前だけど、既存の曲を使って、その歌詞がストーリーにマッチするっていうのは、歌ありきでストーリーやセリフを考えているのか、それともストーリーありきであとから曲を探すのか。
どっちも大変そう。
ホアキン・フェニックスの役作りが今回もすごい
ホアキン・フェニックスは今回もすごい身体だった。どんだけ減量したんだろう痩せるところまではできても、あんなに骨ばった感じにできるものなんだろうか。すごすぎる。
前作から間に3本他の映画に出演してるから、その間の体重の増減はもちろんあるだろうし。身体への負担が想像を絶する。
残された謎、というか疑問
最後に面会に来たのは誰なんだろう。今更リーではないだろうし。
そして最後に「報復」で殺されたのは、何に対しての報復だったんだろう。
アーサーを慕っていて、看守の怒りを買って殺されてしまったあの青年の復讐?
それともジョーカー心棒者で、裏切られたと感じていたから?
アーサーを殺したあのサイコパスが、アーサーを睨んでたシーンがどこかにあったはず。どのシーンだったか思い出せない。
おわりに
全体として、自分はとっても楽しめた映画だった。
劇伴のチェロの音もすごく雰囲気があって好きだったし、アメコミのヴィランでこういう描き方がされた作品をいままで見たことがなかったから。決して気持ちの良い作品とは言えないけど、心に残るものがある作品だった。
追記:いろいろな解説動画を観て
今回の映画において、監督は前作と本作で「これはエンターテインメントだ」というメッセージを込めているという解説があった。前作で熱狂的なファンがでたり、模倣犯がでたりしたが、本作を見ることで目を醒ませと言っていると。
何より驚いたのは、本作において"酷評や論争が巻き起こる事"を想定して、それを示唆する描写を本作に組み込んでいるという。
つまり、ジョーカー1作目に熱狂した視聴者が、本作を見ることで憤りを感じ酷評するだろうというのを、本作のラストで「ジョーカーはいない」というアーサーの言葉を聞いて傍聴席から立ち上がる、リーを含むジョーカーの信奉者たちの心が離れているところですでに表現していると。
もしそこまで見越してこの作品を作っているとしたら、本当にすごいと思った。
そして、本作の考察、解説、レビューがいろんなところで盛り上がってるのがすごい。いろんな解釈があるし、作中の細かいところのトリビアもいろいろ教えてくれるし、映画本編だけでなく、その後もいろんな意味で楽しめる本作は、それこそ最高のエンターテイメントだなと思った。
追記2:Joker1作目のサントラが、すごくいい
これを聴きながら仕事をすると、とても緊張感を持って作業できる。めっちゃ捗る。しばらくはヘビロテになりそう。
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