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ふるさとが治安悪すぎてヤクザに軟禁された話


「手榴弾は拾わないでください」

僕の故郷の北九州というところはバカみたいに治安が悪いところです。暴力団、ヤンキー、ひったくり、スリ、性犯罪、飲酒運転の発生率でだいたい全国1位を総ナメにしていました。
今はだいぶマシになったらしいですが、僕が住んでいた頃はそれはそれはヒドイものでした。上京した理由も「ここから逃げたい」でしたし。

僕はあの町で生きるために「治安が悪いこと=オモシロイ」に脳内変換されるようになりました。嫌だったけど愉快でもある故郷の思い出たちを順不同で書いていこうと思います。


北九州市の治安悪すぎエピソードで有名なのは、壁に「手りゅう弾に注意!」というポスターが貼ってあったこと。「猛犬に注意」ぐらいの感覚でした。なんでも学校の花壇に手榴弾が落ちてたことがあったそうです。ひえ~!怖すぎ薬局!以下その画像↓

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コラ画像みたいですが、ちゃんと福岡県警がやってるんですよね。
火災訓練の「押さない、駆けない、喋らない」みたく「踏まない、触らない、蹴飛ばさない」の原則とか書いててフフッとなってしまいます。

ちなみに現在は手榴弾を拾うと10万円支給されるそうです。手榴弾を月に2個拾えば暮らせます。


他にも、近場の倉庫ではロケットランチャーが見つかりました。ロケットランチャー??バイオハザードの世界のオリジナル武器じゃないの???ゾンビと同じ架空の存在だと信じてましたが、調べたら対戦車用の兵器らしいです。なんでそんなものが閑静な住宅街に保管されてんだ!


さらに身近なところでは、実家の二軒となりに、近所迷惑上等の厄介者のおじさんが住んでて困ってたんですが、彼よりも厄介な組の人におしりを刺されて殺されました。怖かったけど、刺されどころが悪すぎて口角が上がってしまったのを覚えています。
我が家にも警察が事情聴取にきました。
おふくろが対応したんですが、「犯人を見たような、見ていないような気がします」などとあやふやな記憶で適当に喋って、捜査を攪乱していました。

地元の友人の進路も、少しでも悪そうなヤツはもれなくチンピラになったし、わりと悪かったヤツはヤクザになりました。フェイスブックで検索すると同級生が見つかりましたが、アイコンを大猿の刺青にしていたので友達申請は送れませんでした。


修羅の成人式

北九州の成人式は宇宙一荒れていると言われています。自分が参加した時は、グラサンをかけた長めのリーゼントヤンキーがたくさんいました。気志團でしか見たことないアレです。ド派手なハカマに身を包み、武将みたいに名前入りの旗を振り回して、乱痴気騒ぎをしていました。

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(※イメージ図)

「成人式は人生で一回きり。いかないと絶対後悔する!」という文言を真に受けた僕は、参加したことを後悔しました。
会場には、ド派手な袴、特攻服、花魁姿の女性たち、"今日から俺は!"の実写版みたいな方々がひしめいています。洋服の青山で買った黒スーツが浮いていました。就職説明会の真逆。下を向いて誰とも目を合わさないで帰るのが精一杯です。式には参加せず会場の入り口まで戻り、ほっと一息ついた時でした。

「アアアア”あ”あ”fsvdf%z$dbf!!!」

走る絶叫。びっくりして顔をあげると、ちょうど奇声をあげたての、ピンク色のリーゼントがキマッてるヤンキーと目が合いました。まずい、と目を逸らしましたが時すでに遅く、気づいたら気志團イズムの継承者たちが集団で僕の前を遮りました。

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(※イメージ図)


血の気が一瞬で引く。なぜか木刀を持っている人もいました。何をされるんだ。怖すぎて下を向き続けていたら、ピンクリーゼントのヤンキーが再び絶叫しました。


オイ!!!!グッチじゃねえか!!!!!!

驚愕。聞こえたのは僕の懐かしいあだ名。よく見ると見覚えがありました。彼らは全員小学校時代の友人でした

「久しぶりじゃん!!元気してんのかぁ!?」

「い、いや変わりすぎでしょ!殺されんるかと思ったわ」

「ギャハハ!!wwwグッチは変わっとらんなwwスーツ着ておっさんみてえだけど」

僕は私立の中高一貫校に通ったので、彼らと会うのは8年ぶりです。
ピンクリーゼントは少年野球をやってた頃の友人で、甲子園に行ってドラフト1位でプロ野球選手になると宣言していた男でした。8年を経て、彼はバットを木刀に持ち替えていました。
変貌ぶりにあっけにとられましたが、緊張の緩和なのか、懐かしい再会に心もほぐれ、意外にもあの頃みたいに言葉を交わすことができました。


最近、久しぶりにフェイスブックを覗いてみました。大猿の刺青をアイコンにしていた男が、遊んでる子供の写真に変えていてほっこりしました。家族がいるんだ。根から悪いヤツじゃなかったもんな。友達申請はまだ送れそうにありませんが。


ヤクザに軟禁された話

僕はヤクザに軟禁されたことがある。人生で幾度とない修羅場の一つで、上京しようと確信したエピソード。怖すぎて記憶がおぼろけなんですが、思い切って書いてみようと思います。登場人物の名前は全て仮名です。


あれは、大学浪人時代。
予備校に通うも成績が思うように伸びず、将来に不安を感じていた頃です。

予備校は元赤線地帯の繁華街にあります。歌舞伎町に比肩する、地元でもトップクラスに危ないエリアです。しかし毎日通うにつれ危機感は薄れていました。とくにその日は気が緩んでいました。

予備校からの帰り道、友人の松本くんと一緒に繁華街を歩いていました。話題は将来のことや、大学受験の話。どうしても暗いトーンになります。
受かれば勝ち組、落ちれば負け組、底辺。そんな風に自分を追い込み受験戦争に取り組んでいた僕は、鬱憤を周りへ悪口としてぶつけるイヤな人間でした。

「ねえ、もし俺たち受験に落ちたらどうなっちゃうのかなぁ。人生負け組かなぁ」

「そうねえ、不安だよねえ」

などと喋っていると、駐車場に寝ている二人のおじさんが目に入りました。そしてつい口を滑らせてしまった。
     
「受験失敗したらあの二人みたいになっちゃうのかねえ

この言葉を発した直後のことは覚えていなくて、気付けば怖すぎるおじさん二人に囲まれていた。恐怖で記憶が飛んでいる。松本くんに聞いたら僕の暴言を聞いた二人は飛びつくように接近してきたらしい。

「あ?俺たちのことか?俺たちは浮浪者じゃねえぞ」

まさか聞こえてるとは思わなかったが、そういえば僕はめちゃくちゃ声が大きいのでした。

おじさんはマキシマムザホルモンの亮君を老けさせたような怖い風貌です。マキシマムザ亮君がマイクを睨みつける時ぐらい僕にガンつけていました。

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(※イメージ図)

「も、も、申し訳ございません!あ、いや、ごめんなさい!」(訂正時にフランクな謝罪をするというミス)

「うるせえ。ちょっとおじさんたちとお話ししようや。ちょうど俺たちこれから飲みに行くからよ」

絶対にお話ししたくなかったけど、肩に腕を回されて、信じられないほど強い力で路地裏側に引っ張られる。その腕にはびっしり刺青が入っていました。友人の松本くんも連行されました。


「ああ、しゅんましぇん、ごめんなしゃい・・・」

僕はもう泣きそうでした。良くて半殺し、悪くて全殺しの目に合うんだから。僕らが騒ぐせいで、見物人が集まっていました。ちょうど場末の商店街の中でした。

「いいか、俺は怪しいやつじゃないぞ。ほら、その証拠に免許証も見せてやる、俺の名前は佐々木だ、見ろ」

騒がれるのは嫌なのか、なぜか免許証を見せつけられました。どう見ても目の前にいる男とは別人の写真が貼ってありましたが、スルーせざるを得ませんでした。彼は「佐々木」。

もう片方の男は名乗りませんでしたが、佐々木に「船長」と呼ばれていました。饒舌に喋る佐々木とは対照的に寡黙な男。お互い50代そこらに見えました。

連れていかれた先は寿司屋でした。自動ドアが開くと、佐々木をみた店員の女性は「お待ちください」と言い、逃げるようにバックヤードに向かいました。彼女は戻ってくるやいなや、命乞いをするような声で「店内は全て予約済みですので席がございません」と言いました。
佐々木は「そんなはずないだろ!」と怒鳴りました。確かにそんなはずは無いぐらい店内は広くてスカスカでしたし、チラホラいる客も予約をしてそうな感じではありませんでした。おそらくヤクザ丸出しの佐々木に対しての、店なりの防衛策に違いありません。
しかし彼女には店の平和がかかっています。怒鳴られても、「席がございません」の一辺倒でした。佐々木は「ほんとか?もうこの店は二度と来ねえ!」と言い捨てました。ヤクザ二人の機嫌が悪くなっていて、僕も店を恨みました。

次は、商店街の中の居酒屋に入りました。ちょうど帰ろうとして席を立つお客さんがいた為、店も防衛策を取れませんでした。ゆっくりと帰り支度をしている先客に向かって佐々木が「早く行けや」と一喝して、まだ片付けられていないテーブルに勝手にどっしり座りました。僕と松本くんも座らされました。そこからは佐々木の説教でした。

「まず、俺はこういうもんだ…」と佐々木が胸をはだけさせると、見事な猪鹿蝶のボディペイントが顔をのぞかせていました。刺青とは威嚇と自己紹介に使えるんだな、と思ったものです。

えんえんとお叱りと自慢話が続きました。帰れないどころかトイレにも行けず、下を向いて頷くしかありませんでした。
彼は「昔、一人で何人もの組の者を相手どって戦ったことがあり、全員殺した。お前らも簡単に殺せる」などと言ってました。怖すぎてそれ以外の武勇伝は覚えていません(松本くんにも聞きましたが、彼も失念していました)。

船長は昔は自分の船を持っていたこと、最近はフィリピンパブしか楽しみがない、などとボヤいていました。船長はマイペースでいくらか話が通じそうでした。

「おい、テメーらも酒を飲まねえか!」

と大声を出されましたが、未成年なので…とおそるおそる断りました。するとすんなり聞き分けてくれましたが、かわりに居酒屋のメニューを片っ端から注文しました。テーブルに乗り切らないぐらい膨大な量の料理を指差し「ぜんぶ食え」と言われました。シンプルに食わせまくるというヤクザらしい拷問。だからフォアグラは批判されるのです。

しかし僕は大食いなので、うめえうめえ!と宣いながら食べました。もぐもぐバクバク。すると、佐々木と船長がニヤニヤしはじめました。しだいには「こんなに食うやつがあるかよ!」などと笑い合っていました。どうやらデブ特有のコミカルな食いっぷりをみて気を良くしたようです。

しめた、と思いました。笑われよう。おどけてバカにされよう。それでご機嫌をとって許してもらおう。そこからは、意を決したようにボケ続けました。質より量で、道化になりきりました。友人の松本くんもそれに続きました。

ほとんど忘れましたが覚えているくだりは、佐々木が「俺の年収は2000万だ!」と豪語した時、聞きとれなかったフリをして「え!?2000円ですか?」とトボけたこと。佐々木の自慢にケチをつけるし、そもそもつまらなすぎるので賭けでしたが、彼は「バカかよww2000円ならこの料理も払えねえよ!w」と大笑いしました。お笑いにはチョロいヤクザでした。

それから僕と松本くんはヤクザを笑わせ続け、ご機嫌をとれるだけとりました。佐々木に見せてもらった鹿の刺青をセンスが良いと褒めてみたり、船長のフィリピンパブの武勇伝に大袈裟に驚いてみたり。命欲しさに「こんなうまい枝豆は初めて食べたっす!」と絶賛したりしました。

しばらくすると佐々木は酒が回って、明らかに陽気になっていました。船長は起きてるか寝てるのか分からないうつろな目で、「フィリピンパブはいいゾ…」しか呟かなくなっていました。光明が差した。これなら無事に帰れるかもしれない。

すっかり機嫌が良くなった佐々木は「お前たちは本当に面白いな!」などと褒めてくれました。「お笑い芸人になっちまえよ!」とも言います。お笑いチョロヤクザに何が分かるんだよ、と思いましたが満更でもない気持ちだったので、さらに冗談を言い続けました。
すると佐々木が急に真顔になり、さっきまでとは違う真剣そうな声色で言い放ちました。

「お前たちが芸人にならないのは勿体ない!」

「いやいや、ぼくらなんて〜」とヘラヘラ流しましたが、

「いや、お前たちは芸人になるべきだ。俺は芸能事務所と繋がりがあるから所属させてやる!」といい、船長に何か紙は無いか?などと聞いていました。
船長がもっていたメモ用紙を、佐々木が受け取り僕たちに差し出す。

「ここに名前と連絡先、住所を書け。念のため身分証も見せろ。俺の息がかかってる芸能プロダクションから連絡する。俺は〇〇(大御所芸能人S)とも仲が良いからな

話がヤバすぎる方向に進んでいることにここでようやく気が付きました。最悪のヘッドハンティングです。

住所と名前が知られたら、もし無事ここから帰れたとしても平穏な日常は戻ってこないでしょう。そしてヤクザの息がかかった芸能事務所は怖すぎる。昨今のことを考えるとなおそう思います。

大脳をフル稼働させました。とりあえず、身分証は持っていない旨を伝えました。芸能界も興味はあるが、やっていける自信はない。などと言いました。芸人になる気はない意思を伝えれば、機嫌を損ねて帰れなくなると思ったからです。

すると、それまで穏健派だった船長がイライラしたように言いました。

「こいつら俺たちから逃げようとしとるだけだ。身分証が無いなんてのも嘘だ、ここでぜんぶ吐き出させんと」

船長 急に怖すぎる、そして鋭い。身分証ではありませんが、予備校の学生証はカバンの中にありました。見られたら全て終わります。万事休す。しかし佐々木は言いました。

「いや、船長。俺はこいつらを信用する。おいお前ら!身分証が無いなら電話番号と名前と住所だけ書け!お前らも俺を裏切るなよ」

佐々木は僕たちを信じてくれたようです。船長もしぶしぶそれに了承し、メモ用紙を差し出しました。紙を受け取った僕はやむなく、当時めちゃくちゃ嫌いだった岡田くんのフルネームを名前欄に書きました。住所も岡田くんが住んでそうなところを想像して。松本くんも彼をいじめていた小杉の氏名を書きなぐっていました。

「よし、岡田と小杉!また今度電話する。今日は帰っていいぞ」と無事解放されました。店を出て佐々木が見えなくなったところから、全力疾走で逃げました。

当然ですが、その後彼らから連絡はありません。岡田小杉という漫才師も生まれませんでした。岡田、小杉、ごめん!

しかしあれから数年後、回りまわって僕は本当にお笑い芸人になってしまいました。もしいつか売れた暁に、佐々木と船長の極道コンビに見つかってしまうのではと、ちょっと背筋が冷たくなるのです。


おわり。

身に覚えのない慰謝料にあてます。