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お月様は 僕が好き

息子がまだ 3~4歳くらいの頃。

私は、フルタイムで働いていて、息子を保育園にお迎えに行くのは
18時ぎりぎりだった。

残業があると 延長保育をお願いすることもあった。


クリスマスが 近づいて 保育園の入り口には ツリーとぴかぴか光るイルミネーションが出される季節。

今日も お迎えが 遅くなってしまった。

すっかり日が落ちて あたりの暗闇に責められている気分になる。

罪悪感と焦りで 駐車場から教室の入り口まで小走り向かう。

遅番ルームの扉をあけながら

「遅くなって申し訳ありません。」

頭を下げる。

「おかえりなさい。りく君 ママ来たよ~。」

先生の優しい声で 私の罪悪感が すうっと 消えかかる。

 暗闇から 保育園のオレンジ色の明かりが
 息子を守ってくれていたみたいだった。

遅番ルームに残っている子供は 息子も含め3~4人

(よかった 最後じゃなかった)

この期に及んで まだ罪悪感を 完璧に消そうとする自分が嫌になる。

「ママ!」

息子の顔を見ると 一瞬で 私は息子の母親だということを実感する。

仕事をしていると、戦場にいる気分だ。 
いろんなものと戦って 無我夢中で 自分が何者かわからなくなる感覚に陥るのだ。

「お待たせ。遅くなっってごめんね」

「ママ 見てこれ!」

息子が嬉しそうに折り紙の工作を見せてくる。

(かわいい・・・) 
疲れて リアクションがとれない代わりに

「帰ろう」 
と 促し息子の頭をなぜる。

息子に靴を履かせて 手をつないで駐車場まで歩く。

息子が 歩きながら 後ろを何度も振り返り 私の手を引っ張る。

「ママ お月様って ボクのとこ ずっとついてくるよ~」

不思議そうな息子の顔が、あまりに可愛くて

「そうなんだ。なんでかな~?」

と尋ねると

「う~んと。 お月様って ボクのこと 大好きなんだ~!」

 得意そうに言う息子の言葉に

思わず涙がこぼれそうになった。

「そうだね。お月様はりくのこと大好きなんだね。」

「うん!」

「自分を大好な存在」がいるんだと 真っ直ぐに信じる息子がまぶしかった。

(良かった。)


私は 幼稚園が恐ろしかった。 
「波ちゃんは みんなと同じにできないね」
「波ちゃんは しゃべらないから、わからない」
「なんで 年長さんなのに おもらしするの?」

先生の言葉は 私をどんどん卑屈に 暗くした。

先生に嫌われるのは 私が変だからだ。
 変な私は、誰からも好かれるはずない
(祖父だけは別)と思っていた。

こんな 卑屈な幼少期を過ごした自分の子供が

「お月様は ボクのこと 大好きなんだね」と言えたことが
本当に嬉しかった。

きっと 息子は たくさん 愛を感じてくれている。

息子は保育園が好きだ。
きっと、保育園の先生達からもたくさん可愛がってもらっているのだろう。 

ありがたい。 

『自分は 愛されている。』 それさえ わかっていれば なんだって乗り越えられる。

私は 気が付くまで 相当 時間がかかった。
 いろいろ苦労したし いろんな人を傷つけた。


時は 令和。
 息子は 順調に 反抗期&思春期を迎えた。
 笑えないくらい 殺伐とし 本気で腹が立つ 日もある。
すっかり声変わりをして 体毛も濃くなった。着実に可愛いを卒業し、大人に近づいている。

「お月様・・・」なんて可愛いことも言わなくなった今、
お月様の話をしながら 帰った 日のこと今でも  時々思い出す。

確かに、本当に本当に可愛かった。 今思い出しても愛おしい。

あんたは 月にも好かれてるんだ!
自信もって幸せになるんだよ。





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