鈴木雅之 3rdアルバム「Dear Tears」(1989)レビュー

<<前作レビュー  目次に戻る↑↑  次作レビュー>>

●脱マニアック、王道セツナ系J-POP路線

1stアルバム、2ndアルバムとややマニアックなブラックミュージック路線が続いていた鈴木雅之氏。考えればグループ時代からブラックミュージック一直線だったが、3rdアルバムにしてついに方向性を変えてきた印象がある。15thシングル「もう涙はいらない」の大ヒットで確固たる地位を築く氏の現在に至るまでのアーティストイメージは、このアルバムから始まると言っても過言ではない。そのイメージとは黒人音楽ではなく、王道のセツナ系J-POPだった。やっぱこれだけ歌唱力があると日本人にしっかり馴染む歌謡な世界観の方が一般ウケが良かったか・・・。個人的には尖った方向性をもう少し続けて欲しかった気はする。

●気になった曲、布教したい曲の感想

01 別れの街
小田和正プロデュースによる先行シングル曲。過去の鈴木雅之氏からは考えられんくらいハードなJ-POP(笑)。それをここまで歌いこなせてしまうとは恐れ入る。泣きのメロディーが炸裂する王道の歌謡曲。有名シンガーに作曲を依頼した時あるあるの主張の強過ぎる小田氏のコーラスが印象的だ。ハードボイルド且つ渋すぎるホーンソロが唯一以前のアルバムの雰囲気があるな。「ラブ・ストーリーは突然に」の大ヒット前の曲である点に注意。その時期の小田和正氏が当時どういう立ち位置だったのかはよく分からないが、このタイミングでリード曲を彼に依頼した鈴木雅之サイドのこれからの販売戦略、思惑を如実に感じるぜ。やっぱやりたい事だけやっていようというより、ヒットを出そうとしていた時期だったのだろう。これは万人受けする曲調だと思う。

02 今日から・・・
優しく穏やかでマイルドなミディアムバラード。これもやはり以前ほどのマニアックさは無く、かなり王道J-POPである。ストレート過ぎてこの歌唱力が無ければ成立しないかも。逆に言うとこういうシンプルな曲でハイクオリティにしてしまうのは凄いぞ。とは言ってもサビの厚めの凝ったコーラスアレンジはグループ時代を彷彿とさせる雰囲気でかなりリッチだ。さすがに一筋縄ではいかないぜ。

03 くーな
作曲安部恭弘、編曲清水信之という黄金コンビによるオシャレナンバー。これはシティポップ的にも点数高いぞ!なんとも言えない切ないシンセリフから始まり、高低差のあるアクロバティックなAメロから盛り上がり過ぎないサビと緩急のついたアレンジ&凝ったコーラスで一気に聞かせる展開だ。飛び跳ねるようなビート、可愛らしいメロディー、一見曲には似つかわしくないヘヴィなボーカルが奇跡的なケミストリーを起こした!マニアにも一般人にも聞きどころがある名曲!もっと評価されるべき。

04 軽蔑
渋っっ!タバコ臭!ハードボイルド!個人的にはやっぱこういう曲調がすきだぁ~!このボーカルが最も生かされるワイルドで浮気でファンキーなナンバー。もうイントロのベースがカッコ良過ぎ!これだけでも十分なレベルだ(笑)。ファンキーだが淡々として愛想の無いAメロBメロから救いの無いどんよりしたサビへの流れが完璧過ぎる。映像浮かぶもんなぁ。な~んか曇り空でよぉ。渋い間奏のギターソロ後で聴けるBメロに注目。ここで自虐を含んだ「ヘン・・・」ていう笑いが凄いぞ!これは彼以外には表現できない世界観だ。ラストのフェイクパートが短いのが少し残念だな。しかもどの時代でも色褪せない、3連符の中抜きリズムを主体としたタイプのフェイク的歌唱!くぅ~!ここは皆もうちょい聴きてぇぜ?あっさり終わってしまう。しかし3曲目「くーな」でポップさを見せつけた安部恭弘氏の作曲という事に驚かされる。作曲スキル高ぇ~。

05 Lecture(聞かせて)
鈴木雅之氏作曲によるワイルドだがポップでアッパーな曲。前アルバム収録曲「Dry・Dry」で見せてくれた妙なキャッチーさがあるな。サビ頭の「きっかっせってほぉしいよ~」は口ずさみたくなる。この独特でキャッチーなセンスはあの有名曲「違う、そうじゃない」で完成を見る。このセンスは付け焼刃ではなかったのだ(笑)。

08 Heard Hunter
鈴木雅之氏作曲によるシリアスでファンキーなナンバー。この曲は大沢誉志幸プロデュースによる1stアルバムの頃にやっていた、デジタル・ソリッド・ファンクな雰囲気が多少あるぞ。しかし大幅に歌謡曲ナイズされていてしっかり起伏のあるメロディが展開される。

09 時おり僕は
ラストに相応しい優しい系バラード。ちょっぴりドゥーワップ感のあるレトロでアメリカなメロディだな。最後の転調はベタだが結局盛り上がっちまう。優しい曲調に反して意外と電子音ピコピコでソリッドなアレンジだがそこはさすが清水信之氏。冷たい雰囲気は全くないぞ。

<<前作レビュー  目次に戻る↑↑  次作レビュー>>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?