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恋愛体質:date

『和音と友也』


1.sending wolf

わたしが好きになった彼は、口うるさい兄貴に言わせると「ひとむかし前によくいた男」なのだそうだ。”送り狼”や”名残のキス”が当たり前の、女を女扱いしていると見せかけたマキュリストなのだ、と。

そして決まって「あいつはダメだ」と、頭ごなしにいう。

「ちょっとお兄ちゃん。やめてよ…?」
玄関先で運悪く、彼に送られて帰宅した姿を認めた重音かさねは、勢いよく運転席に向かって行き「オレの妹に手ぇ出すなよ」といつもの調子で言い放った。

「恥ずかしいからやめてって言ってるじゃん」
必死の制止も聞かず、毎回恥をかかせてくれる。
(彼にだけは子ども扱いされたくないのに~)

さっさと立ち去り玄関ドアに入っていく兄を追い、鍵を閉められないうちに入ってやろうとそのドアを掴む。
「今度はなに? なにがいけないの」
だが、いつもなら意地悪く施錠する兄がその時ばかりは普通に部屋に上がり込む姿に違和感を覚えた。
「ちょっと!」
普段の兄ならそこで、靴も脱がずに振り返り「挨拶がなってない」だの「態度が気に入らない」だのと第一印象をことごとく低レベルに批判しているところだ。なのに、
「あいつはお前には向かない」
そう、背中越しのひとことで終わらせた。
「はっ。彼のこと知りもしないくせに」
(むしろオトナな対応でしょうに)
和音かずねには、これまでにないほどの自信がった。
「よ~く知ってるよ」
「へ?」
そこで改めて、彼が兄と同い年だったということを思い出す。

「え、友だち? まさかね」
一瞬、タイマーでも掛けられたかのようにその場の空気が止まるほど驚いた。
「ちょっと、お兄ちゃん?」
慌てて靴を脱ぐ様に「靴揃えろよー」と、また母親みたいなことを言う兄に、
「わかってるわよ。それより、ねぇ、まさかの知り合い?」
そのあとを追う。
「まさか。オレはあいつほど軟派じゃないし、節操もある」
「それはどうなの? お兄ちゃんっていっつもそう」
皮肉にも取れる言葉を言い捨てバスルームに向かう兄を追う。
「いつもじゃない」
一瞬足を止めるが、お構いなしに脱衣所に入っていく兄。
「はぁ? よくいうよ」
だが、なにかがいつもと違う。

気のおさまらない和音は、脱衣所の扉を開け、
「今までだって、お兄ちゃんのせいでみんなコワがっちゃって、結果振られてるじゃん! お兄ちゃんがいたらあたし、彼氏どころか一生お嫁にも行けないよ」
「大げさな。大丈夫だ、いつかいい男に出会える」
「いつかじゃなくて、今出会いたいの! てか、出会ったの!」
「なんだ? 一緒に入るのか」
Tシャツをまくり上げる兄に、
「んなわけっ」
腹立ちまぎれにドアを閉め苛立たしさをあらわにする。
「もう~っ」
(絶対あきらめないからね)
「今までのやつらは根性がなかったんだろ」
扉の向こうから聞こえてくる声に、
「その顔見たらだれだって根性失せるわ!」
と、小さく答えた。

「なんなの、もうっ。結局だれでもダメじゃん」
確かに兄貴の言葉にも一理ある。
初対面で顔を合わせても満足に頭を下げることさえできなかったのは、中学で初めてできた彼だったか、初めて家に来た高校の先輩は、間違えて兄貴の部屋のドアを開けたにもかかわらずなにも言わず扉も中途半端なままだった。その都度「やばいな~」とは思った。けれどもそんな礼儀知らずばかりでもなかったはず、なのだ。
そもそも兄を知る人は、和音に寄り付きもしない。

「い~~~~っ」
和音は自分の両眉に爪を立て、言葉にならない声を発した。
だが。すぐに思い直し、
「でもユウヤは違うもん!」

開き直った。




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